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デスリエ王女

 デスリエ王女。

 ハリラタ国代表であり別名をクモ王女と呼ばれている。

 修道院では蜘蛛の巣に男を絡めて操ると噂されていた。

 だが実際には多数の娘を周辺国へ嫁がせている家系図が蜘蛛の巣状に張り巡らされた為に付いた名であると聞かされた。

 国の為に娘を利用する王女。

 実際に蜘蛛の巣を張るようなバケモノではないにしても恐ろしい人なのだろう。

 ピスタの、お母さんなので悪く言いたくはないが怖いイメージが膨らみまくっている。



 その王女に謁見(えっけん)出来るとの事で緊張していた。


 イドリーが……


「ハリラタ独特の風習などで無礼があってはいけないので……」


「大丈夫だって! 母ちゃんは、そんな事を気にしたりしねぇぜ」







「御目通り頂き感謝しております。わたくしはイドリーと申します」


「やだぁ、ピスタの友達って、みんなかっこいいキャッ」


「母上! お客人に対して失礼です」


「別にいいぜ、なあイドリー」


「はあ」


 全然、恐ろしくなかった……

 いや逆に恐ろしいのかも……

 ピスタの母親って事は、それなりの年齢のはずだが見た目は二十歳くらいに見えた。

 真っ赤な髪に黄緑色の瞳の組み合わせは可憐なドレス姿なのもあり薔薇の蕾ように感じさせる。

 ピスタとピーリーの赤髪は遺伝なのだろう。

 違うのはデスリエ王女はエルフベースのミックスだろう点だ。


「鯨宴の直後は花の民が強くなり過ぎるのです。許されよ」


 先程から威厳を持って代わりに話しているのは18番目の娘イノウタ。

 ピスタの姉にあたるらしい。

 父方の遺伝なのか髪の色は赤ではなくオレンジ色だった。


「花の民とは?」


「ピスタは、そんな事も話していないのですか?」


「ああ、どれも母ちゃんに変わりねぇぜ」


「どの母上とも同じに話せるのは、あなたくらいです。それに初めて会う方々が驚かれているではないですか」


 ハリラタは元々が小さな民族、花の民の国だった。

 その周辺には同じように山の民、丘の民、草原の民、川の民、谷の民などの少数民族の国があった。

 少数民族達は昔から(いさか)いが絶えず小さな小競り合いを繰り返していた。

 しかし外から大国による侵略が相継ぐようになると対抗する為に(まと)まり一つの国になった。

 すべての民族の繋ぎ役となったのが花の民の女王デスリエである。


 とは言え長年諍いを続けていた少数民族が簡単に纏まる訳もなく。

 纏めるためにデスリエは全ての民族と子供を作った。

 そして、その子供を別々の民族へと嫁がせたのだ。

 子供を作るたびに相手の民族と最適な性格に変化するようになったと……


 イノウタは説明を終えると一言。


「ですので今の残念な母は、ほんの一面であると理解下さい」


「やだぁ、イノウタが酷いこと言うぅ」


 つまりデスリエ王女は多重人格?

 いや性格が変わっても記憶は引き継いでいるそうなので多重性格と言うべきだろうか?





「でな母ちゃん、こいつらハリラタに行きたいんだぜ」


「恐れながらデスリエ様、こちらの幼き……」


 ピスタが予定通り入国の話を始めるとイドリーも、それに続いてカシューの立場を説明し始めた。

 が、そこでデスリエ王女は豹変し言葉を(さえぎ)った。


「それ以上、口を開く事を許しません」


 先程まで二十歳そこらに見えていたデスリエ王女は四十路のような見た目に変貌していた。

 さっきまでの残念な女子大生風の雰囲気から同じ人とは思えない厳格な女性教頭先生のような雰囲気へと豹変していた。

 岩山へ絡みつく野薔薇のようだ。


「山の民です。けっして逆らわぬように……」


 娘であるイノウタですら少し緊張しているように見える。

 周りに居並ぶハリラタ国の従者達も息を飲むかのような押し黙り方だ。


 イドリーを見るデスリエ王女の黄緑色の瞳が輝いている。


(魔眼なのか? 金環を開くのは止めておこう……何か怖い)


 瞳の輝きが収まると、またデスリエ王女の雰囲気が変わった。

 上目遣いでニヤニヤとした顔、年齢不詳だ。

 蕾から満開まで揃った薔薇の花束のような印象だ。

 修道院に立ち寄っていた商人の中に似たような表情を見た記憶がある。


「お前の目的は分かった……が口に出されると、こっちも場合によっては引き渡さにゃならなくなる」


「谷の民です。しっかり考えて話す事を勧めます」


(何かしら心か頭かを覗くような魔眼なんだろうか?)


「なるほど……ではピスタの友人として入国を希望します」


「ほう、理解が速い男は嫌いじゃない。で、こちらは何を得る?」


「何を、お望みでしょうか?」


 イノウタの顔が曇った。

 どうやらイドリーは言葉を間違えたようだ……

 つまらなそうな顔で王女は横を向いてしまった。


「母ちゃん、前から言ってた僕のハリラタ行きでどうだぜ?」


 ニヤリ。

 デスリエ王女は、めくったポーカーのカードが良かったかのような表情をした。


「やだぁ、ピスタ名案~」


「花の民です。はぁ、これだから鯨宴の後は嫌になる……」


 イノウタは花の民モードの母が嫌いらしい。





 その後、ピスタが工房街でスカルフェイスツノシャチの角から造って来たレイピアを王女にプレゼントするなど謁見から宴会へと場は趣向を変えた。


 デスリエ王女もピスタ以上に魔力量が多いらしく。

 レイピアを振ると黒色魔力の慟哭(どうこく)が発現していた。

 もちろん魔力の枯渇など起こさずピンピンしていた。

 イノウタによると剣を振った時の王女は草原の民だったそうで騎馬民族で好戦的なのだとか。


「母ちゃん僕も武器を造ったんだ、見てくれだぜ」


「やだぁ、ピスタの武器かっこいい」


 ピスタは大槌(おおつち)を造っていた。

 こちらも同じく慟哭を放つ。

 ピーリーが名付けたらしいその名。


 スカルホーンシリーズ


 威力は凄いが普通の魔力量では使いこなせない妖剣である。

 いや妖槌になるのか?


 宴会がすすむにつれドワーフ達は、いつも通り酔っ払う。

 そして酔ったドワーフ達が何人もピスタの大槌を振っては、ぶっ倒れていた。

 ピスタ以外に倒れなかったのはデスリエ王女とイノウタだけであった。




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