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鯨宴パン

「青鯨だぜ」


「やった私は緑鯨よ」


「僕は桃鯨だ」


「ほほぉ港の男にゃ博打(ばくち)好きも多い、こりゃ喜ぶかものぉ」


 白鯨……繁栄運

 赤鯨……勝負運

 青鯨……航海運

 黄鯨……金運

 緑鯨……健康運

 桃鯨……恋愛運

 紫鯨……仕事運

 斑鯨……不吉

 などなど鯨宴で生まれる鯨の色で占われる運に合わせて白鯨など鯨の名前をパンの中に書き込んだ。


 釜の外側で犠牲になっているパン。

 固めで空洞のある、あのパンの空洞に書き込んでるのだ。


 マルテルの炎眼あればこその仕掛けだ。

 砂漠で見せてくれた重ねたサボテンの奥側だけにパンの絵を書いた技を使っている。


「食べたり割ったりして初めて何色の鯨か分かるってのは面白いねぇ」


「あらあら、奥さんのアロエジャムも合いますね」


 このアイデアは神社で育った日隠とわ時代の記憶が役立っている。

 そう神社には定番の、おみくじだ。





 そんなやり取りをしてる間に店先ではイドリーがビアンコに乗船を打診していた。


 2人は意気投合したようで店先から見えるラパ湾と鯨宴を眺めながら楽しげに話し込んでいた。


「これで船が確保出来ました」


 嬉しそうに言うイドリーだったがエブストーの前で言うのはどうだろう……


「ふんっ!」


 ほら機嫌を損ねてしまったじゃないか……






 それから数日の間にエブストーのパン工房の前には長蛇の列が出来ていた。


「桃鯨よ! やったわ彼にアタックしようかしら」


「黄鯨だわ! 何買おうかしら」


 博打好きの男共にウケるかと思ったが飛びついたのは、うら若きラパの娘達だった。


 港から遠い高台にある為に売れにくかったパン工房。

 それが今は逆転していた。

 高台にあるから鯨宴が見えるのだ。


「鯨宴を見ながら鯨宴パンで占うのがラパの流行最先端よ」


 何故だか、ラッカさんファッション雑誌のライターばりの発言である。

 もちろん、この世界にそんな雑誌はない。


「あらあら、エブストーで朝食ね」


 メルカは映画評論家のような発言である。

 もちろん、映画もない。





 マルテルは大忙しだ。

 でも、とても楽しそうでイキイキしている。


「こうか?」


「黒コゲパンの出来上がりね」


「うっ」


 俺の金環でマルテルの作業を手伝おうとなったが上手くいかない。


「面白いぜ! ほい」


 マルテルの炎眼を俺の金環で皆に波及(はきゅう)させているのに俺よりピスタの方が使いこなせてるのは何故?


「あー出来ねぇ」


「仕組みを理解するんだぜ」


 ピスタの解析眼が発動されて金環の影響でパンの中が見え始めた。

 レントゲンみたいだ。


 マルテルの手元を見ると、まるでレーザー加工機で文字を書いているように焦げ目が付いていく。

 だが、そんなのは日本にいた俺からすれば予想通りの映像なのだよ。


「んぁ面白いなの」


「ちょっと待って! こうしたらどう?」


 ラッカも魔力視を発動した。


「おぉー!」


 俺は目からビーム的に効果が出るのが魔眼だと思っていたが、違う事が分かった。


 魔眼は目標のそばにある魔素を利用する力なのだと……


「あ、分かったかも」


 そうだと理解出来ればマルテルと同じ様にパンの中へ文字を書く事が出来るようになった。


「ちょっと待ってアーモン、あんた魔力使わずに魔眼発動してるじゃない」


 新たな発見だった。

 魔眼は自らの魔力を使って目標の近くの魔素に働きかける。

 どうやら、そう言う仕組みなのだと。

 だが俺は魔力を使わずに魔眼を発動してるらしい。


「いや、異常に少ないだけだぜ」


 訂正、魔力を異常に少なく発動しているらしい。


 さすがピスタは解析に関しては、きっちりしている。


 胸がデカイだけではないのだ。


「あ、今、解析眼で胸とか見ようとしたでしょ!」


「アハハ魔力が揺らぎまくってるぜ」


「んぁマルテルもなの」


 さすがラッカは男の下心に関しては、きっちり見てる。





 そんな、やり取りをしてる時、パン工房の作業から逃げていたビアンコが飛び込んで来た。


「エブストー見てくれねぇか? どうも鯨どもが変なんだ」


 また喧嘩か?

 そう思ったがエブストーは無言でビアンコに着いて行った。









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