種族スキル加護
「なるほど事の顛末は理解した……がココンとカイが闘う意味が分からんのだが?」
「それは、わたくし達にも不明です」
イドリーと話しているのはココンの夫であるヴァルトゼとカイの夫であるファンデラ。
2人ともエルフである。
エルフらしく翡翠色の髪を胸の辺りで切りそろえた長髪だ。
額辺りでヘアバンドのように装飾紐を巻いている。
そして丘の民の魔法戦士なのだと……
(エルフと言えば森の民だろうに……まあ、いいや今は他に聞きたい事がある)
「あ、あの種族スキルって使えます?」
「加護の事か? もちろん使えるぞ」
(キター!)
「教えて下さい」
「お前とココンは闘うのだろう? 教える訳がない」
(ですよね)
「教えて出来るものでもないぞ少年はヒューマンだろう?」
せっかくココンとカイは夫に会えたというのに爺さん達のトレーニング場へ特訓に戻ってしまった。
凄くイケメンな夫2人が冷たくあしらわれて寂しそうにしていた。
このイケメン達はココンとカイの、この素っ気なさに惹かれたのだろうか?
ココンとカイは見ていると和む良いキャラだがイケメンを射止める容姿とは言い難い。
だがイケメン達の方が夢中になっているように見える。
意味不明な事がドンドン積もっていく……
「まあ良い、出来るはずもないだろうし見せてやろう」
「デスリエ王女の客人と聞いてはな、無碍にも出来ん」
彼ら丘の民の族長の子を産んだデスリエ王女は特別な存在との事だった。
そんな事を抜きにして、やっぱり丘の民は基本的に親切なのだろう。
「では俺が加護なしで攻撃」
とヴァルトゼが言い。
「俺が加護を発動し対応して見せよう」
とファンデラが言い模擬戦は始まった。
イケメン2人が構えて対峙する姿は見ていても惚れ惚れするほど絵になる。
川の民のようにマッスルマッスルしてはないが適度に締まった身体は、いわゆる細マッチョだろう。
「参る」
ヴァルトゼは、真っ直ぐにファンデラへと突進する。
軽やかで無駄のないバネの効いた動きだ。
対するファンデラは避けるでもなく最小限の動きでヴァルトゼの攻撃を流していく。
時に蹴り、時に掌底、流された直後の回し蹴り、流されぬように上下二段攻撃、次々と繰り出される各種攻撃をいともなく流していくファンデラ。
そのやりとりの度に翡翠色の髪が揺れ動き光を反射してキラキラしている。
(う、美し過ぎる。こういうのを尊いと言うのだろう)
「ふぅ、以上だ」
「あ、ありがとうごさいました。流していたのが加護?」
「そうだ、ここは川だからな」
「その場所や土地の加護を受けるスキルと言う事でしょうか?」
ヴァルトゼの言葉にイドリーが質問をしてくれた。
「その通りだ川は流す、海は飲み込む、森は迷わす……それぞれの力を借りるのがエルフ代々の種族スキルだ」
「まあ、海や川は、その時の状態によっても加護の具合は刻一刻と変化するのだがな」
「ありがとうございました。頑張ります」
俺の頑張ります発言に2人は可哀想な子を見るような顔をしていたが、まあ良しとしよう。
「族長、あの花の民が丘の民の妻だったというのは本当ですか?」
「そうじゃ、まったく早く言ってくれれば解放したものを……」
金剛の種族が川の民として、この土地に隠れ住むようになったのも全ては親切な丘の民のお陰なのだ。
大昔に各国で迫害を受けた金剛の種族を唯一匿ってくれた丘の民。
彼らに川の民である金剛の種族は代替わりした今でも頭が上がらないのである。
なぜなら丘の民であるエルフは長命ゆえ救ってくれた代のままの族長が健在なのだから。
いや仮にエルフが代替わりしていたとしても恩を忘れる事などないだろう。
川の民、金剛の種族は……
「丘の民であるエルフへの恩は忘れぬ」
「そうだ、我らは義に報いる種族だ。おるぁ!」




