ベジタブルラム
「ザクセン?」
世界の、どこかに100年に一度生える世界樹。
人の実がなる木……
その実がザクセンという人なのだと。
種を運ぶためだけに生まれる短命の種族。
「そのザクセンの寿命を延ばすのが当初の目的だったと?」
「そう伝えられています」
「ベハイムが飲んじゃったのかな?」
「もしかして不死の首神を知っているので?」
イノウタは驚いていた。
そこでスカルフェイスツノシャチを倒した後にべハイムとヘーゼルが現れた話をして聞かせた。
「まさか本当に存在しているとは……伝説は嘘ではなかったのですね」
「いや、会うと伝説とかイメージ崩れますよ」
花の民は不老不死の薬を求めているのではない。
むしろ不老だけを求めているのだと。
美しく生き美しいまま生涯を終えれるなら本望なのだと言う事だった。
「やだぁ山の民が隠してる? ウソ信じられない」
いつの間にかデスリエ王女がやって来ていた。
花の民モードなので分かり辛いがピスタが言うには怒っているし悲しんでいるらしい。
そして、もう一つ大切な話を聞いた。
800年くらい前のハリラタに世界樹が生えザクセンが生まれた事。
当時の長がザクセンに寿命を分けて願いを一つ叶えてもらった事。
その願いのお陰で花の民は豊かに暮らせているとの事だった。
その願いが何だったかは、教えてもらえなかった。
……が、何となく気がついていた。
ハリラタへ来てから毎日の様に羊肉と蜂蜜を食べているのだ。
養羊や養蜂が盛んだとの話もなく不自然だった。
何かカラクリが、あるのだろう。
事件は早朝に起きた。
外が、やけに騒がしくなったのだ。
俺とイドリーは目隠しをされたまま薬草室から移動させられた部屋で一夜を過ごしたのだが。
「申し訳ないですが鍵を掛けますね」
と夜から軟禁状態だったので外の騒動に駆けつける事も出来ずにいた。
そこへラッカが駆けつけ扉越しに大声をあげた。
「アーモン! 金環を発動して大変なの」
「どーなってる? これでも出してくれないのか?」
「ラッカ、カシューは無事ですか?」
「たぶん無理だと思う。カシューは無事よ。私とピスタは対応出来てるから金環でみんなにも! お願いね」
「わかった」
事態が飲み込めないまま俺は金環を発動した。
瞳の金色の輪が輝く。
まず、そばにいたラッカの魔力視が影響下に入る。
ピスタの解析眼が入らないので金環の効果範囲を広げていく。
この辺りのコントロールは地道な訓練の賜物だ。
「来ましたね」
「はい」
かなりの範囲まで広げたところで俺とイドリーにも解析眼の効果が出た。
外へ出なくても魔力視と解析眼で壁越しに状態が掴めた。
と言うより……
「外に出てるのと同じですね」
「後から怒られそうですね……」
そこは農園のような場所だった。
人の背丈ほどの植物が無数に立ち並んでいる。
その植物に実のような物が付いているのだが……
「羊?」
「聞いた事があります。ベシタブルラムだったかと」
羊がなる植物なのだと。
これが毎日、羊肉が食卓に並ぶカラクリだ。
「何かいる?」
「何かがベシタブルラムを食い荒らしていますね」
それは無数に飛ぶ蜂のような魔物だった。
猫か犬くらいの大きさで、そこそこの魔力を撒き散らしている。
厄介そうなのは時々、針を飛ばす攻撃を仕掛けている事だ。
ラッカとピスタだけが対応出来ていたのは針攻撃の前触れが魔力視や解析眼で読み取れたからだろう。
今は金環の効力で多くの人が予測して動けているようだった。
上空の群に向かって雷撃が放たれるのが魔力視によって見える。
多くの女性達が単発魔法を放ったり刺された人へ解毒魔法を施している。
空中へ防御魔法を発動している人もいる。
「ん? 何か違和感が、ありますね」
「アーモン、蜂が二種類いるんだよ魔力色が違う」
だんだん詳しい事態の把握が出来てきた。
大きさも少し違う二種類の蜂。
その蜂の大きな方、赤黒い魔力色の蜂だけを排除しているようだ。
小さな黄色い魔力色の蜂を守っているのだ。
「この治癒魔法をかけているのはメルカですね」
「となりがカシューですね。薬草を使ってる?」
「カシューは修道院でもメルカの治療室で手伝いをしてましたから」
相当数の蜂を排除したところで赤黒い魔力色の蜂が撤退していく様子が見えた。
多くの花の民が膝を付いて息を切らしている。
メルカとカシューを含む治療組は大忙しだ。
そこで魔力視と解析眼の効果が切れた。
ベシタブルラムを男に見せたくないのか?
なぜ?
後で教えてもらえるのか? それとも怒られて追い出されるのか? 疑問は募るばかりだが閉じ込められた状態で金環が役に立つ。
それは一つの発見だった。




