活性『飢餓化』
活性……
一定時間毎に、やって来る魔物の活性上昇。
『凶暴化』
『高速化』
『高魔力化』
魔物によって活性の具合は違う……
「スモーク・ブリッジ・スパイダーの活性は『飢餓化』です」
どこに隠れていたのかポーターのマテオだ。
ただ、そんな事はどうでもいい。
「やばい、急がなきゃ奴ら喰われちまう」
こちらへ顔を向けたまま後ろへジワジワ下がり始めるスモーク・ブリッジ・スパイダー。
もちろん保存食としてグルグル巻きにしてある『赤き熱風』とヴァルトゼの元へ向かってるのだ。
何個もある目は血走り口からは唾液がボタボタと垂れている。
シュー
垂れた唾液が床を溶かし始めた。
「うるぁあぁぁ!」
ヴゥシャァアァァ!
ヴゥシャァアァァ!
何度やっても結果は同じだ。
活性化の影響か皆が相手をしているキャンドルマリオネットの動きも速くなったように感じる。
「もっと速く」
「もっと遠くから」
そうだ、弓矢なら……
これまで銛と剣に形状変化して来たウロボロス。
もしかしたら弓矢にも形状変化するかも知れない。
「やるしかない」
銛形態のウロボロスへ祈りと魔力を込める。
砂を撒き散らし二匹のウロボロスへ別れた……
問題はここからだ!
弓矢をイメージする。
その間もウロボロスは砂を撒き散らしながら中空で、うねっている。
「何か、するのか?」
「すいません黙って集中させてやって下さい」
ファンデラの問い掛けをイドリーが制止している。
皆が待ってる。
これが出来なきゃ、最悪みんなが喰われる可能性だってあるんだ。
なってくれ弓矢に!
明らかに回転が変化し絡み合い出したウロボロス。
撒き散らしていた砂が落ちきった時、そこに浮いていたのは……
弓矢……いや、矢だけだった。
「くそ、何でだよ!」
「いや、行けるぞアーモン」
イドリーの声に振り返るとペカンが唇を噛み締め真っ直ぐ見つめていた。
「託したぞ、ペカン!」
「やるよー、仕留めるです」
鋭く美しく巻き付いたウロボロスの矢をペカンに渡した。
「すぅ……」
静かに息を吸うペカン。
ウロボロスの矢をつがえ……射ろうとした、その時!
ウロボロスの矢は砂を撒き散らし暴れ出した。
「なによー」
「きっと主を認識してるんだぜ」
「わかった俺が射る!」
それは無謀だと弓経験のあるファンデラが言う。
弓は、そんな甘いものではないと……
それでも俺しか認識しないウロボロスを射るには俺がやるしかないだろう!
ペカンの弓を借りてウロボロスをつがえる。
やはり暴れる事なく矢の形態を保っている。
慎重にスモーク・ブリッジ・スパイダーを狙い……
「射る!」
ダメだった……
矢は弧を描き遥か上へと飛んでいった。
皆の溜め息が聞こえるようだった。
幸いだったのは矢の軌跡を描くように光が繋がり、その光を手繰ると矢が戻って来た事だろう。
「やだー、あんたー、アレやれば良いんでねー」
「そうか! アレか! アーモン手を添えてはどうか?」
かつてカイに弓を教えた際に後ろから抱くように手を添えて矢を射った事があるのだそうだ。
試すしかない!
「急がないと本当にヤバいぜ」
スモーク・ブリッジ・スパイダーは今、正に補食せんと『赤き熱風』とヴァルトゼへ迫っていた。
先ほどと同じように矢をつがえるペカン。
それを後ろから邪魔しないように、ウロボロスへ俺がいる事を伝えるように手を添える。
端から見ればペカンを俺が優しく抱いてるようにしか見えないだろうが今は、そんな事はどうでもよかった。
「すう……」
千里眼でスモーク・ブリッジ・スパイダーの顔に照準が……合った。
かなり離れているし飢餓化して我を忘れているからか、こちらに気付いてもいない。
今だ!
シュッ。
放たれたウロボロスの銀色の矢は銀色の軌跡を描きながら真っ直ぐ……
スモーク・ブリッジ・スパイダーの頭へ的中した。
ヴゥシャァアァァ!
矢の速度を物語るように矢が刺さった直後にスモーク・ブリッジ・スパイダーは煙の糸を吐いたのだった。
煙の糸で防ごうとしたが間に合わなかったのだ。
そして息絶え、煙の糸『スモークシルク』で出来た蜘蛛の巣は落ちキャンドルマリオネットは活動停止しキャンドルの火は消失した。
ランタンラミーを斬った為にトラップ階層と化していた階層は元へと戻っていった。
「で、いつまで、そうしてるつもり? アーモン」
「私は、いいよー、です」
「こりゃ、また増えちゃったぜ」
「……強……敵」




