癒せずのペカン
「ランタンラミーを斬っただと?」
「戻って来た冒険者達は、そう言っていました」
リャマ系獣人である『翡翠の爪』のポーター、マテオはポーターでもあり情報屋でもあるらしい。
「厄介な事を……」
ランタンラミーは舌を出したランタン型の魔物との事だ。
たまに階層の入口に、ぶら下がってニタニタしているが特に害のない魔物なので触らなければ問題ない。
ただ、うっかり倒してしまったりすると、それから先の階層がしばらくトラップだらけになり中ボスのような魔物を倒すまで続くのだと……
普通なら中層以上を攻める実力のパーティならば知っていて当たり前の知識だが彼ら『赤き熱風』は知らずに切ってしまったのだろう。
「蜘蛛型ボスみたいよー、捕まってるです」
「次に魔物の活性が上がるのは?」
「半日ってとこさね」
半日経過すれば彼らは終わりだ。
正直それでもいいやと思ってる。
だがペカンの胸の内で何か問題があるのだろう。
助けて、それが解決するのならば手伝うのが仲間だ。
「さて制限時間は分かりました。ですが、これだけの人間が結果的に動いたのです。理由を言いなさいペカン」
今回のペカンの行動についてイドリーは積極的に見える。
なぜだろう? ペカンは長命のエルフ、若く見えるがイドリーと年齢が変わらない可能性もある? もしかしてそうなのか? イドリー!
「なによー、わかったです」
『癒せずのペカン』
それが、かつてのペカンの呼び名だったそう。
ヒーラーでありながら弓の腕が良すぎる為にヒーラーでなく攻撃要員としてパーティに誘われる事が多かった為についた誉れ高き名だ。
ただし攻撃要員としての参加にペカンは条件を付けていた。
一定距離からの弓攻撃……スナイパー的な役割だ。
ある時に頼み込まれ仕方なく組んだ駆け出しの冒険者は条件を守らなかった。
ピンチになれば百発百中の美人エルフが助けてくれるだろうと甘く見ていた。
打ち合わせを無視し、遠距離からでは攻撃出来ないルートから敵に迫ったのだ。
もちろんペカンは即座に移動し敵の間近で攻撃参加した。
だが、しかし千里眼あればこその百発百中は近距離では無残なものだった。
結果パーティは半壊……駆けつけた別パーティに救われたもののリーダーは死亡。
街へ戻る間もペカンは遺体に回復魔法を何度も唱え続けていたそうだ。
その時の後悔から近距離攻撃に拘って……
誉れ高き呼び名『癒せずのペカン』が蔑すんだ呼び名『射れずのペカン』へと変わってしまったと言う事だった。
「その話は知っておる、前も言ったがペカンが気にする事ではない! 冒険者たるもの自己責任だろう」
ヴァルトゼ達は知っていたようだ。
「ヒーラーなのに攻撃要員での参加を断らなかった自己責任です……よー」
「分かりました。では今回の彼ら赤き熱風を助けたら、その自己責任を終わりにしましょう」
「そうさね、どこかでケリを付けなきゃキリがないさ」
イドリーとミュラーの言う事はもっともだ。
「わかった……よー、です」
その入口には切られたランタンラミーがぶら下がっていた。
舌を出したまま……
「提灯の妖怪みたいだな」
「何だい、そのチョウチっては?」
ミュラーの質問だが、いつものパターンでラッカに、ほっておけと言われ進んで行く。
ガチャ!
ヴァルトゼが何か踏んだらしい。
ヴァン! ヴァヴァン!
上下左右から直方体の岩が飛び出して来た。
クコの防御魔法がなければ危なかった。
「良い防御魔法であるな! 川の少女よ」
(なあなあヴァルトゼ、お前さんがトリガー踏んだんだよな?)
「やーだ、ハードロックだーよ」
ココンによるとハードロックと言う仕掛けらしい。
その後は飛んで来た岩が弾けるパンクロックに臭い匂いが弾けるスカパンク。
めちゃ重いヘビーメタルと連続で前の世界で耳にしていた懐かしい響きのトラップが続いた。
そして、そのトラップのトリガーほとんどをヴァルトゼが踏んだ。
呆れたが俺達も何も出来ずクコとカイの防御魔法任せだ……
もうね、する事もないのでエアギターでも弾こうかと思ったよ。
「なあなあココン? デスメタルってのは、ないよね」
「やーだ、そんなのなーい」
安心したのも束の間。
頭を上下させて植物の大群が迫ってきた。
「やだーヘドバンツリーだー」
やっと出番だ。
腰のウロボロスを解放。
砂を撒き散らしながら二匹の蛇は巻き付き剣へと姿を変えた。




