種族スキル風車
カーン!
「この音だわ」
一本橋の上で聞いた音だった。
いや、あれですよね? これ。
ゴング的な……
「この音……闘技開始の合図……」
「うおっ」
いつの間にか背後に立っていた。
あのマスクの人が……
橋の上では一瞬で分からなかったがマスクの人は女性だった。
「えーっと、お名前何でしたっけ?」
「……クコ」
ポツリポツリ話すタイプらしいクコだが良く説明をしてくれた。
「上流コーナー……若手パワー型……下流コーナー……若手テクニック型」
「あの周りの人はなに?」
闘技場の周りに何人もの人が立っていたのでクコに聞いてみた。
「……外に出る……戻す」
(ロープがない代わりに人か……えーっと、そうだランバージャックデスマッチに似てるんだ)
大きな歓声の元、若手二人の闘技は始まった。
序盤パワー型の若手が体当たりから投げ技を繰り出しテクニック型はどんどんボロボロになる。
だがテクニック型の若手は要所要所で関節を締め上げていく。
一見パワー型が押してるように見えるが……
「あっ」
一瞬だった。
テクニック型をパワー型が抱え上げ地面へ叩きつけようとした時にテクニック型がパワー型の腕を見事に固めてギブアップをもぎ取ったのだ。
カンカンカン!
「勝者下流コーナー」
そこからは、もう完全にアレですよ。
タッグ的なやつやバトルロイヤル的なやつがあり。
その都度マスクのクコが説明してくれた。
不思議なのはマスクを着けているのは俺たちとクコだけで他の住民は素顔のままである。
「どうしてクコは俺達と同じマスクを着けてるの?」
「……王者の闘技始まる」
どうやら言いたくない事情があるのだろう。
話を逸らされた。
「打ってこいやぁ! おるぁ」
レベルの高い体術の攻防が繰り広げられた後半に、それは始まった。
肘打ち合戦、つまりエルボー合戦である。
「なぜ攻撃を避けないので?」
イドリーの質問だ。
「分かってないなぁイドリー、これこそ受けの美学ですよ」
「どうしてアーモンが答えるのよ」
「ラッカは知らないだろうがな、相手の技を受け切ってこそ誇り高きレスラーなのだよ」
「なによ、そのレス何とかって」
「……さすがベルトを巻くだけある……よく分かってる」
俺、クコに褒められたのである。
その時エルボー合戦が終わり真っ赤になった胸板からシューシューと湯気が上がった。
「何あれ、湯気凄すぎない?」
「……種族スキル」
「えっ?」
バチーン!
速度、パワー、威力全てが桁違いだった。
猛烈な力と力のぶつかり合いに度肝を抜かれた。
「川の民の種族スキル……風車」
「川の民って種族なの?」
「まさか金剛の種族ですか?」
「……捨てた名……汚れた歴史」
イドリーは知っていた。
魔法を使わぬ体術特化型の種族で戦に駆り出される傭兵的な立場の種族だったが……
見た目はヒューマンだが骨が金属質である特徴が広まった為に虐殺にあい滅んだとされる種族である。
実際には殺された後の骨は金属として役に立つものではなかったそうだ。
(何度か発動してみたものの何も起こらなかった種族スキルの一つだった)
エルボー合戦の間から大歓声だった観客は王者の種族スキル発動にヒートアップしていた。
王者の勝利を讃える声は止まない。
「やだー王者の人気すごいー」
「……彼が一番種族スキルの貯め幅……大きい」
いかに多くの攻撃を受け、それを大きな攻撃力に変換する。
それが種族スキル風車といったところか……
その受け数と攻撃力が一番大きいのが王者なのだ。
まさに受ける風が大きいほど回る風車の様なスキルである。
「おるぁ、クコぉ! 逃げてねぇで上がってこいやぁ」
王者はクコを呼びつけた。
バカにしたような態度だ……
トボトボと前に出ていくクコ。
そのまま一段高い闘技場へ上がってしまった。
「まさか男と女で勝負とか?」
すると隣の席の興奮した酔っ払いが教えてくれた。
「おう、お前ぇさんら知らねぇだろうがよ、こりゃ毎晩の恒例よお」
かつて、まぐれでクコが最大の種族スキルを発動した。
でも反則で魔法を使ってたのがバレて魔吸具を着けられた。
種族スキルはマスクを着けても発動出来るから、もう一度見せてみろと毎晩、最後に闘技場へ上がらされてエルボーを打たれる。
しかし、まぐれだったので発動するはずもなくボロボロにされる。
その繰り返し……ようするに負けた腹いせにイジメてるだけじゃないか!
「おるぁ!」
「うえい!」
観客の掛け声と共にエルボーがクコへと見舞われる。
クコも打ち返す。
「おるぁ!」
「うえい!」
何度も何度も繰り返されるエルボー。
やはり王者の胸板からシューシューと湯気が上がる。
クコの胸板からも湯気が上がる。
バチーン!
王者の種族スキルが発動してクコが吹き飛ばされた。
先ほどの大歓声とは違ってパラパラと拍手が起こるだけだった。
みんな嫌なモノを見たような表情だった。
もちろん俺らも同じだった。
「何か胸くそ悪りーな」
思わず声に出てしまった。
「何か言ったか? おるぁ!」
(あっ、やってしまった……)




