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ツノ

「君の方こそ綺麗な目だね」


「分かったから、もうやめてくれ」


 あれからラッカの機嫌が悪い。

 まるで(つの)でも生えたかのように、おかんむりだ。


「ピスタも近付き過ぎるの気を付けた方がいいわよ口説かれるわよ」


「ハハハ僕は構わないぜ」


 そう言って首に戻ったウロボロスを見ていたピスタが顔を近付けて来る。

 顔が近づいて真っ赤な瞳に見つめられるのもドキドキするが近づく豊満な胸に目がいってしまいそうだ。

 やめてくれ益々(ますます)ラッカの機嫌が悪くなる。


 エブストーの操る船で港に戻った俺達は街をあげて歓迎されている。

 毎日のように誰かが酒を持って来てはラパと鯨を助けてくれた礼だと言う。

 ただ持って来るが、その分飲んで帰る。

 毎晩毎晩お祭り騒ぎだ。

 まぁ鯨宴なのだから、そもそも祭で間違いないのだが……


「やっぱ分かんないな、あの変化した時は配列とか色々と違ってるように見えたんだぜ」


「ヘーゼル達は何か知ってそうだったよね」


「ベハイム達じゃなくてヘーゼル達って言うんだ、ふーん」


「……」


「ラパの、みんなは見事にベハイムとヘーゼルの記憶がなかったのには驚いたぜ」


「んぁ、便利なの」



「それよりさ、ピスタって魔力量もしかして多くない?」


「そうよ、それ! 船の上で思ったわ」


「あぁ、バレちゃったぜハハハ」


 母親の遺伝で魔力量が多いそうだ。

 そう言えば母親を見てないが聞かない方が良いのだろうか?


「でも魔法使うの見てないけど?」


「ハハハ苦手なんだぜ、宝の持ち腐れだってよく言われるぜ」


「えー、もったいない」


 それで『込め』の時、カタロニより何度も繰り返せていた訳か……

 その後ピスタはラッカとカシューの髪を編み込み始めて話を逸らしていた。


「いや、俺はいいから」


「男だってカッコ良く編み込むぜ」


 逃げ惑っていると、何よ、いちゃついて……と、またラッカの角が生えたようだ。






 港ではビアンコ達、海の男が小型船を再び海へと降ろしていた。


「大切にしてた船だったのに守れなくて、すまねえ」


「何言っとる、ラパと鯨宴を守った船になったんじゃ感謝しとるぞいビアンコ」


「だが売れば引退後の暮らしの元手にゃなったはずだ本当に、すまねえ」


「ハッハッハそれなら、お前ぇさんが、くれたツノで元は取れたぞい」


 スカルフェイスツノシャチのツノは素材として特殊な物だった。

 伝説級の魔物から取れた素材……貴重なのは当たり前だ。

 ここはドワーフの楽園ラパ。

 周辺の貴重な素材の全てが集まる加工拠点である。

 その拠点にして特殊と言わしめる素材なのだから……





「これだけの素材を前にピスタが夢中にならないとはな」


「まったくだ小僧の首輪ばっか覗き込んでますぜ」


「それでツノシャチのツノは新たな天気計の芯としては、どうだ?」


「若頭だめでさぁ、暑かろうが寒かろうが変化が無さ過ぎまさぁ」


 ピーリーは工房街で新素材であるツノシャチのツノの研究に没頭している。


「では刃物としての適性を試してみよう……」


 鯨宴の最中は遊んで暮らすのがラパの男の定番だが未知の素材を前にすると他の物は見えなくなるのもラパのドワーフ達の定番とも言えた。

 寝る間も惜しんで試行錯誤が繰り返されている。






 リザードキャメルの店に一日一回は顔を出すのがイドリーだ。

 追っ手を警戒しての事である。


「おっ! イドリーのアニキ、これが昨日、街へ入った者のリストでさぁ」


「ありがとうございます。ただ、わたくしをアニキと呼ぶのは止めてもらえませんかね?」


「そうは、いかねぇよアニキはアニキだ」


 街へ入った当初は顧客の情報は漏らせねぇ。

 そう言って中々、相手にしてもらえなかったそうだがラパと鯨宴の英雄として認知されてからは事細かく報告して貰えるようになったそうだ。

 ただ、それ以来どこへ行っても尊敬の念を込めてイドリーはアニキ、メルカは(あね)さんと呼ばれ困り果てていた。






「兎の姉さん、これ持って行ってよ」


「姉さん、これ食べてって」


「あらあら、食べきれるかしら?」


 訂正、困り果てているのはイドリーだけだ。

 どうやら悪い気がしてない垂れ耳兎の姉さん発見である。




 六角天気塔の長針と中針は晴れ。

 ラパ湾の外海では今日も、また一頭の虹鯨が空中へと浮いた。

 半月近く続いた鯨宴も、そろそろフィナーレを迎える頃である。







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