種と種明かし
城の新しい使用人だった男がリザードキャメルの預かり所にやってきた。
入れ違いに出て行った男がサガラッソスなのは、すぐに気がついた。
『鎖編み』を無視したのだ当然、気付かぬふりをした。
(諦めたのか? あの幻眼のサガラッソスが?)
ウルゲが言った通り単独では無理だったのだ。
男は自分の仕えている男の読みが当たった事で上機嫌になった。
「すっかり元気になってますぜ、これなら炎天下でも休まずに走り続けるでしょう」
「おう、弱ってたのに大したもんだな」
「へい、そりゃもう頑張って面倒見ましたから」
リザードキャメルの預かり所の主人は寝る間も惜しんで弱ったリザードキャメルを回復させた。
全ては計画の為に。
「動くんじゃねぇぜ」
「お、お前達は、船に乗ったはず、どうして!」
ピスタ、イドリー、ラッカに囲まれては訓練を受けた鎖の手練れとはいえなす術はなかった。
「しなれ雷鞭ライトニングウィップ」
「うがっ!」
「特訓の成果ですね」
「デスリエ王女のお陰です」
ウルゲの指示でリザードキャメルを用意しに来た部下は、あっけなく拘束された。
「くそぉ、許さねえぇ」
「殺されないだけ有り難く思え」
デスリエ王女から貰った種。
『盗賊泣かせの蔓』は効果抜群だった。
元は迷宮のトラップとして発見された物を花の民が育てているそうだ。
ウルゲ達は、その蔓によって身動き出来ない。
事実上、拘束されたのだ。
「甘ちゃんがぁ、殺さねぇでどうするんだよぉ」
「ウルゲの旦那、せっかく殺さないって言ってんだから静かにしませんか?」
「うるせぇ、黙ってろぉ」
リザードキャメルに乗せられたウルゲ達の首には水袋が括り付けられている。
もちろんウルゲ達自身もリザードキャメルに括り付けられている。
「やだぁ、面白過ぎるぅキャッ」
見送り?
いや、愚か者の末路を見学にデスリエ王女や城の大勢が集まっていた。
嵌められているとも知らずに潜伏気分で嗅ぎ廻っていたバカ達の末路を……
「城の仕事は世襲で続いてるから新しい人間なんて雇わないんだぞ」
ピーリーは元城の新しい使用人へ告げた。
「命を預かる船に会って間もない人間を雇わないのがラパでは当たり前だ」
ビアンコは元新船員の獣人へ告げた。
「街中の人間が、お前らの顔を覚えて見張ってたんだぞ」
カタロニが逆恨みで戻って来ても無駄だと念を押す。
言わないがハリラタの王女と思って見ていたのはイノウタだ。
安全の為に入れ替わっていた。
従者の振りをして近づき魔眼を使うデスリエ王女にイノウタはハラハラしていたそうだ。
だが、その魔眼のお陰でウルゲ達の計画まで筒抜けになっていたのである。
「好きな所へ行くがよい」
そう言ってリザードキャメルの、お尻はポンっと押された。
「ま、待てぇこいつらが行きたがるのは砂漠だぞぉ」
「止めてくれぇ」
「くそぉー、覚えてろぉー」
元気になったリザードキャメルは意気揚々と砂漠へ向かって走って行った。
「あ~あ、あれ、どうなります?」
「夜は砂に潜るでしょうから下手すると窒息……」
運が良くても砂だらけ。
水袋の水があるうちに『盗賊泣かせの蔓』が干からびれば生き延びれるかも?
ただ干からびたとしても砂漠のどこにいるかで運命は決まるだろうと言う事だった。
リザードキャメルの味わった苦しみを存分に思い知らせる刑だ。
「ハハハ、すっきりした」
「ありがとうございやした! アニキ」
「アニキは止めて下さい。それに助かったのは、こちらの方です」
イドリーを筆頭に俺達は協力してくれたピーリーや城のみんな、エブストーやデスリエ王女にお礼を言って回った。
「イドリーの心配が外れてよかったわ」
ラッカが言っているのはサガラッソスの事である。
「そうですね、コロポックが居なかったので大丈夫とは思ってましたが……」
そう、幻眼を使われれば今回の計画は通用しなかったかも知れない。
計画段階でバレたかも知れないし、逆に利用されたかも知れない。
「その時は母ちゃんが出るって言ってくれたからな大丈夫だったぜ」
「イノウタさんは怒ってましたけどね」
それに港の船全部にラパの男達が潜んでいたのだ。
鯨宴とラパを救った英雄に恩返しのチャンスだと。
それでもサガラッソスの幻眼にかかれば人数など無駄な可能性もあっただろう。
サガラッソスとウルゲ。
もし2人が協力していればカシューは危なかったかも知れない。
2人が、その事に気付くのは、ずっと先の事である……
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次回で第二章、港湾都市ラパ編が終了です。




