砂を撒き散らし舞う
あっと言う間だった。
囲まれた。
10頭以上いるだろう。
「すまねぇ抜けれなかった」
「ビアンコさんのせいじゃないです」
ヤバい!
逃げれない。
皆、動けない。
「やるしかねぇぜ」
ピスタは銛に『込め』をやりだした。
と、同時に解析眼の効果が切れる。
さっきの『込め』はカタロニとピスタの共同で何とかダメージを与えた。
ピスタ1人の『込め』で果たしてダメージを与えられるのか?
「同時に雷撃を撃つから…はぁはぁ」
「ラッカ大丈夫なのか?」
「気持ち悪いけど魔力はたっぷりあるから……はぁはぁ」
「魔力は尽きたが銛を投げるのは任せろ」
カタロニの体力は充分そうだ。
ツノシャチは直進攻撃を仕掛けて来た。
先程のツノシャチもダメージを与えた後から黒色魔力攻撃に移行した事から一撃で倒さねば厄介な事になりそうだ。
ビアンコの操舵力で逃れてはいるが数頭が一斉に仕掛けて来ればマズいかも知れない。
「殺るぞ」
ブンッ!
「走れ雷ライトニング」
ダメだった。
カタロニの投げた銛は刺さったものの浅かった。
ラッカの雷撃は、ほとんど効いていなかった。
「くそっ」
悔しがる事しか出来ない。
現在、何も出来ていないアーモンは悔しがるしかなかった。
このままじゃ全滅しかねない状況にも関わらずアーモンには攻撃手段がなかった。
何とかしなければと考えを巡らせる。
(スキルで銛を投げるか? 『込め』が出来てない銛を投げても効きはすまい)
やはり傷を負ったツノシャチがスカルフェイスの口を開いた。
「来る!」
ヴゥヴァァァー!
ヴゥバン!
メルカの防御魔法で、そこそこ防いだものの皆ある程度のダメージを負っていた。
何とかしなきゃメルカの様子だと何度も防ぐのは無理そうだ。
「ピスタそれ教えてくれ」
「それって『込め』か? 急には難しいぜ」
単純に魔力を込めるって訳でもなさそうで上手くいかなかった。
保てないのだ。
一瞬似たような状態になるももの抜けていく。
「くそっ!」
「それで普通だぜ」
「はぁはぁ名工の武器とかラパならあったはずなのに持って来るべきでした」
悔しそうにイドリーが呟いた。
そうだ銛は形状としては最適だが所詮は漁の道具だ。
魔物との戦闘を想定した武器を揃えるべきだった。
囲まれた今となっては悔やんでも仕方のない事だ。
(武器さえあれば何とかなったのに、武器さえあれば自分も役に立てたかも知れない!)
アーモンの頭の中は後悔で満たされ始めていた。
傷を負ったツノシャチ以外のツノシャチが海中から突き上げてる。
そうかと思えば海上へ飛び跳ね攻撃してくる。
メルカの防御魔法も限界に近い。
「走れ雷ライト……かはっ!」
無理に飛び出したラッカがツノシャチのツノに接触した。
「ラッカ!」
ヤバい、それなりの出血だ。
「癒やし抱きたまえヒーリング、はぁはぁ」
治癒するメルカの疲弊も激しい。
イドリーとカタロニが短槍と銛でツノシャチのツノを逸らすので精一杯の状況だ。
ビアンコの操舵力を持ってしても次第に船はボロボロになりつつある。
このままじゃ……
(何がサークル手前だ……何が金環だ……種族スキルが多く使えて何だってんだ……何の役にも立てないじゃないか)
それでも後悔と諦めに飲み込まれそうだった時、ラッカの負傷が喝を入れた。
もう一度、銛へ『込め』を試みる。
が、やはり上手くはいかない。
ズシャッ!
船首が破壊された。
ダメ元で『込め』ながら銛を投げるが当たる前に抜けてしまい簡単に弾かれてしまう。
「くっそぉー諦めないぞ、くそ、くそ、くそぉ諦めねぇぞ」
その時……
シュッ、シュルルルル
「熱っ」
首のウロボロスが回転を始めた。
あの砂漠の旧都の王宮のような場所で尾を噛ませてから巻き付いて外れなかった銀色のウロボロスだ。
「ア、アーモン……くっ!」
「どうしたんだぜ!」
「んぁアーモン」
ラッカ、ピスタ、カシューが心配して声を上げる。
イドリーが獣人のスキルを使ってウロボロスに掴みかかるが魔力切れからスキルの発動も弱々しい。
イドリーが弾き飛ばされた、その時。
「くはっ!」
あの日以来、初めて首からウロボロスは離れたのだった。
二匹の蛇が砂を撒き散らしながら中に舞った!
そのまま二匹の蛇は回転しつつ絡み合い……やがて一つの形状へと姿を変えた。
「こ、こりゃ何じゃ?」
驚くカタロニの目の前。
そこには銀色に輝く一本の銛が浮いていた。
鋭く美しく佇む一本の銛。
ラッカの魔力視を発動せずとも神々しく放たれる力の波動が誰の目にも見てとれた。
アーモンは首の痛みも忘れ、その銀色の銛へ手を伸ばした。
(やれる!)
そう自然に思える程に力が漲るようだった。
「うるぁあぁぁぁ!」
無我夢中でツノシャチへウロボロスの銛を投げ込んだ!
一頭のツノシャチの虚空の目の間へ、頭の中心へ向かった銀色の銛は……
ヴパシュン!
見事、一撃でスカルフェイスツノシャチを仕留めたのだった。
投げた手の先から繋がる光の鎖を引き戻すとアーモンの手にウロボロスの銛は帰って来た。
砂を撒き散らしつつ……
そこからは蹂躙であった。
仲間を守る為……敵を殲滅する為……いつかのテイムガットを殴り続けた時のようにアーモンは銛を投げ続けた。
「うるぁあぁぁぁ!」
「うるぁあぁぁぁ!」
何度も何度もスカルフェイスツノシャチ目掛けて投げ込んでは引き戻した。
その度に砂を撒き散らした。
最後の一頭がスカルフェイスの口を開き黒色魔力攻撃を仕掛けて来る。
もうメルカに防御魔法を施す力は残っていない。
船も俊敏な操舵に耐えられる状態ではない。
当たればおわる!
ヴゥヴァァァー!
間に合わなかった。
仕留めるよりも先に黒色魔力は放たれてしまった。
「うるぁあぁぁぁ!」
それでも構わずアーモンは黒色魔力に向けてウロボロスの銛を投げ込んでいった。
突風が霧を散らすが如く黒色魔力は蹴散らされていく。
そして
ヴパシュン!
最後の一頭が息絶えた。
「ハァハァゼェゼェ」
「アーモン……」
「すげえぜ」
「んぁカッコイイ」
「あらあら、やったのね」
倒れそうになったアーモンに皆が駆け寄る。
港から歓声が起きていたが海上は寧ろ静かになったように穏やかだった。
終わった……守れた……帰れる。
イドリーに肩を支えられ、そう安堵した時だった。
船は影に覆われた。
見上げると何かが、ゆっくりと降りて来た。
大きなコウモリのような翼。
長く真っ直ぐな銀色の髪。
アメジスト色の瞳。
黒い皮の鎧。
長く美しい露出した足。
全てを見下すような覚めた無表情で、その少女は降りて来た。
小脇にニヤついた男の首を抱えて……




