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六角天気塔

 鯨宴(げいえん)……

 ラパ湾近海で年に一度起こる鯨の出産である。

 赤鯨、青鯨、緑鯨、黄鯨など様々な色の鯨が何十頭も集まり出産するが色が違うだけで同じ虹鯨(にじくじら)という種類だ。

 神聖な生き物として(あが)められている。

 その年に産まれる鯨が何色かで、どんな年になるかが占われるのが特色だ。

 中でも白鯨(はくげい)は特別で繁栄の象徴とされ、とても豊かな年になると言われている。


「これで半月は足止めです……」


 鯨宴が終わるまで全ての船は海に出ない。

 邪魔をしない為もあるが巨大な鯨が何十頭といるのだから危険なのだ。

 海を中心に動いているラパの街では仕事が休みになる者も多く、この時期は楽しく遊んで過ごすのが定番だ。

 日本のお盆休みや祭りのような感覚に近いだろう。




「追っ手が来てしまいますかね?」


「追われてんのか?」


「あなたは黙っていて下さい」


 彼女……赤毛の少女ピスタに会った途端に鯨宴が起きたのでイドリーは彼女の事を疫病神のように思っているようだ。


「普通、旅人は鯨宴に会えば喜ぶんだぜ、縁起が良いからって」


「あらあら、じゃ何か良い事が起きるかも知れませんね」


「君だって喜んでなかったじゃないですか? 早過ぎるって」


「それは……鯨宴の時期が分かる天気計を作るのが僕の目標だからな、また今年も間に合わなかったのが悔しかったんだぜ」


 ピスタは丁寧に編み込んだ赤毛の少女で俺やラッカと同い年くらいだ。

 ドワーフベースのミックスだがドワーフである事に誇りを持っているらしくミックスである事を言おうとしなかった。

 一般的なドワーフの女性より体の線が細いので見れば分かるんだが……


「じゃ、じゃあさエブストーのパン工房に行けるよね?」


「マルテルは黙ってて! 今は、この娘が()けて来た事を聞いてるんだから」


「ご、ごめん」


 ラッカさんマルテルには厳しい。


()けてなんかないぜ! その金属が見たいんだ首の」


「アーモンの首輪?」


(はぁ、もう普通に首輪って言ってるじゃん)


 天気計は武器や道具には使えないような金属、熱で変形や変色を起こすような弱い金属の特性を利用したモノだそう。

 役に立たないと思われていた金属の使い道をチ王が編み出したのが天気計の始まりなのだと。

 そして、このピスタは新たな金属を探しているらしい。






「そうだ、怪しい者じゃない事を証明するからさ(うち)まで来てくれよ! その追われてるってのも解決するかも知れないぜ」


 ピスタの言う事を、すんなり信じた訳じゃないが魔力視にも敵意は見えなかった。

 それに追われてる事が解決……という言葉に釣られて警戒しつつも行ってみることになった。


 ピスタの後を付いて路地を歩くと何人もの街人が次々に声を掛けて来る。

 どの人も皆、好意的な接し方で、どうやら悪い人でない……と言うか人気者のようだ。


「えーっと、これは?」


「遠慮なく入ってくれだぜ」


「えーっと、ピスタって?」


「お嬢! お帰りなさいやし」


「ただいまだぜ」




 城だった……




 使用人の人々の挨拶が日本の反社会的組織な雰囲気な事に引っかかったのは俺だけなので黙っておこう。


(偉い人が出て来たら、おじきとか言うんだろうか?)


「チ王の子孫って事?」


「そうだぜ」


「だから鯨宴予報の天気計を作りたい訳かぁ」


「六角天気塔の最後の一面に据えたいんだぜ! アニキに先を越されない内にな」


 六角天気塔には、それぞれの面に違う天気塔が()えられている。

 一面……チ王の創った初代天気計、シンプルな明日天気計である。

 二面……チ王と息子の合作、一刻週間月間天気計。

 三面……チ王と孫の合作、砂嵐天気計でラマーニ修道院にあるものと同じ作りだ。

 四面……5代目の落とし子の仕掛け天気計

 五面……工房街出身者の季節天気計 仕掛け部分が季節毎に変化する仕様だ。

 六面……空白、次の歴史的な発明の為に空けてある最後の面だ。


「なるほど、ここなら鎖でも迂闊に手出しは出来ぬかも知れませんね」


「その金属を調べされてくれれば鯨宴が終わるまで城で守るぜ、それでどうだ?」


「あらあら、もう良い事が起きたのかしら」







 客間らしき部屋に通され何人もの使用人が世話を焼いてくれる。

 どうやらピスタは久しぶりに城へ戻ったらしく俺達は連れ帰ってくれたと感謝され何だか大層な、おもてなしを受けている。


「何で久しぶりに戻った感じ?」


「工房街にいる方が楽しいんだぜ、それに工房街にいる家族は僕だけじゃないぜ」


 ラパは王制を廃しており城はチ王の末裔、チオ家の住まいでしかない。

 しかしチオ家の者は皆、工房街に入り(びた)り城に帰って来る事は滅多にないのだそうだ。

 それでも使用人は王制時のまま世襲(せしゅう)で雇われ続けており兵力としても中々ものを抱えている。

 その使用人達のチオ家に対する奉公心は厚く戻られた時に城を万全の体制に整え続けているそうだ。


(さかづき)とかで兄弟の(ちぎ)りを交わしていそうだ)


 使用人だけではない、この街の人々は皆、チオ家あってのラパであると感じており王制なき今でもチオ家を王家のように思っているのだった。





「じゃ、見るぜ」


 ウロボロスは外せないと言ったところピスタは、それで構わないと言い俺の首元に顔を近づけて見る事になった。


(ち、近い! 近過ぎるよ)


 俺の鼻の辺りにピスタの赤毛を編み込み作業用ゴーグルをヘアターバンのようにしている頭が来る。

 男の子のような喋り方だが女の子特有の良い香りが、ふっと漂った。

 それに豊満な胸が今にも当たりそうで……


「アーモン! 鼻の下! 伸びてるわよ」


 ラッカさんは俺にも厳しい。


 ピスタの赤い瞳が光る。


「何だぜ、こりゃ」


 魔眼、解析眼(かいせきがん)

 それが彼女ピスタの持つ魔眼だった。



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