クリスタルカゲロウ
時々現れるダブルスコーピオやアロエの植物系魔物、アロドラゴラを倒しつつ砂漠を歩く。
アロドラゴラは人の2倍くらいの高さがあって砂漠に程良い日陰を作る。
その日陰に誘われて休もうものなら丸飲みされてしまう。
いわゆる食虫植物的な魔物。
3日目にマルテルが、うっかり座ってしまい見事に丸飲みされた。
イドリーが切り裂こうとしたら中からマルテルが炎眼で焼ききって出て来たので、むしろイドリーの方が危なかったという笑えない話だ。
そのイドリーだが砂漠の旅に慣れていた。
仮の姿とは言え砂漠の商人として何年も旅をしていただけある。
日の出前に歩き始め日が高くなった頃に休んで昼寝をする。
日が傾きかけた夕刻前に、また歩き始めて日暮れと共に休む。
「器用なもんですね」
昼寝の間は影を作る為に大きな布をタープのように広げる。
その布を夜には杖を柱にしてテントのように張る。
簡易的な天幕だ。
高さはないが寝るには充分だ。
「まるで折り紙みたいだな」
「何ですか? オリガ……ってのは」
「紙を折って鶴……鳥の形とかにする遊びなんだけど」
「お金のかかる遊びですね貴族の遊びでしょうか」
この世界では紙は貴重品だ。
折り紙なんて文化はないのだが教えたとしても流行りはしないだろう。
夜。
「じゃ燃やすね」
砂漠の夜は寒い。
マルテルの炎眼で暖をとろうにも薪すらないのが砂漠だ。
そこで時々、生えている巨大なアロエやサボテンを折っては紐で縛って引きずりながら歩く。
すると歩き終わる頃にはカラカラに乾いて燃やせる程度になる。
「あらあら、マルテルも炎眼に慣れたわね」
「うん、こんなのも出来るんだよ」
メルカに褒められて浮かれ気味なマルテルはカラカラのサボテンを重ねて炎眼を発動させた。
「なによ燃えないじゃない」
ラッカに言われてもマルテルは自慢気な顔だ。
そっと上のサボテンを退けると下のサボテンにパンの絵が書いてあった。
「おおスゲーじゃん」
「これは面白い使い方ですね」
手前の物を通り越して向こうの物を燃やすとか焦がすとかする。
手先の器用さが炎眼の使い方にも現れてるようで感心した。
「ちょっと俺にも試させろよ」
こうして旅の合間に魔眼で遊ぶ事でコントロール精度も上がっていった。
「スコールだ!」
砂漠を歩き始めてから5日目に初めてスコールに出会った。
飲み水の補給は、もちろん男達は真っ裸になって天然のシャワーを浴びた。
「ズルいズルいズルい」
「あらあら」
「んぁ」
その夜に女性陣が体を拭くからと男性陣は天幕の外へ追い出された。
布一枚の天幕の外が、こんなにも寒いのかと思い知らされたのだが……
そのお陰で外に出なければ見なかったかも知れない不思議な光景に出会えた。
クリスタルカゲロウの羽化だ。
少し離れた窪地から相当数のクリスタルカゲロウが螺旋状に空へ登って行く。
透明なカゲロウで昆虫型の魔物の一種。
特に害もない。
近くで見れば気持ち悪い光景なのかも知れないが……
「月明かりが乱反射して、すごく綺麗」
「これは珍しい! 噂には聞いていましたが、わたくしも初めて見ました」
「おーい、みんなーすごく綺麗だよ」
天幕の隙間からメルカ、ラッカ、カシューと縦並びに顔だけ出して眺めていた。
「本当だ~何あれ?」
「虫だってさ」
「えぇぇ、気持ちわるっ! でも綺麗だからいっか」
「あらあら」
「んぁ」
顔だけ出してると言う事は今、天幕の向こうで彼女らはクリスタルカゲロウと同じく脱皮した状態で……
そんな事を想像してしまったところでマルテルと目が合った。
「だな、兄弟」
「だね、兄弟」
お互い納得顔で頷き合ってるのをイドリーが大笑いして見ていた。
今夜、俺達の中で何かがクリスタルカゲロウと一緒に羽化したのだろう。
俺の妄想とマルテルの想像が螺旋状に空へ登って行く。
「だな」
「だね」




