女は黙ってろ
「おるぁ! よそ者ぉ上がって来いやぁ」
「あちゃー」
「行かなくていいわよ、アーモン」
「いや、行く」
スイッチが入ってしまった。
日隠とわのスイッチだ。
日本の某プロレス団体のファンだった記憶……
この世界の身体なら憧れた技とか繰り出せる気がする。
やってやろう!
「何が王者だ、こるぁ」
闘技場へ上がるなりエルボーを喰らわしてやる。
魔吸具……マスクを着けていても種族スキルは使えるのならやれる!
ヒューマンの種族スキルクイックを発動。
獣人の種族スキルレイジを発動。
そして俺は王者にジャンピングエルボーをかましてやった。
……つもりだった。
気がつくと吹っ飛ばされてピスタと爺さん達のテーブルの上にいた。
「大丈夫か? アーモンめちゃ飛んだぜ」
「うぅっ! 受けの美学はどこやったんだよ」
「乱闘に何が美学だ! おるぁ」
「あ、確かにそうっすね」
ドワーフの種族スキルガードを発動するべきだった。
もろに喰らった王者の攻撃は流石に強力だった。
「もう一度だ、こるぁ」
立ち上がったところで王者と俺の間にクコが立ち塞がった。
「何だ? クコ」
「……私の相手……手出し無用」
「うるせーじゃあ俺とお前で勝負して勝った方が、こいつとやる! いいな」
王者の言い分は無茶苦茶だ。
自分の思い通りにならなけりゃすぐ勝負だ。
こいつは強いがチャンピオンとしての器の大きさが足りねぇ。
なんか腹が立つので混ぜてやりたくなった。
「勝手な事言ってんじゃねぇ! 3人でやるぞ!」
「バカなの? アーモン残りの2人は川の民なのよ」
「うるせー女は黙ってろ」
「えっ? 何よ! そんな言い方しなくてもいいじゃないバカ」
「さすがベルトを巻くだけあるな、あんちゃん」
ピスタと意気投合していた爺さん達が面白がってワーワー言い出したので王者も受けざるを得なくなってしまった。
この爺さん達、もしかして川の民の中でも権力を持ってるのか?
自然と、そんな人物に気に入られる辺りピスタは、やはり次期王女の器なのかも知れない。
「ハハハ面白れえぜ」
こうして元々はクコと対戦するはずだった俺は三つ巴マッチに挑む事になった。
アドレナリンが出まくっていたのだろう。
その時は気が付かなかった。
恐ろしい間違いを犯してしまった事を……
「アーモン本当に良いんですか?」
「はい! やって下さい」
「では、やりますよ……せや!」
イドリーに協力してもらい金剛の種族スキル風車を特訓中だ。
「せや! せや! せや!」
シューシュー
「おぉ! 湯気が上がってますね」
「行きますよ~イヤァオ!」
発動した。
充分に闘えるレベルの種族スキルだった。
「本当に色々な種族スキルが使えるんですねアーモン」
「えっ? あぁ、はい初めて使いましたけど……」
「いやいや、凄く珍しい事なの分かってるよね?」
「種族の種類が混血すれば混血する程に使えるのでは?」
「はぁ、これだから……」
そんな簡単なモノではない。
それが種族スキルなのだそうだ。
ハーフとて普通はどちらかの種族スキルが使える程度なのだと……
よくて2つ噂に聞いたのでも3つが限界だそうで見た目が完全にヒューマンなのに他の種族スキルが使えるなんて皇族以外では聞いた事もないそうだ。
種族スキルが複数使える事を王者やクコは知らない。
上手く使えば優位に立てるかも知れない。
日が暮れるまで種族スキルの鍛錬に費やした。




