王船と妖剣
次々と空へ浮かび上がる鯨達。
その向こうの沖へ大型の船が何隻も停泊していた。
鯨宴を見学し鯨が海を離れたタイミングでラパに寄港するらしい。
ラパが王制を廃す前から続いている伝統との事だ。
「その王船にピスタの母さんが乗ってる訳?」
「そうだぜハリラタの王女だからな」
そこでイドリーが考え込むが何かに思い当たったようだ。
「もしかしてクモ王女の?」
「その呼び方は僕好きじゃないぜ」
「正式名は知らないのですが、王女がピスタの母って事でしょうか?」
「そうだデスリエ王女だぜ」
クモ王女の話は修道院でも聞いた事がある。
気に入った男を蜘蛛の巣に絡めて次々と虜にしてしまう。
そうして虜にした男達を蜘蛛の糸で操り無敵の国を作った伝説の王女だと……
そんな話だったと思う。
実在するとは知らなかった。
しかもピスタの母?
「じゃピスタはお姫様なの?」
「いや、たくさんいるんだぜ母ちゃんの娘は」
「あらあら、家系図が蜘蛛の巣のように張り巡らされているからクモ王女でしたかしら」
「さすがメルカだぜ」
修道院で聞いた話と全然違うじゃん。
ま、男のガキの噂話なんて大袈裟なホラ話なのは、この世界も前の世界も一緒って事だな。
ハリラタは国の四方八方を他国に囲まれた小さな国だったそうだ。
普通なら、とっくに併合されているはずの規模の国。
それがデスリエ王女の策略なのか多くの国へ娘を嫁に出している事で併合されず逆に周辺国を纏めてあげてしまった。
結果ハリラタと言う小さな国は周辺国を飲み込み多民族国家ハリラタとなった。
「ふむ我々が向かう予定なのも、そのハリラタなのですが……」
運命の巡り合わせか?
「都合が良いんじゃないですか? 王女の娘と知り合いなら」
「それが……その……」
イドリーらしくない切れの悪い話し方だ。
「もしかして密入国するつもりだったのか?」
「えー!」
我々は追われている。
正式な手続きで他国へ入国するとしよう。
テーベの鎖がバビロニーチの政治力をどこまで行使できるかは分からないが行使できた場合、あっさり引き渡されてしまう可能性が高い。
なるほど聞けば当然の判断だ。
さすがイドリーである。
が、しかし王女に会った後で、その国へ密入国する?
いくら何でも節操が無さ過ぎるだろう。
「任せろ母ちゃんに頼んでみるぜ」
「断られた場合が困るので……うーん困りましたね」
それでもピスタは大丈夫、大丈夫と言いはって聞かなかった。
はてさて、どうなる事やら。
「ピスタいるか? 見てくれないか?」
工房街に入り浸っていたピーリーが何やら抱えて城へ戻って来た。
「何だぜ、こりゃ」
「例のツノから打ち出した武器なんだが……どうも様子が変でな」
スカルフェイスツノシャチから取り出した角は白かったはずだが工房街で武器として仕上がって来たそれは……
禍々しい黒色と紫色の斑模様だった。
まるで、あの黒色魔力の慟哭のような色だった。
「魔剣?……と言うより妖剣かもだぜ」
解析眼を発動したピスタの見立てでは妖剣だと。
「やっぱりか、試し斬りをした職人がぶっ倒れてしまったんだ」
「使う度にダメージを受ける? 魔力を吸う? 呪いを受ける?」
「何でアーモンがウキウキしてんのよ?」
だって妖剣って言ってるが、ようは妖刀だぞ、男の子は興奮して当たり前だ。
お祓いしてみたい。
そうだ!
「任せなさい……はらいたまえ、きよめたまえ・・・かしこみ、かしこみもうす……」
「何それ詠唱?」
「ふっふっふ、邪気は払われた」
「何も変わってねえぞ」
(そ、そんな神社で鍛えた祝詞が効かないなんて……バカな。)
「まあ、いいや振ってみるぜ」
ブンッ!
ヴゥヴァァァー!
「うわっ」
城の壁が縦に吹き飛んでしまった。
ツノシャチの慟哭と同じような黒色魔力が噴き出ていた。
「これは恐ろしい威力です……」
「魔力が吸われてるぜ」
「やっぱり、そうだよな」
ピーリーもピスタと同じく魔力量は多いが魔法が苦手だそうだ。
さすが兄妹といったところか?
そのピーリーも振ってみたが黒色魔力は出なかった。
ピーリーが普通に振ってる為、同じように振った職人が魔力切れで、ぶっ倒れた。
そう言う訳のようだ。
「面白れぇぜ」
久々にピスタが工房街へ行ってしまった。
もう少しクモ王女の事を聞きたかったのだが……
つかピスタ壁どうすんの?




