メルカの固有魔法
さらば魔眼修道院!
そう思って魔眼帯を捨てて旅立った。
と、思ったら……
「ちょっと! 何捨ててんのよ、まだアーモンは魔眼の制御出来てないじゃない」
「そうですね、麻痺の魔眼の敵とかと向き合ったら全員で麻痺を撒き散らしかねません」
「あらあら、拾っておきましたよ」
旅立ちと同時に叱られてるとか……
しかもラッカは制御出来るから、カシューは、ほとんど目を瞑ってるからと2人は魔眼帯を外してるし。
マルテルと俺だけ魔眼帯着けたままなんて何か嫌だ。
俺がゴネまくった結果とりあえず訓練も兼ねて魔眼帯は外したまま進もうとなった。
マルテルは外すと危険なので着けたままだ。
いざ、こうなると何かマルテルごめん……
ただ魔眼帯がないと地下である旧都は暗闇だ。
メルカの灯り魔法で照らしてもらう事になった。
「太陽の喝采サンライト」
「くはっ、眩し過ぎますシスター」
「あらあら、もうシスターでは、ないのですけど、満月の抱擁ムーンライト」
「おぉ丁度いいっすね」
「ちょっと、アーモン注文が細かすぎるわよ」
「ふふふ、いいんですよラッカさん」
「シスター……じゃなかったメルカさん? 私にも教えて貰えますか? 灯り魔法」
「はい、良いですよ、それとメルカで良いです」
「じゃ、私もラッカで」
シングルバットを倒しながら少し進んだ後、広めの良い場所があったので1日しっかり休む事になった。
テーベの事情なんかも、その夜に聞いた話だ。
「あらあら、もう出来るなんてスゴイわ、ラッカ」
「メルカの教え方がいいのよ、満天の明滅スターライト」
天井に満天の星空が広がった。
砂が積もって低くなった天井では充分な明かりだ。
なにより、とても美しい。
「おぉ初めてでコレは凄い……着いて来るのを認めた訳じゃないですが」
「んぁ、きれいなの」
「見たいなぁ、ね、アーモン僕も魔眼帯を外していい?」
「ダ・メ・だ!」
「そうよ炎眼で星は星でも太陽の上にいるみたいになるじゃない」
ハハハ
……あんな事があったのが嘘の様だった。
目の前で人が殺されたり、フラマウが血だらけになったり、自分たちも戦ったりした。
初めて魔物以外との戦い。
人と戦った……
その時は必死で違和感とか感じる暇もなかったけど今思い出すと手が震える。
(俺は、あの時に敵を殺す気でやっていた?……その気があったのだろうか?)
これはゲームでも何でもない。
手に残る剣のぶつかる手応え。
体に残る痛みの記憶。
(そうだ、やらなきゃやられるんだ)
油断するとシリアスな雰囲気になってしまう。
それは俺だけじゃなかったみたいで、そんな雰囲気をメルカが和らげ様としてくれた。
俺としてはロップイヤーの垂れ耳を見てるだけで和らぐのだけど。
さりげなくマルテルが魔眼帯でも見えるように魔法をかけていたし……
「こんなのも、ありますよ産卵の感涙ウミガメ座」
メルカの魔法で天井にウミガメの星座が描かれた。
海亀が涙を流すように星が並んでいる美しい星座で、この世界では人気の星座だ。
この辺りの魔法は灯り魔法の応用でメルカの固有魔法なのだそうだ。
「可愛い~教えて教えて」
「ウフフ何だか嬉しいですね、イメージが大切なんですよ。流氷のうたた寝アザラシ座」
(そんな星座あんのか?)
「よーし、砂掃除の常連アーモン座」
(何だよ、それ)
「パン座は? パン座はないの?」
「あらあら、ありますよ、マルテルに降り積もるパン座」
「流れ星だ~」
「流れパンかな?」
ラッカの魔力視が発動していたので彼女らの魔法の練習? 遊び? の間、その度に変化する魔力の動きを利用して俺は金環のコントロールを訓練していた。
「なかなか上手くいきませんね」
イドリーに言われて萎える。
そう訓練で失敗してるのも皆に見えてしまう……
(これは早く使いこなせなきゃ恥ずかし過ぎるな、はぁ)
「明日は、ここを出て南西に向かいます。そろそろ寝ましょう。最初の見張りは私がやります」
「南西って?」
「バビロニーチを出ます」
「えっ!」
「国内にいたのではカシューナ様を守るのは難しいので海を渡ろうと思っています」
海を渡るには港のある街へ行かねばならない。
国外ともなれば大きな港が必要で何日もかけて砂漠を抜けなければならない。
命がけの旅になりそうだ。
ただ、その前に命がけで抜けなければならない障害があるのだ。
ここ砂に埋もれた街、旧都を出る為に……




