アルパカ? リャマです
「ペカン待つんだ!」
予想以上の大声でイドリーが叫んだので驚いた。
当然ペカンも気付いて振り返ったし周りの冒険者達も一斉にこちらを見ていた。
寝ていた者も起き出して寝床である迷宮蚕の繭から顔を覗かせていた。
元々、起きていた者達も遠巻きに眺めヒソヒソと話している。
「何で、いるのよー? 困るです」
「いくらペカンでも1人じゃ危険です。それに彼らの実力ではもう……」
「まだ生きてるよー、です」
「そんな事が分かるわけないでしょう!」
「いや待つんだぜ! ペカンもしかして魔眼だぜ」
ピスタの言う通りペカンの青色の瞳が輝いていた。
薄暗いダンジョンの中で見る瞳は透き通るような美しさでペカンを少し大人っぽく見せていた。
「千里眼?」
「はい、でも攻撃すると不安定よー、です」
「だから攻撃に、こだわってたの?」
「ごめんよー、今は急いで行くです」
ペカンを1人で行かす訳にはいかない。
とは言え俺達を連れて行きたくないイドリーは判断に苦しんでいる。
「イドリー俺達じゃ無理なのかな?」
「……もしもの時わたくしはアーモン1人を守る事になります。それでアーモンは平気ですか?」
テーベの鳥籠のイドリー、テーベの小箱のメルカとの約束で俺を守る立場……
当然の言葉だ。
そしてこれを言われると俺は何も言えない。
俺だけが守られ目の前で仲間が死んでいくのを見る可能性……無理だ。
その時、近づいて来る人影があった。
「赤き……えーっと鼠の髭の彼らの所へ行くんですか?」
「あなたは?」
「翡翠の爪のポーター、マテオと申します」
若い獣人の男性だった。
「アルパカ?」
「リャマです」
即答!
『翡翠の爪』と言えば現在、蜂の巣ダンジョン攻略の上で先頭を攻めているパーティのはず。
「それで? 何の用だ」
彼らが、初心者の『赤っ恥鼠』達を、からかった為こうなってるからか? イドリーらしくない苛ついた物言いだ。
「もし彼らを救出に行くのであれば協力したいと思っております……多少責任を感じておりまして」
『翡翠の爪』が協力してくれるなら百人力だ、そう思ったのだが彼らをバカにしたのはポーターである、このリャマ系獣人マテオなのだという。
よって協力したいのはマテオだけなのだと……ポーターが協力してくれても役に立ちはしないだろう。
「人数は多いに越した事はないですが、あなたが離れる間、パーティは問題ないのですか?」
「ありがとうございます! ちょっと聞いてくるので少しだけ待って下さい」
そう言うとタカタカと駆けて行った。
ちと可愛いのぉ、オスだけど。
さて問題は元に戻ってしまった……
「乗り掛かった船だ、俺とミュラーは同行しよう。お前さんらが行くなら出来る範囲で援護もするが……」
「正直もう少し人数が欲しいさねぇ」
すると周りがザワザワと騒ぎ始めた。
大きな男たちが4人こちらへ近付いて来る。
きっと『翡翠の爪』なのだろう。
憧れか? 畏れか? 周囲の冒険者達が羨望の眼差しを向けつつヒソヒソと話している。
当然だろう現在、蜂の巣ダンジョンの最先部までを先導して攻略して来たのだから……
「えっ?」
「やーだ、何でいるだよ、あんたたーち」
「金環の少年じゃないか! このダンジョンの加護は『重ねる』だぞ」
「翡翠の爪?」
大きな男と思ったのは確かに大きな美男ヴァルトゼとファンデラ、そして横に大きな女ココンとカイだった。
(何かゴメンよココン、カイ)
上級者パーティ『翡翠の爪』とはヴァルトゼ達だったのだ。
そして……
「どうしてプトレマまで一緒にいるのだ?」
「宿が隣りなんだよ、お前らこそ何の関係だ?」
プトレマ達『灰色の天秤』とヴァルトゼ達『翡翠の爪』は、この界隈のダンジョンでは知らない者はいない上級者パーティらしかった。
最初からヒソヒソ話されていたのはイドリーの大声のせいではなく『灰色の天秤』が見慣れないパーティと一緒にいたからだったのだ。
「こんだけ、いりゃ大丈夫だろ皆で行こうや」
「待て、なぜ俺達が行かねばならん?」
プトレマの言葉にヴァルトゼが喧嘩腰に返す。
「お前らのポーターがバカにしたのが原因だろうが! 責任とれや」
「知った事か! 冒険者は自己責任だぞ」
あれ? もしかしてヴァルトゼ達とプトレマさん達って、ちと仲が悪いのか?
「あんたー、ラッカ達に何かあったら王女に、わたすが叱られるー」
「行くぞ!」
あれだけ揉めてたのにココンとカイの一言で速攻、手の平返しだ。
ヴァルトゼ、ファンデラ、美男の2人が何故こうもポッチャリ花の民に振り回されるのか?
「やーだ、あんた格好いいーだ」
こうして急造パーティながら蜂の巣ダンジョン最強と思われる混成パーティに俺達を加えて残念パーティ『赤き熱風』を救出に向かう事になった。




