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魔眼の子 〜金環のアーモン〜  作者: きょうけんたま
多民族国家ハリラタ編
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アルケミネラル

 どこをどう通ったのか把握出来ない程、大小の島を何度もクネクネと巻くように通り過ぎ大きな洞窟へと辿り着いた。

 この洞窟が王船の船着き場らしい。


 こうしてハリラタへ到着した。

 のだが……


「では申し訳ないですが男性は向かいの島でお待ちいただきます」


 船上で何度も話し合われた事だが花の民エリアは男子禁制で俺とイドリーは入れない。

 いろいろな手続きが済めば丘の民のエリアへ移動するので数日待つしかない。

 これだけ世話になっているのだ、それは仕方のない事。

 問題は……


「んぁ、絶対行くなの」


 カシューが花の民エリアに行きたがったのだ。

 当然イドリーは反対した。

 護衛である自分から離れられては困ると。


「国の威信に賭けて安全を保証する」


 イノウタと王女からも直々(じきじき)に頼まれてイドリーは折れた。


「ここを信用しないのであれば入国の恩義を足蹴(あしげ)にするのと同じですので仕方ありません」


 俺から離れるメルカと入れ替わるようにお互いが頼み合っていた。


「快適ですね」


「ええ心配はありますが快適です」


 島にはコテージのようなリゾート感満載の滞在施設があった。

 何から何まで世話してもらい快適な日々を過ごして待っていたが……







「申し訳ありません。目隠しをして来ていただけませんか?」


「はあ」


 イノウタが呼びに来たのだ。

 カシューの過去視は上手く発動しているが説明が難しいらしく金環で見た方が速いとなったらしい。

 男性が花の民エリアに入るは異例の事らしい。




 こうして晴れて花の民エリアへ入る事となった。


 目隠しをしたまま手を引かれ歩いて行くと良い香りが漂って来た。

 花の香りだ。


「やだっ可愛いい、キャ!」


「獣人もカッコイいい、キャ!」


 ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

 どうやら花の民モードの王女と同じノリの人が多いようだ。


「香りが厳しいです……」


 イドリーは犬型獣人ゆえ嗅覚が優れているが辛そうにしてる。





「やだっアーモン目隠しとか修道院思い出すぅキャ!」


「ラッカ? 嘘だろ?」


「嘘よ、ここにいるとノリを合わせないと女子的に色々とあんのよ」


「よ、良かった……」


 危うく俺のラッカが別人になるところだった。

 ん? 俺のラッカ?

 どうかし始めているのは俺の方かもしれない。


「この部屋の中では目隠しを外してもらって構いません」


 そこは王船の中の薬草室に似た部屋だった。

 ただ何倍も広く何倍もの薬草らしきものが並んでいた。

 そして花の民らしき女性が多くいた。


「レイース以来よね、キャ!」


「やだっ目が素敵よ、キャ!」


 ヒューマンやエルフベース、ドワーフベースと様々な民族の女性がいる。

 花の民は結婚という形式をとらず外で恋をして子供を宿し戻ってくるそうだ。

 女の子が産まれればそのまま、男の子ならば早いうちに父方で育ててもらうか近くの島で育てる。

 ゆえに半年なり一年なりに一度は家族に会いに移動する生活スタイルだ。

 ピーリーも同じパターンでラパにて育てられたのだろう。


「んぁ、アーモン見てなの」


 カシューが自慢気に一回転した。

 民族衣装なのだろう袖が膨らんだ白いシャツにスカート、頭には白いレースのブーケに花柄の可憐な刺繍。

 スカートはフワリとした形だが特徴的なのは、ふくらはぎまでの丈の黒スカートの上に短い赤スカートを重ねて穿いてる点だろう。


「綺麗な刺繍で可愛いねカシュー似合ってるよ」


「んぁ、ありがとキャ! なの」


 俺のカシューまでもが花の民ノリだ。





「これなんですよアーモン、手伝ってくれるかな?」


「ええ、もちろん」


 カシューと同じ民族衣装のせいもあるが薬草室に入るとイノウタは優しい雰囲気に変わるようだ。

 ラッカもメルカも同じく民族衣装を(まと)っており皆、可憐な印象で可愛い。


 それは、蛍光色をしたピンクの粒だった。


(明太子かな? そんな訳ないか……)


「んぁ、やるなの」


 カシューの金色の瞳が輝く。

 俺の金環も輝き、部屋の中みんなの目に同じ景色が見え始める。

 早戻しのような景色が猛スピードで流れていく。

 そして音もなく止まり音もなく始まる。


 口元を隠すように黒い布を巻いた鋭い目をした男が山の頂上にいる。

 登って来た側の反対側は切り立った崖のようになっており、その下を覗き込んでいるが何も見えなかったようで首を振っている。

 何かが下から登って来たらしく男は姿を岩陰に隠す。

 登って来たのは……(ふくろう)だ、体の二倍ほどもある足の生えた(ふくろう)


「ハイキングフクロウだわ」


 イノウタが(ふくろう)の名前を知っていた。

 が、集中が切れるので話すのは正直()めて欲しい。

 ハイキングフクロウは、その場から飛び立つ事の出来ない鳥で滑空するために山へ登るのだと……

 登るために発達した足のせいで飛べなくなったのか? 飛べないから足が発達したのか? どちらが先かは不明なのだと。


 ホーホーホー


 実際には音は聞こえていないが、頂上に着いたハイキングフクロウは一声鳴いた素振りの後に翼を広げた。

 前傾姿勢になると飛び立つ……その瞬間、岩陰から男が走り出すと飛び乗った。

 山と山の間に生まれる上昇気流に乗り円を描くように滑空していくハイキングフクロウは自分の背に乗る男の事を気にも留めず気持ちよさそうに降りてゆく。

 すると先ほど覗いていた崖の中程に窪みが見えた。

 そこにはピンク色の何かが、こびり付いていた。

 男はハイキングフクロウの滑空が窪みに近づいたタイミングで窪みへと飛び移った。

 帰りはどうするのか? 下にも上にも足場になるようなものは何もない、その窪みで男はピンク色の何かを採取し始めた。

 そのピンク色の何かは鍾乳石にも似た結晶のようだった。

 大事そうに拳大の結晶を懐へ仕舞うと男は、その場から飛び降りた。

 どうやって地上に降り立つのか? その疑問が無駄な事をすぐに我々は知る事になる。

 男は降りたのではなく自分から落ちたのだった。

 無残に地上へと、ぶつかり潰れてしまった男の骸から下で待っていた数名の男達がピンク色の結晶を取り出すと。

 丁寧に男の骸を荼毘に付していく……

 そこで無声映画のようなカシューの過去視は終わった。


 あまりの光景に誰も声をあげることが出来ずにいた……


「命を賭してまで手に入れる薬とは?」


 沈黙を破ったのはイドリーであった。


「不老不死の薬の材料のひとつ……と言われています」


「誰かが死んで手に入れた薬で不死になる意味が?」


 イノウタの答えに(いら)っとした俺は少々きつい言い方になってしまった。


「いえ、あくまで材料の1つでアルケミネラルと言います。これだけでは老いを止めるだけ……しかも、こんな入手方法だったなんて知りませんでした」


「そうですよね……知らないから調べたんですものね。すいません」


 嫌な空気になってしまい、この日は終わりとなった。





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