シスターメルカの薬剤生成室
「頼むよマルテル」
「でもシスターメルカにバレたら……」
ぽっちゃりドワーフのマルテルが治癒班のシスターであるメルカの元で薬剤生成の手伝いをしている事は知っていた。
この世界では基本ドワーフという種族は武器に限らず物作りに長けている。
シスターメルカの元で手伝うのはマルテルだけではない。
数名の修道士が薬剤生成や治癒室の手伝いをしている。
日課や週課として従事する修道士もいるが中にはマルテルの様に種族特性を生かして班付きとなる者もいる。
「魔石は用意するからさ、生成だけしてくれれば良いんだよ」
「でも……」
マルテルが渋るのは当然だ。
シスターメルカの薬剤生成室で隠れて解毒薬を生成しろなんて無茶な話だ。
だが、しかし俺には秘策が用意してあった。
「もし手伝ってくれたら異国のパンの話をしても良いんだが、カレーパンってのがあってな、油で揚げてあるパンでな……」
「何それ! 油で揚げたパンなんて聞いた事ないよ」
予想通り食いついてきたマルテル。
もう一押しだ。
「外はカリカリで中のカレーがジューシーで……」
「聞いてるだけで涎が……分かったから、手伝うから、も、もっと教えて」
パンの事となると見境がなくなるパン好きドワーフのマルテルはチョロかった。
なにせパンの為に魔眼を暴走させた程だ。
「あらあら、今日の魔石は大きめね」
のんびり口調の兎型獣人のシスターメルカ。
その口調から分かる通り、のんびりした性格で修道士からも人気がある。
兎耳がロップイヤー、いわゆる垂れ耳なのも和やかな印象を与えているのだろう。
本来なら薬草で作られる解毒薬や回復薬だが、それらが貴重な砂漠では砕かれた魔石、屑魔石を生成して作成している。
性能は薬草で作られた物より高く、砂漠を行く旅商人逹はスコーピオ対策や販売目的で購入していく。
こちらも水やオマモリに並ぶ人気の商品だ。
シングルバットの魔石は元々が小さ目だ。
それをさらに砕いておいたが、まだ大きかった様だ。
「そ、そうですか? 気のせいでは? パン屑だって大きい日が、ありますしハハハ」
「そうね、マルテルはパンが好きねウフフ」
マルテルの下手くそな、ごまかしにも気が付かないのがシスターメルカの可愛いところである。
いわゆる天然だろう。
ただ、その回復魔法の腕は修道院随一である。