戦士入場
とうとうウロボロスを賭けた6人マッチの日がやって来た。
「加護も使えるようになりましたね」
「ですが……相手の攻撃を受けきるのがプロレスの美学ですので流すばかりは避けたいです」
「はぁ、わたくしにはプロ何とかの事は理解できませんが……風車も使えるようになりましたし頑張りましょう」
「はい、ありがとうございました」
毎日、毎日イドリーを相手に種族スキルと体術を磨いた。
たまにピスタが来て対女の子の模擬戦も行った。
限られた時間だったが出来る範囲の準備はしたつもりだ。
「なぜココンとカイが闘う必要があるのだ? 川の民の種族スキルあればこその闘技だろうに」
「あんたー、女の勘だー」
ファンデラの質問に答えるカイ。
納得するはずのない答えである。
「女の勘……そうか、なら仕方ないな」
納得したらしい……
毎晩行われる闘技を見るかぎり技の応酬はショー的なもので種族スキル風車こそが闘技の決着をつけるもの。
それが川の民、つまり金剛種族の闘技本来の姿のようだ。
ココン、カイはもちろんヒューマンベースのラッカ達には使えないので餌食にされるだけのはずだ。
「やりようは、あるわ」
「クックック、丘の民も花の民も面白いのぉ」
ムキムキ爺さん達は楽しくて仕方がないようである。
いつものごとくランバージャックデスマッチ的に人で囲まれた闘技場。
ロープの代わりなので俺はロープ男と呼ぶようになっていた。
特別な一戦を見ようと大勢の人が集まっている。
噂を聞きつけた丘の民も大勢が駆けつけたらしく雰囲気の違うテーブルが、いくつか見える。
美男美女のエルフグループは華やかで美しい。
年末の格闘技特番で時々映るモデル達のようだ。
「これは、これは、よくぞ……」
川の民の族長も挨拶に忙しそうだ。
俺達には問答無用で偉そうにしていたのに丘の民に対しては、めっちゃ腰が低い。
親切な丘の民に、そこまで畏まらなくてもと思うのだが……
「これより第1回ウロボロス王座戦を始めます戦士入場!」
(何だよ第1回って何回もやらねーぞ、勝手に決めてんじゃねえぞ)
「まずは花の民から花属性のココン~」
「続いても花の民から星属性のカイ~」
丘の民達の席から大歓声だ。
あ、あと川の民の族長も、めっちゃ拍手してる……
「謎の雷マスク、ライトニングラッカ~」
ムキムキ爺さん達から大歓声だ。
(ライトニングラッカって何だよ)
「掟破りのマスク、クコ~」
パラパラと拍手……
「川の民の現王者アルベルト~」
もちろん会場大歓声である。
「謎のウロボロス王者、金環のアーモン~」
ピスタとイドリー大拍手……2人だけである。
(くそ、一番人気ない……それならいっそ)
「おい! こるぁ、言わせてもらうぞ勝手に俺のウロボロスを賭けやがって俺が勝ったら何が貰えるんだ」
大ブーイングである。
(俺ヒールだな、これ)
「防衛とは、そう言うものだろうが、おるぁ」
王者の言う事は、もっともだ。
だが知った事か!
「うるせーお前の王座も賭けろ、こるぁ!」
「いいだろう」
(あれ、あっさりしてんな……)
その時クコが後ろから小声で話し掛けてきた。
「川の民の王者……毎晩闘う栄誉……」
「え? マジ? それだけ?」
「……マジ」
(いらねー)
「あ、やっぱり別の……」
カーン!
開始のゴングが鳴らされた。
会場は大歓声に包まれた。
「あ、焦んなよ……」
(用意していたプロレス名言集の一つを完全に使うタイミングを逃してしまった)
闘技場の中央では王者が片手を上げて構える。
よしよし手四つの力比べをしようってんだな!
と、思って進むとラッカが組んでしまった。
「はっ!」
「ふっ!」
俺がやるばすだった力比べからの関節の取り合い……
呆然としていたら力負けし始めたラッカの後ろからココンが加勢。
王者の右手にラッカ。
左手にココン。
それでも王者が押勝つと……ココンが関節の取り合いに入りラッカがエスケープ。
ココンが捕まり始めたところでカイが介入。
と、言っても蹴りなどではなく、あくまでも関節の取り合い外し合いに参加だ。
「えーっと……今のところ、ええ試合ですな」
「……基本……素晴らしい」
クコさんや、話してる場合じゃないですよ。
我々も参加中なのですが?
それでも場の空気を壊すには、まだ早いと感じ俺とクコは動かずにいた。
ラッカが再度、入って来たところで3人は押されつつもゆっくりと王者を押しつつ立ち上がった。
「っしゃー!」
ラッカとカイの強烈なチョップが王者の胸に炸裂した。
「何だそりゃ! 打って来いやぁ」
王者早くもヒートアップか?
ラッカ、カイ、ココンの順にチョップを乱れ打って行く。
「らー」
王者が一閃ラリアットで3人まとめて打ち倒した!
「さて、出番だな」




