砂の錬成兵事件
「それでも鳥籠と手を組む訳にはいかん」
「マフムード様、どうしてですか!」
「エラトスや、気持ちは分かるが、それではテーベのバランスが崩れてしまうのじゃ」
「そのバランスを戻す為に鳥籠と協力して鎖を叩く必要があると言っているのです!」
ラマーニ修道院で石化が解けた後、テーベの小箱に戻ったエラトスは組織の長マフムードに直訴していた。
役割の違いから互いに距離をとっていた小箱と鳥籠だが今回の修道院襲撃騒動を協力して対処した事から雲行きが変わっていた。
バタン!
憤慨したエラトスが叩きつけるようにドアを閉めて出ていく。
「やれやれじゃ」
ラマーニ修道院長ベアトゥスからの書簡『砂の錬成兵事件について』に目を通しながらマフムードは溜息をつく。
長年の友であるベアトゥスから賊の正体は掴めているが他国を装っている以上、修道院は動けない事。
預かっていたアーモンを別口で預かっていたカシューナ皇女と共に逃がした事。
メルカと鳥籠の1人が付き添って行ったという事。
さらに修道院は今後、開かれた修道院へと様変わりするので今までの様に匿える場所ではなくなる事。
それらが2人にだけ分かる隠語で詳細に書かれていた。
「金環のアーモン……」
何度も読み返した書簡を見つめつつ、あの日の産まれたての赤子の瞳を思い出していた。
「我々の問題で修道院に迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
「フラマウよ、そう言うな、儂とてテーベが、なければ生きてはおらぬ身じゃて」
大砂嵐の収まった修道院では騒動の後始末に追われていた。
ただでさえ多いベアトゥスの未処理案件は机の上から崩れ落ちそうなほど積み上がっている。
「ですが責任をとって修道院を去らなければ気が済みません」
「はぁ、責任に感じるのであれば残ってくれる方が助かるのだがのぉ」
ベアトゥスの目は鼻眼鏡の奥で疲れ果てていた。
「私の代わりは鳥籠から1人メルカの代わりは小箱から1人来るよう依頼してあります」
「どうしてもか?」
「はい、修道士を危険な目に合わせた責任を取らせて下さい」
塔の上にある修道院長室の窓からは大砂嵐の後特有の優しい風が入って来ていた。
その風が運んで来る砂掃除の声が絶え間なく聞こえている……
「衛僧長殿! いかがいたしましょう?」
「しゃーねぇ汲み上げ装置前に監視小屋を作れ」
ツイストサンドワームが居なくなった事で旧都を通って修道院内部へ侵入が可能になった。
まだ誰にも知られた訳ではないが情報が漏れるのは時間の問題だ。
すでにベアトゥスと修道院の今後については話がついている。
旧都については漏れれば遺跡として調査隊の派遣。
お宝狙いの冒険者や商人が大挙するのは目に見えている。
現在見つかっている入口以外の侵入口が見つかる可能性もあるだろう。
ラマーニ修道院が隠していた疑いを持つ者が出る恐れもあり修道院が敵視されない為には旧都を独占せず開放。
修道院自体も、より開かれた修道院へと改革を進めるしかない……
「僧窟の方は、いかがいたしましょう?」
「あぁ、しばらく腕の立つのを置いておけ! ったく、めんどくせぇ」
見張りとして窟僧の振りをして半分遊んでいたポイティンガーは面倒そうに衛僧長として忙しく指示を出していた。
イドリーの指示で囮として大砂嵐の中へ飛び出した2名の小人族コロポックと1名の獣人2名のヒューマン。
「イドリー様は上手く逃げたかな?」
「大丈夫でしょ、こちらで相当引き付けたし」
「むしろ魔眼修道院に入る時の方が緊張したよね」
小人族コロポックは子供のような背格好ながら大人の顔である。
今回彼等の身長を嵩上げして普通のヒューマンを装って修道院へ入壁した。
その嵩上げ分が例の武器……エラトスの剣とイドリーの短槍であった。
「たしかに変な歩き方で怪しかったからな」
「長年のイドリーの信頼があればこその検査なし通過だよね」
「いやいや長身の俺の姿が自然過ぎたのだダハハ」
任務の重大さを理解しつつも、どんな時でも陽気で、ふざけたノリなのが小人族コロポックの特徴である。
その頃、テーベの鎖では……
「くっそぉ、この俺が嵌められただぁ? 許せねぇぇ」
ウルゲは何度も叫んでいた……




