霧の一本橋
霧の中を恐る恐る進む。
細い一本橋は表面こそ平らだが霧のせいで濡れているため神経を使う。
「きゃっ!」
「うおっ!」
ラッカが滑って俺に掴まった。
「ごめん……」
「ああ、大丈夫か?」
「うん」
「ラッカずるいぜ」
「ほんとに滑ったんだってば」
「真剣に渡らないと本当に落ちますよ」
ラッカとピスタがイドリーに叱られた。
そんな、やりとりをしつつも、そろそろ対岸が見える頃と言う時に……
「やーだ、誰かいーる」
「本当だ丘の民かな?」
「やだー、ギリギリ橋の上だー」
近づくと橋の上に立つ者の顔が霧の中、薄っすらと見えて来た。
仮面? いや覆面のような物を被っている。
カーン
顔が見えた、その瞬間に妙な音が響いたかと思えば……
覆面の人は、こっちへ走って来た!
「えっ?」
細い一本橋の上を走って来る。
「止まれ!」
「……」
武器は持っていないが無言で止まろうとしない。
ココンの詠唱も間に合わない。
「ココン屈んで!」
屈んだココンをイドリーが飛び越し短槍を突き出した!
タンッ!
その覆面の人は軽やかにイドリーの短槍を交わし更にはイドリーをも飛び越してしまった。
そして下段回し蹴りを放つ。
「あっ!」
ドッポン!
イドリーが落とされた。
「このっ!」
反撃しようと魔力を込めた瞬間に上段回し蹴りで俺も落とされた。
「アーモン!」
ドッポン!
泳ごうとしたが猛烈に体が重い。
水の中は冷たくもなく流れもない代わりに重量でも増したかのように下へ下へと体が沈んでいった。
沈んでいく間、上の水面越しに見える橋の影から次々と誰かが落ちては水泡が激しく立つ様子を見ているしかなかった……
そろそろ水面が見えなくなる頃に息が出来てる事に気がついた……
そして意識が遠のいていった。
気がついた時には牢のような場所に閉じ込められていた。
(この違和感は何だ?)
最初に意識が戻ったらしく周りでは仲間が意識を失って倒れていた。
そして全員が顔に何か被されていた。
目はみえるので先程の覆面と同じような物だろう。
違和感の正体はこれだ。
すぐ後ろで花の民の衣装を纏ったラッカが水を飲み込み膨れ上がっている……
(まさか死んでるんじゃないだろな!)
「おい!ラッカ大丈夫か?」
体を揺すって起こすと……
「んん、やだー」
間違えた、カイだった。
水を飲んで膨れたんじゃなかった元からだ。
「わたすには夫がいるからー」
「どこ、ここ?」
カイの勘違いにラッカが気づかず起きてくれたようだ。
本当に良かった。
次々と皆が起き出して来る。
やはり顔には覆面が被されている。
「やーだ、服とか濡れてなーい」
「武器を奪われています」
「スカルホーンハンマーがないぜ、でも慟哭銃は残ってるぜ」
「アーモンのウロボロスも残ってるね」
ラッカに言われて腹を見ると確かにウロボロスも残っている。
他の人に外せない事が功を奏したのだろうか?もしくは武器に見えなかったのだろう。
ピスタの慟哭銃も同じ事が言えるのだろう。
やがて足音が聞こえ……
3人の男と先程の覆面が姿を現した。
何かの皮が素材だろうか?
身体にピッタリ張り付くような服を着ている。
その見た目は、ウエットスーツやレーシングスーツのようだ。
「お前にベルトを着ける資格があるのか? あぁ、おるぁ!」
「はあ?」




