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港湾都市ラパ

 途中のオアシスでリザードキャメルを受け取った。

 イドリーが元々預けていたらしく用意の良さに皆で感心した。


「予定より人数が多いので一頭買い足しました」


「私とマルテルのせいかな……ごめんなさい」


 強引に着いて来たラッカが初めてイドリーに謝った。


「もう良いですよ、あなたが居なければウロボロス戦はダメだったかも知れませんから」


 もし、あそこで俺が死んでいればエラトスに合わす顔がないのだとイドリーは呟いていた。




 リザードキャメルはトカゲとラクダの中間のような生き物で砂漠の旅の定番らしい。

 ラクダの形にトカゲの肌、尻尾はトカゲに近い。

 速度は、それ程でもないが人が歩くよりは全然ましだ。

 夜は砂に潜って寝るのだが、朝に砂から出てくる姿が何とも可愛いのでメルカとラッカとカシューが見ようとして早起きになったのには笑った。


「あらあら、お尻から出て最後に頭を持ち上げるのが可愛らしいわね」


「出るよ、出るよ」


「んぁ、出た~」








 リザードキャメルのお陰で移動速度が上がり遂に目的の地ラパが見えた。

 永遠に続くかのような砂漠の最後に岩山が現れ、それを谷沿いに抜けると急に木々が生える森になり、やがて見晴らしの良い丘に出た。


 風に湿り気が含まれた。


「見えた~」


「あれがドワーフの楽園、港湾(こうわん)都市ラパです」


「すごい」


 圧巻の景色だった。

 鳥瞰図(ちょうかんず)のように見下ろせている事もあり、その発展の程が伝わってくる。


 ラパは大きなラパ湾を防波堤で囲み大きな船から小さな船まで係留(けいりゅう)出来る港を中心に発展した港湾都市らしい。

 大きく分けると倉庫街、商人街、工房街に城がある。

 中でも目を引くのは巨大な天気計の塔で街のシンボル的な物だろう。


「あらあら、あれが六角天気塔ですか?」


「そうです、有名ですからねメルカも知っていましたか?」


「チ王の天気計が見れるとか」


 天気塔の説明を聞きながら丘を下っていくとラパの裏玄関口に到着した。

 あくまでも港が表とは港湾都市らしい。

 裏玄関を入ると、すぐにあるのがリザードキャメルの預かり所や売り買い所。

 今回イドリーは全てのリザードキャメルを売り払っていた。


「元気でね」


「んぁ寂しい」


 ラッカとカシューは最後まで撫でて離れ辛そうにしていた。





 港から城へ大きな通りがあって中央広場に六角天気塔がある他は、とにかく路地、路地、路地だ。

 職人気質なドワーフの楽園だけあり建物なんかも好き勝手に直したり改造したりと手を加え続けた結果こんな入り組んだ街になったのだとか。

 低めの天井の石造りの家々に武骨な鉄のデコレーション。

 いつもどこかで何かを造る音がしてる。

 それがラパの印象だ。


 商人が利用する一般的な宿をとった後、商人街へ繰り出した。


「わぁ、賑やかなんですね」


「他国の船も含めて多くの船が着きますからね」


 ドワーフの楽園と聞いてドワーフだけの街かと思ったが商人街には色々な種族が見えた。

 ドワーフは職人街に集中しているそうで商人も客も獣人やヒューマンが予想以上に多い。

 エルフも見えるが純血種ではないエルフベースのクォーターやミックスだろう。

 割合としては半分がドワーフ残り半分に色々な種族といったところか……


「まずは着る物を買いましょう」


「これで良いよ、僧服も嫌いじゃないし」


「あらあら、安全の為ですよ」


 そうだ、まだ狙われなくなった訳じゃないんだった。

 とっくに(おとり)はバレているだろう。





 商人街のスークと呼ばれる市場で服を買い食事をする事にした。


「商人装束で船に乗りましょう」


「パン! パンを食べようよ」


 裾が膝まである麻のシャツに裾を絞ったダブダブのパンツ。

 シャツと同じ長さのベストを着る。

 これが、この辺りの商人装束だ。


 男性の麻のシャツは胸元が大きく開いており気前の良さをアピールしているらしいのだが……


「ウロボロスの宝具が目立つから嫌だなぁ」


「首輪みたいで奴隷と間違われたりするかな?」


「奴隷は足枷(あしかせ)が主流ですので大丈夫と思いますよ」


「マルテルのはベストが短いのね」


 短いベストは職人装束らしくドワーフは、その方が自然なのだとか。

 確かに見かけるドワーフは皆、短いベストを着ている。

 これは職人の作業性なのだろうか?


「パン職人みたいで嬉しいよ!」


 そんな感じで、この世界初めてのショッピングを楽しんだ。




 食事は宿の人に教えてもらった庶民的な店に入った。

 新鮮な魚貝類がメインの家庭的な料理が旨い。

 ただ、パンが固くてマズい……


「パン……パンが……」


「まあまあ、マルテル……ほら魚貝は旨いぞぉ」


「おんや、パンが固いかい? やっぱりダメだねぇエブストーのとこじゃないと、はぁ」


 店の女主人によると普段仕入れているパン屋が休業中で別のパン屋から仕入れてるとの事だ。

 本来なら魚貝に合う旨いパンがこの店の売りなんだそうだ。


「ど、どんなパンですか?」


 マルテルが熱心にパンの事を聞く間、女主人は嫌な顔もせず、いかにエブストーのパンが素晴らしいかを語っていた。


 船さえ決まれば明日にでも乗り込む予定になっている。

 マルテルよ残念だがエブストーのパンは食べれそうにないな。


 マルテル以外のメンバーは俺を含めて大満足である。

 砂漠の生活では魚貝類なんて、めったに食べれなかったんだ、当然である。




 ニコニコ顔で店を出て少し歩いたところでメルカとイドリーの様子が変わった。


「視線を感じます、次の角を曲がったら隠れて下さい」


 イドリーが小声で皆に伝えた。

 早くも追っ手が来たのだろうか?

 ここまでの旅が楽しかったので、この緊張感にがっかりした。



「アーモンやるよ!」 


「分かった」


 角を曲がる前にラッカが魔眼、魔力視を発動した。

 俺も魔眼、金環を発動……みんなにも見えるように調整したつもり。


 角を曲がるとイドリー以外の者は物陰に隠れた。


「何の用だ!」


「あ、えっと、あれ?」


 現れた赤毛の少女にイドリーが訪ねた。

 魔力視には何も変化なく敵意はないように見える。

 それにしても、おかしな格好だ!

 赤毛は丁寧に編み込んであり作業用のゴーグルを着けていた。

 少女でありながら職人装束の短いベスト、豊満な胸がベストを突き上げ外へと追いやっていた。

 さらに腕や腰には鉄や皮でゴチャゴチャと道具類が取り付けられていた。

 その摩訶不思議な出で立ちに魔力を使わずに攻撃出来る可能性を感じ警戒を解かずにいた。

 その時!


 ガゴーン!

 ゴガーン!

 ロンロンロンロー……


 大きな鐘の音が鳴り響いた。

 と同時に港の方から大声が聞こえて来た。


「来鯨~! 来鯨~!」


「いや、もう一頭、いやもっといる」


「鯨宴だぁぁぁ」


 睨み付けていたイドリーと呆気にとられていた赤毛の少女が、なぜか声を合わせて言った。


「そんな早過ぎる!」














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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魚貝と魚介が混ざってて表現が不適当? 魚貝(ぎょばい)類…魚と貝 魚介(ぎょかい)類…魚と貝と甲殻類とかタコとか水産物全般を指す言葉
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