魔吸具
魔法が放てない……
その事に最初に気がついたのはラッカとカイだった。
「走れ雷ライトニング」
「光の母よ瞬けライトニング改」
何も起こらない。
いつもならラッカの掌から放たれるはずの雷魔法が出ない。
カイも同じだった。
「ムダだ、おるぁ! 魔吸具を着けて魔法は使えん」
「ますぅく?」
「そうだ、おるぁ!」
なるほど……ますく。
いやマスクだ、これは!
前世でもお馴染みのタ○ガー的なやつやラ○ガー的なやつ、正確にはスーパースト○ングマシーンタイプだ。
「魔法を封じる魔道具の一種だろうぜ」
ピスタの冷静な分析だ。
そうだ、その通りだとは思うが見た目がさ、マスクなんだよレスラー的な!
(でも、この世界でプロレスなんて聞いた事がないぞ)
「そうだ、我らは川の民、魔法は使わん! 体術こそ闘いの魂だ、おるぁ」
「体術を極めし証であるベルトを、お前は巻く資格があるのか! おるぁ」
どうやら川の民にとってベルトとは神聖な物で、それを着けてる俺が気にいらん。
そう言う事らしい……
(えーっとチャンピオンベルト的な?)
「これはベルトじゃないんですよ、ちょっと待って下さいね」
俺は腹に巻いているウロボロスを外す為に魔力を込めた。
が、外れない。
きっと、このマスクのせいだろう。
「ちょっと、このマスク外してくれませんか? そしたら、このウロボロス外せるんで」
「ウロボロスと言うんだな、よし、お前のウロボロスに挑戦してやる」
「はい?」
「クコお前が最初だ」
「はい」
全然こっちの話を聞こうとしない。
そして俺達を橋から落とした覆面の人と、どうやら戦う事になったようだった……
10日。
川の民のルールで戦う為、10日の猶予が俺達に与えられた。
いや俺に与えられた。
その間に川の民の戦いのルールを見て学べと言う事らしい。
やっと首輪生活から脱出したのに今度は覆面生活が始まってしまった。
とほほ……
意外な事に覆面を外せない他は特に拘束されるでもなく自由だった。
「慟哭銃で倒してしまう手もあるぜ」
「やーだ、川の民とは揉めないように言われるーだ」
「それに魔力使えないと慟哭銃は撃てないでしょ」
「おっと、そうだったぜ」
デスリエ王女は川の民をハリラタへ正式に加える事を諦めてないらしく何かあっても命の危険がない以外は川の民と揉めるな。
ココンとカイは以前より言われているそうだ。
「やだー、遅れ過ぎれば丘の民が迎えに来てくれるはずー」
「それなら下手に手出しせず待ちましょう」
監視役の男達が付きまとうのは鬱陶しいが割と自由に行動させてくれた。
「見て見て、あれって釣り?」
川の民の主食は魚らしく上空に流れる川に目掛けて釣りをするのには驚いた。
俺達が落とされた、あの川だ、空の川と呼ばれており実際の川としても機能しつつ川底の街を隠すバリア的な役目も果たしているようだ。
釣り竿に浮きを付けるのは前の世界と同じなんだけど浮きが水に浮くのではなく、風船のように空へ浮いて行く。
その浮きが上空の水面に付いたとたん餌の付いた釣り針が川の中へと吸い込まれて行くのだ。
中には力任せに銛で突いている猛者もいる。
俺もウロボロスが解放したら試してみたい。
「食べる物に困らないからかな? 仕事しないね」
「確かに……ですが仕事よりキツそうです」
食事以外は筋トレか模擬戦を繰り返している。
それが川の民の生活だった。
男も女も子供でさえも……
「それ、やらせてくれだぜ!」
筋トレ用の道具が気になったピスタは目に入る物を次々と試していく。
無意味に捕らわれた事や不可解な相手の行動など気にもせず興味のままに行動する姿は憧れすら感じさせる。
実際、半日もすると、すっかり川の民に受け入れられていた。
「晩飯に誘われたからさ、行ってくるぜ、闘技を見ながら食うんだぜ」
筋トレ器具を管理しているムキムキの爺さん達に奢ってもらうそうだ。
「この意味不明な状況で何で仲良くなれるのよ……」
ラッカの言う通りだ。
ただデスリエ王女が王船の中で言っていたピスタの才能の事を思い出していた。
どの性格の王女とも同じく話せるのは俺、アーモンが現れるまではピスタしか居なかった。
ピスタなら素のままで王女を継ぐ事が出来るかもしれない。
ただしピスタは興味無いぜの一言で片付けたが……
食事のせいで負けたとは言わせない。
そう言う理由で夕刻に割と、ご馳走が並んだ野外の席へ案内された。
街の真ん中の広場だ。
他にも大勢の民が集まっている。
ピスタが誘われた爺さん達も遠目に見えている。
「問答無用で牢へ、ぶち込んだくせに、ご馳走を振る舞うとか……」
「まったく意味がわかんねーな」
「やーだ、美味しい」
そして真ん中の一段高くなった闘技場で闘技が始まった。




