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少女と首だけ男

「エブストー、二度と船にゃ乗らねぇって言ってた、あんたが行くんなら手伝うぜ」


「戻れるか分かんねぇが、ええのか?」


「ああ、あんたが居なけりゃウチの親父なんて海の藻屑(もくず)だったって聞かされて育ったんだ」


「俺も乗せてくれ、(かしら)や、お嬢をほっとけねぇ」


 パン職人になる前、エブストーは優秀な船乗りだった。

 同じく優秀な船乗りだった兄を失うまでは……

 兄を海の事故で失った後、その子供のビアンコを引き取った。

 自分の子供が居なかった事もあり我が子の様に育てて来たのだ。

 絶対に船乗りにはしねぇ。

 じゃなきゃ死んだ兄へ申し訳ねぇ。

 そう思って自身も船を降りてパン職人になったが、やはり血は争えずビアンコは船乗りになってしまった。


「絶対ぇ死なせねぇぞ、ビアンコ」


「エブストー僕も連れて行って」


「ダメだ、マルテルお前ぇにゃ感謝してるが死ぬかもしれねぇんだ連れて行けねぇ」


「僕は魔眼のせいで家族に捨てられたんだ、アーモン達は兄弟みたいなもんだし、エブストーも家族みたいに思ってる! 1人で生き残ったって仕方がないんだ」


 マルテルを真っ直ぐに見つめるエブストー。

 この出航で死んだらマルテルにパン工房を任せてもいい。

 そう思っていた。


「ああ、俺もお前ぇを、もう家族と思ってらぁ着いて来い!」


 理屈など、どうでもよくなる時がある。

 それが海の男、いやラパの男の気概(きがい)だ。





 海上から少し上の空中に、その少女は浮いていた。

 首を(たずさ)えて……

 息絶えたスカルフェイスツノシャチを見回しているように見える。


「なぁなぁヘーゼルたん、これってさ、マジ?」


「たんって言うな、死ねばいいのに」


「てかてか、それ(ひど)くね? 俺が死ねないの知ってるくせにさ」


「うるさい、()ちればいいのに」


 ゆっくりと海上で回転していたヘーゼルと呼ばれる銀髪の少女は一周し状況確認が終わると音もなく止まり、こちらを見た。


「お、何だ? あれ、ちょっと行ってみようよ! ヘーゼルたん」


「ちっ!」


 舌打ちの後ヘーゼルは船へと近付いた。

 音もなくスーッと海上を移動し船の上まで来るとストンと降りた。


「ちょっと、ヘーゼルたん舌打ちしたっしょ? 今」


「ちっ!」


 呆気にとられているとイドリーが前に出てメルカが防御魔法を展開していた。

 その顔は絶望の色に包まれていた。


「魔族が何の用だ? それともスカルフェイスは、お前達の仲間か?」


 イドリーの問いかけに反応したのはヘーゼルではなく首だけ男の方だった。


「ねえねえヘーゼルたん、こいつ魔族って言ったよヘーゼルたんの事じゃね? 俺っち魔族じゃねーしさ」


「魔族で悪いか?」


 ここで、やっとヘーゼルは答えた。


「いんや悪かねぇ、こいつらツノシャチは仲間かどうか聞いている」


 さすがドワーフを(まと)める立場だけある。

 カタロニは顔色一つ変えず前に出ながら話し始めた。


「ふん」


 ヘーゼルは興味を失ったかのように船の(ふち)へ足を組んで座ってしまった。

 そして横に首だけ男を置いた。


「ちょと、ちょと、ヘーゼルたん落ちたらどうすんのさ! 俺っちさ泳げねーからさ」


「ちっ、溺れればいいのに」


「酷くね? 死ねないとさ溺れ続けるんだぜ、マジ辛いんだからさ」


「いーから話すか消すか決めろ」


 どうやら消される可能性は残っているらしい。

 皆が残りかすのような魔力を絞り出す準備をした。


「うわ、待った、待った! それが何か聞きたいだけだからさ」


 首だけ男はベハイムと名乗った。

 興味があるのはウロボロス……宝具ウロボロスが変化した銀色の銛であった。


 イドリーが危害を加えない事を条件に引き出し旧都での事を話した。


「あー何か思い出して来たかも、泉の何とかが祈りで鍛えてどうとか……うーん、それからどうだったけ? 何にしても、そんな良い物だったなんて知らなかったな面白いな世の中は、んでスカルフェイスをその宝具で倒した訳? それよかスカルフェイスの事よく知ってたなお前さんら」


 よく喋る……


「あなたは何者なんですか? 首だけで生きてるみたいですし」


「ちっ、聞きやがった」


 ラッカの問いに銀髪の少女は舌打ちをした。


「よくぞ聞いてくれた可愛い子ちゃん! さぁさぁ聞いてくれ、んん」


 首だけ男ベハイムは咳払いし口上のように名乗り始めた……


「我こそは太古の神々の中の一柱の神であり名はベハイムなり、その昔、人の手により遂に紡ぎ出された不老不死の秘薬を巡り神々の意見は別れ集まりし集約の席にて(いさか)いとなりかけしところ、その場を治めんとし秘薬を無き事にせんと一気に飲み干したるが我が神としての最後の仕事であった。つまりこの世があるのも全ては我のお陰である感謝いたせ」


「えーっと?」


 このふざけた首が神だった?

 不老不死の薬?

 いや、でも首だけで生きてるし……


「よく分かりませんが?」


「ほら、いつもと一緒でしょ回りくどいのよ死ねばいいのに」


「えぇ! ヘーゼルたん酷い」


「要するに、その時に首を切られたのよ! 不老不死の薬を飲み込む途中にね、で、体だけ死んだの分かった?」


「んぁ分かった」


 なぜかカシューの理解が早い。


「それとスカルフェイスは仲間じゃないわ」


 むしろ監視というかスカルフェイスの出現を阻止したり殲滅したり原因を浄化しているそうだ。

 それが不老不死の呪縛から逃れる手段なのだそうだ。

 普通はスカルフェイスの群れを倒せる人間は居ないそうだ。

 それでウロボロスに興味を抱いたのだと……


「それにしても会ったばかりなのに、よく教えてくれますね」


「いいのよ、どうせ全部忘れるんだから」


「あ、もうヘーゼルたん早いよ! しょうがないなぁはい! 並んで下さいよぉやりますよ、港の方まで全部一気に消しますよ」


 消すの言葉に反応してラッカもピスタも俺も一斉に魔眼を発動した。

 イドリーらも武器を構えた。


「子らよ忘却せよ忘眼!」


 そう言って首だけ男のベハイムは目を光らせた。













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