魔素茸
「では見ていて下さいね」
丘の民モードのデスリエ王女は聞こえるように詠唱を始めた。
「爆炎の覇者よ大地の精霊よ汝らの秘めたる悲しみ、憂い、憤慨を惜しみなく発っせよ、さもなくば魔素濁りによりて持たざる世界の幕開けとならん七つの杯の一つを傾け示せメギドボルケーノ」
海面が盛り上がり膨らんで赤く染まっていく。
ドーン!
膨らんだ海面から一気に弾け跳んだのは岩と爆炎に溶岩流だ。
まるで海底火山でも噴火したかのような有様で、今まで見た魔法とは別格の威力だった。
「これは驚きました」
「あらあら、破級? いえ超級でしょうか?」
「ボルケーノ系の一つで火属性の爆炎魔法と土属性の岩石魔法の混成魔法です級で言えば古の丘級になります」
混成魔法は難しいうえに魔力消費量も多い。
それゆえ普通の属性魔法では出せない威力を求める為の魔法……
つまり高威力魔法しか開発されていないのが現状だとデスリエ王女は教えてくれた。
「ただ、こんな魔法を使う場面は滅多にないんですよ」
「あらあら、戦争かドラゴン退治かしら」
「俺は、この仕組みで通常威力の魔法を作らなきゃいけないって事かぁ」
試しに今のデスリエ王女の魔法を真似して海に放ってみた。
ドーン!
「あれ?」
「えっ?」
威力は弱いものの出来た……
その瞬間、景色が空一面になってゆく。
俺は魔力切れで、ぶっ倒れ意識を失った。
目が覚めると医務室のような部屋だった。
壁一面に何やら薬っぽい物が並んでいる。
「目が覚めましたね。魔素茸茶が効いたんでしょう」
「はぁ、ありがとうございます」
イノウタが面倒を見てくれたようだった。
丘の民に伝わる魔素茸という魔素を多く含有したキノコを煎じてお茶にしたものを飲ませてくれたらしい。
「高級品なんですよ」
「あ、すいません」
謝るとイノウタはクスクス笑って気にするなと言った。
ラパで会った時と随分、雰囲気が違うような……
王船の中ではデスリエ王女に危険な事が迫る心配もないためリラックス出来るのだそうだ。
今の雰囲気が本来のイノウタなのかも知れない。
それに……
「この部屋には花の民の作った薬草や種などで溢れていて落ち着くんです」
「先日の盗賊泣かせの蔓なんかも?」
「そうですね、もっと凄いのもあるんだけど、それは秘密だわ」
そう言って、またクスクスと笑い出した。
デスリエ王女の側近としてのイノウタも凛として素敵だったけど今の方が可愛い。
「アーモン起きたの?」
「ええ、起きられました。どうぞ中へ」
ラッカ、カシュー、メルカ、イドリー、ピスタが、なだれ込んで来た。
イノウタは皆が入って来ても同じく優しげな雰囲気のままだった。
ちょっと残念だったが顔には出なかったはずだ。
ただ、ラッカだけが変な顔で見ていたので少し焦った。
「あらあら、大丈夫そうで安心しました」
元気そうだと分かると倒れた時に白目だったとか少し金環が見えてて面白かっただのと、からかわれた。
「カシューさん興味が、おありですか?」
壁一面の薬棚をカシューが眺めているのを見てイノウタが言った。
「んぁ、役に立ちたいなの」
「カシューいいのよ小さいんだから」
「んぁ、作り方見れるなの」
「なるほど! 覚えなくてもカシューなら遡って見れますね」
そこまで言った後でイドリーは、しまったと顔に出したが……
マルテルとの別れで過去視には気付いてるし狙われる理由なのも想像がついていたとイノウタは言った。
「すでに船内すべての者に他言無用と通達してあります」
いつもの側近モードのイノウタだ。
すでに、そんな通達まで出してるなんて優秀過ぎる。
「ありがとうございます。お世話になるばかりで申し訳ない」
「いえ、こちらも一つお願いがありますので……カシューさんが興味を持って下さったのは丁度良いかと」
なんでも花の民に残る古代薬の中に製法の失われた物があるそうで嫌じゃなければ過去視で見て欲しいとの事だった。
イドリーは一瞬迷う素振りを見せたが……
「んぁ、やりたいなの!」
カシューが、俄然やる気になったのでハリラタに着いたらお礼代わりに過去視で製法を解明する事になった。
次の日からカシューは、この医務室、正式には薬草室へ入り浸るようになった。
作品サブタイトルがイマイチだなと思ってるんですが、これだってのが見つからず迷走しております。
どこかのタイミングで変更予定です。




