表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/206

込め

 投石機は役に立たなかった。

 防波堤からではツノシャチの手前に鯨がいるせいで鯨に当たりそうで撃てずにいた。


「ビアンコだ!」


「すごい」


 三角帆の小型船を操るビアンコと仲間の船員達の腕は良かった。

 遠巻きに鯨を迂回してツノシャチへと近付いくと同乗した数人のドワーフ達が一斉に(もり)を投げ込んだ。


「あぁ、ダメだぜ」


 ピスタが呟くように落胆している。


 ツノシャチは避ける事もなく銛は弾かれた。

 幾多の大物を仕留めて来たラパの船員の銛だ。

 弱かった訳でも腕が悪かった訳でもない。

 やはり魚と魔物では訳が違うのだった。


「一旦、戻って来るようですね」


「あ、危ない!」


 その時ツノシャチが海中からビアンコ達の船を攻撃した。

 上手く回避したビアンコだが避けたはずみで鯨にギリギリの航路を通る。


 何とか戻って来たビアンコの船へ皆が集まる。


「ダメだ! 攻撃が効かねえ。冒険者は来てねぇか?」


「魔法なら効くかも知れねぇ」


 ラパには冒険者ギルドはない。

 大抵の事は海の男達やドワーフ達が片付けてしまうからだ。





「イドリーなら出来るでしょ?」


「はぁ、どうしてこうなるのでしょうか?」


「だって船がダメになれば乗れなくなるんだよ」


「今この時もカシューが狙われる可能性だってあるんです。離れる訳にはいきません」


 イドリーの腕なら、そこいらの冒険者にも引けはとらない。

 しかしカシューの警護、その目的に忠実な男は首を縦に振らなかった。

 当然だカシューを残して船に乗っている間に、さらわれれば打つ手がない。


「んぁ、カシューも乗るなの」


「そんなカシュー……様」


 こうしてイドリー、カシュー、俺、ラッカ、メルカ、ピスタ、カタロニが乗る事になった。

 操船は、もちろんビアンコと仲間の船員だ。


「頭!」


「お嬢!」


 抗争に出向く親分を並んで見送る子分達であった。


「親父は何をするつもりだぜ?」


「鍛冶の時にやる『()め』を銛に試してみてぇ」


 ラパのドワーフ達は鍛冶の腕が良い。

 その鍛冶の技の一つに『込め』がある。

 魔力を鍛冶道具に込める事で打ち上がりが違うそうだ。

 多くの者が使うがカタロニの『込め』はラパ随一のモノだ。


「では手筈(てはず)通りやってダメなら戻ります。いいですね」


 イドリーの指示で作戦が決まった。


 イドリーが魔法で攻撃。

 カタロニが『込め』で銛を投げ入れる。

 メルカがカシューを警護。

 俺、ラッカ、ピスタが魔眼で敵や鯨の動きを掴む。

 以上だ。





「なるほど、海の中まで把握出来るのは分かりやすい」


「魚群探知機みたいだな」


「何だぜ? そりゃ」


「あ、いや……ハハハ」


 ビアンコの腕の良さに加え位置情報を得た事で危なげなくツノシャチへの射程圏へと辿り着いた。

 ただ、思った以上に揺れる。


()るぞ」


 カタロニは銛を持つと『込め』をやった。

 薄っすらと光を(まと)う銛。

 カタロニの真っ赤な魔力の上昇も凄い。


 ブンッ!


「シャァー!」


「やったぜ!」


 ツノシャチに、そこそこの傷を付ける事が出来た。

 だが致命傷には遠い。


「大地の矢ランドアロー」


 イドリーの魔法も同程度のダメージだ。

 数を当てるしかない。

 そこでツノシャチは海中へと潜ってしまった。

 海中へ潜り船の真下からツノで突き上げて来るつもりだ。


「ビアンコ! 下です」


「おう! 大丈夫、見えてる」


 3人の魔眼が役立っている。

 それにビアンコ流石に上手い。

 引き付けてから避けきった。


 ブンッ


「……ランドアロー」


 いける!

 こんな事を何度か繰り返した。

 少しずつダメージは与えている。

 これならいける、そう思った時だった。


 今度は少し離れた場所へ浮上したツノシャチの禍々しい魔力が跳ね上がった。


「何か来る!」


「メルカ!」


 ヴゥヴァァァー!


 真っ黒な魔力の放出だ。

 ツノシャチは剥き出しの骨の顔スカルフェイスの口を大きく開け魔力攻撃を仕掛けて来たのだった。


 ヴゥバン!


 メルカの防御魔法とイドリーの防御魔法で何とか(しの)いだものの、まともに喰らえばヤバいだろう。


「一撃で仕留める方向で行きましょう。少し時間を下さい」


「よし、ピスタお前ぇも一緒に込めろ」


 こうしてイドリーは長い詠唱を始めカタロニ、ピスタ親子は一本の銛へ二人で『込め』をやり始めた。

 その為に一旦ピスタの魔眼が切れた。

 そして何故かラッカの魔眼も切れた。


「ん? ラッカ?」


「ごめん……酔ったみたい」


 船酔いだった。

 無理もない、ただでさえ揺れる海上でトリッキーな旋回を繰り返しているのだから。


「大丈夫ツノシャチは見えてるから休んでな」


 こうなると俺は、する事が、ない。

 防御魔法に集中するメルカの代わりにカシューのそばに居てやるのとラッカの背中をさすってやるくらいだ。


(他の誰かが魔眼を発動してなきゃ俺の魔眼は役立たずか……戦おうにも短剣じゃどうにもならないし……魔法も使いこなせてないクソッ)


「あらあら用意が出来たみたいね」


「ビアンコさん行って下さい」


「っしゃー行くぞ」


 全速力でツノシャチへ近付く。

 ツノシャチは逃げもせず黒色魔力を放って来る。


「受けきります」


 メルカが先程よりも上位の防御魔法を展開。


「来るぞ」


 ヴゥヴァァァー!

 ヴゥバン!


「受けきったぁ!」


 立ち上がる煙を抜けた先のスカルフェイスツノシャチの正面。


 ブンッ


「……ランドトルネードランス!」


 カタロニの銛が突き刺さり。

 イドリーの魔法が追撃をかけた。


「シャァアァァ!」


 スカルフェイスツノシャチは断末魔の叫びをあげ息絶えたのだろう沈んでいった。


「よっしゃー!」


「勝ったぜ!」


 港の方からも歓声があがっている。


「ふう、疲れました」


 さすがのイドリーも魔力切れだ。

 カタロニも同じく魔力切れを起こしていた。

 ラッカは船酔いでダウン。

 メルカも、そうとう消耗している。

 カシューは捕まっているのが精一杯。


 元気なのは俺とピスタだけだ。


「さあ帰ろう」


 意気揚々と港を目指した、その時……


「まずいぜ」


 解析眼を再発動したピスタが言う。


 金環を再度発動。

 そこにはツノシャチと思われる群れが海中に見えていた。


























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ