イドリーとペカンの発動
「……リバー……シールド」
川の民の居住区を空の川がバリアのように守っていたが、その空の川の様なシールド。
それがクコの防御魔法リバーシールドだった。
「一生懸命なのは分かるんだがペカンそろそろ代わらんか?」
「もう少しよー、ファンデラ待ってです」
「クコは魔力的に大丈夫か?」
「……まだ……大丈夫」
ペカンの弓攻撃は当たらない。
クコの防御魔法がなければ、とっくに倒れているだろう。
(攻撃の時に千里眼が不安定……見るだけ見てみるか?)
戦っているヴァルトゼやプトレマに影響が出ないようペカンの魔眼が俺にだけ影響するように金環を発動した。
ここまで緻密なコントロールは初めてなのでダメそうなら、すぐ閉じよう。
「なるほど、これじゃ当たらないわな」
「金環を発動してるのか? アーモン」
「はい、見ますか?」
結局イドリー、ラッカ、ピスタと共に金環で見学中である。
ペカンは攻撃の際に千里眼がチラチラ発動して『赤き熱風』や俺達の様子がパッパッと切り替わり見える状態だった。
ようするに仲間の様子が気になって攻撃へ集中出来てないのだ。
「ヒーラーとしては、むしろ優秀な思考回路よね」
「イドリーに似てるぜ」
「なっ?」
ピスタによるとペカンとイドリーは似てるんだと……
確かに生真面目で攻撃の際もカシューや俺を守る事を常に意識している。
そして、たまに暴走気味な面もある。
「本当だ!」
「全然、分かりません」
イドリーは納得いかない様子だが、まあ良い。
問題は、それが分かったところで解決方法が思い浮かばない事だ。
「魔力視なら助けにはなるかな?」
「それでも見える範囲が把握出来るだけだぜ、あの性格だと無意識に切り替えるぜ、きっと」
確かにそうだろう、ピスタの解析眼でも同じ事だ。
今までピンチの時には魔眼で乗り越えて来たが今回ばかりはどうにもなりそうになかった。
イドリーは考えていた、自分に似てる?
だから妙にペカンに拘ったのだろうか?
もし自分が千里眼を使えたとしたら果たしてカシューやアーモンを見ずに攻撃だけに集中出来るだろうか?
いや、絶対に出来ない。
むしろフル活用して守ろうとするだろう。
「同じになっていた……のか?」
いや、違う!
自分なら、もっと使いこなせるようになったはず。
どんな事をしてでも使いながら攻撃出来るようになっただろう……ん?
「今、それをやってる最中だとしたら?」
「イドリーもしかして自分も同じ事するだろうって考えてる?」
ラッカの言葉に、ハッとした。
大事な時はいつも、この少女に助けられている?
「全部1人で出来るならパーティなんて必要なくない? ツノシャチの時もウルゲ達の時も、みんなで協力したから倒せたんじゃない?」
アーモンも続いて言う。
「ウロボロスもだな、みんなの祈りがなきゃ俺死んでたと思う」
「ですが……いや、そうですね」
そうだ頼り頼られる仲間、安心して背中を預けられるのが真の冒険者パーティである。
ただの生活費稼ぎで組んだパーティ、本来は保護対象とはいえ彼らとの付き合いはもう仕事だけではない。
年長者として護衛として最低限の矜持は守りつつ任せる事、頼る事をしなければ彼らの成長もない。
それでは、いずれ大隊に狙われれば終わる。
とっくに気付いていたのだ。
大きく息を吸うと……
「ペカンー! 仲間を信じなさい!」
自分達は大丈夫だ。
自分の身は守れるし逆にペカンを守るつもりで、ここにいる。
1人で全部は出来ない。
攻撃したいなら攻撃に集中しろ。
守りたいなら守りに集中しろ。
どうしても両方やりたいなら、それでも良い。
ただ……
「仲間を信じてサポートさせなさい」
動きの止まるペカン。
考えを巡らせているのだろう……
そして!
「なによー、そんなの初めて言われたです」
「よし行きましょう! ファンデラさん、すいません私たちに、やらせて下さい」
「ああ、いざと言うときは任せろ」
するとアーモンが……
「じゃあヴァルトゼ、プトレマさん視界が変わるんで嫌だったら言って下さい! 範囲から外すんで」
ラッカの山吹色の瞳が輝く。
「魔力視を発動」
ピスタの赤眼が輝く。
「解析眼を発動だぜ」
アーモンの瞳の金環が輝く。
「金環を発動」
そしてイドリーとペカンは……
(仲間を信じる気持ちを発動)
ですかね? と思うイドリーであった。




