魔法民族の街
どうやって空の川を越えて戻るのかと思っていたら答えは下流にあった。
「あの滝に飛び込むの?」
「……そう」
空を流れる川の先が滝になっていた。
滝と言っても流れ落ちる先はさらに上空だ。
流れるのも注ぐのも上下逆さま。
横にある岩山に削られた階段を登り滝の近くまで行くと……
「……お手本……先に行く」
クコが飛び込んだ。
丘の民達は何度も利用してるそうでヴァルトゼとファンデラも余裕だ。
「やーだ、わたすは、あんたに掴まって落ちーる」
「ハハ、可愛いぞココン来い!」
ラブラブで飛び込むイケメンと和みキャラ。
ファンデラとカイも同じく抱きついて飛び込んで行った。
「アーモン僕も掴まって落ちるぞ」
「ピスタずるいわ私も掴まる」
俺は両側を挟まれて飛び込んだと言うか引きずり落とされた。
「いいんですが……何だかね……ワォーン!」
最後1人残されたドーベルマン顔の獣人イドリーが遠吠えをした事など誰も知る由もなかった。
そんなこんなで俺達は丘の民のエリアへ遅れに遅れて辿り着いた。
「こんなに栄えた街だなんて予想外だわ」
「ようこそ魔法民族の街ハルティスへ、ハリラタ国内では1番栄えているんだ」
ラパと同程度の街の規模だろう。
違うのは丘の民と言うだけあって小高い丘の上に街が広がっている。
雰囲気としては日本の新興住宅地とかニュータウンとかの感じだ。
ラパはドワーフ達が好き勝手に手を加えて独特の町並みだったがハルティスは普通の街……
この世界の一般的な街の栄えてる版だった。
「何か産業でも、あるのですか?」
「いや、すべての民族が自由に往来出来る唯一の街だから貿易の末に栄えた感じだ」
意外だった。
その手の商売的なのは谷の民の分野だと思っていたが……
「いえ、間違ってないぞ。商人は谷の民が多い」
「では丘の民の収入源は?」
「色々だ。魔法民族だからな」
なるほど、これだけの街の規模になると家賃収入に頼る人。
魔法で治療屋をする人。
魔法で建築業をする人それぞれなのだ。
そして遂に……
「ギ、ギルドだぁ!」
「アーモンは初めてでしたか? 冒険者ギルド」
「です、です」
「僕も初めて見るな、面白そうだぜ」
異世界の本丸。
冒険者ギルドだ。
高まるのは当たり前だった。
が……
「気持ちは分かりますが、もう目立つのは勘弁して下さい。追われてるんですよ我々は」
イドリーに言われて諦めた。
前回プロレスで我を忘れた反省もある。
「はい、分かりました」
ヴァルトゼとファンデラがデスリエ王女の客ならば代表に紹介すると言い出したが……
「これ以上、デスリエ王女に世話を、かけたくないので出来れば内緒にして下さい」
とイドリーが真面目全開で頼んだ為、宿を探す事になった。
案内役のココンとカイとは一旦お別れだ。
「すみません満室なんですよ」
「そんな、もう5軒目なんですよ」
「特殊なダンジョンが見つかったとかで急に増えてしまったんです」
適度な宿は軒並み満室だった。
残るは高級な宿……最悪野宿になるのだろうか?
「……前に……泊まった場所行ってみる」
クコの案内で街はずれにある寂れた場所へとたどり着いた。
そこは宿ではなく小さな集落のように見えるが入り口にある小屋に婆さんがいて受付のようになっていた。
良く言えばアメリカのモーテルタイプ、悪く言えば日本の田舎のラブホテルだろうか?
いや、それでも良く言ってるくらいのボロさだった。
「しゃ、しゃ、しゃ、お泊りかえ?」
「ええ、連泊したいんですが男性用と女性用の2部屋空いてますか?」
「しゃ、しゃ、しゃ、残り1棟やけ、一緒でええかい」
男女一緒になったが広さ的には問題なさそうだ。
ボロいが普通に暮らせる仕様の家だったので
皆で一緒に泊まる事になった。
なにより格安だった。
ただ……
(受付の婆ちゃん笑い方が不気味だよ)
「お前さんらもダンジョンかい?」
隣の家に泊まっている獣人が話しかけて来た。
「いえ違うんですが何なんですか? そのダンジョンって?」
「おっと知らねえのかい? 蜂の巣だよ」
何でもタイガービーの巨大な蜂の巣が見つかった。
ここまでは良くある事だが、その蜂の巣が地中で何個も何個も繋がっていたらしい。
タイガービーは一定周期で巣を作り変える習性らしく古い巣を捨てては近くに新しい巣を作った結果なのだろうと言う話だった。
「何で、そんなになるまで見つからなかったんですか?」
「おう、何でもな地下の空間に長年作り続けてた巣が地下空間が一杯になって遂には地上に、はみ出したんじゃねえかって話だ」
そして見つかった時には既に地下部分は魔物の巣窟になっていた。
つまりダンジョン化していたのだそうだった。
「なるほど、それでダンジョンなんですね」
「ああ、相当深いらしいぞ」




