シングルバット
「そっち任せた」
「オッケー! 走れ雷ライトニング」
杖を持ったのが良かったのか焦らず魔法が発動出来るようになったラッカ。
そのお陰で安定して進める様になって来た。
「またシングルバットだね」
「飽きて来たけど、まあ魔石集めには丁度良いな」
初潜入の日に倒したコウモリも普通のコウモリではなく一本足のシングルバットと言う魔物だと判明した。
洞窟や廃墟などに湧く低級の魔物で天井に一本足でぶら下がって、近づくと襲って来る。
あの日以来、毎晩の様に潜入しては俺がスキルでラッカが魔法でシングルバットを倒しては魔石を回収している。
「そろそろ先に進みたいんだけどなぁ」
「でもこの先の砂が積もった部屋さ、絶対出るよダブルスコーピオ。解毒魔法使えるか薬を持ってないと厳しいんじゃない?」
俺逹は地形から出没しそうな魔物を調べていた。
ダブルスコーピオは毒針の尾が二本あるサソリ型の魔物で刺されれば解毒の必要がある砂漠ではメジャーな魔物だ。
(だよなぁ……)
そもそも何で、こんな危ない事をしてるのか?
俺の年齢が問題だ現在魔眼修道士上級生12歳……再来年には脱帯式。
魔眼帯が外れるのだ。
魔眼帯が外れれば瞳の金の輪が隠せなくなる。
つまり皇族から狙われる可能性があるのだ。
皇族だけとは限らない。
皇族のしるし金眼に似た金環……利用しようとする輩は、いくらでもいるだろう。
強くなるしかない……それでも、これまでは擬似的な戦闘訓練くらいしか出来なかった。
やっと実戦訓練が出来る様になったんだ。
出来るだけ経験を積んでおきたい。
しかし、ラッカさん……あなたは強くなってどうするの?
「こんにちはエラトスさん先日の杖は役に立ちましたか?」
「これはこれは、イドリーさん、ありがとうございました。結局、別の子が使ってる様なんですが、お陰様で役には立っている様です」
「あの子逹の話は、きつい砂漠の旅に一服の清涼剤の様な物ですから、立ち寄る際の楽しみなんですよ」
商人で犬型獣人のイドリーは不人気地図を売っていた頃から毎回買ってくれていた。
エラトスにとっては大切な顧客だ。
オマモリ販売で忙しくなった今でもイドリーが立ち寄れば旅の話を聞き、修道院の話を聞かせる、年齢の近い男性同士のせいもあるのか? お互い良き友人の様な関係になっている。
「厨房を燃やしてしまった話は西の街でも大受けでしたし」
「あれは修道院でも大事件の部類ですからね。最近は、どうも1人の女の子と仲が良いみたいで……」
こうして本人逹の知らぬ間に魔眼修道士のドタバタ劇は修道院の外へと漏れつつあった。