旅立ち
ウルゲ達はイドリーの用意した囮に釣られ出て行った。
大砂嵐の中ラマーニ修道院の外へ……
どこまで騙せるか分からないが北から迂回しつつ東の皇都へ向けて移動するそうだ。
1日経って騒動も大砂嵐も、すっかり落ち着き嘘のように静まり返った修道院。
「こうなる事は織り込み済みであるか」
「何の抵抗もなく投降しております」
「ふむ国外の傭兵と錬成士に、こちらの犠牲者はゼロであるか……」
「何を言ったところで国外の賊と言われればそれまでです」
「感づいたところで大義名分を与えぬ様に犠牲者を出さなかった……そう言うシナリオか」
衛僧の報告を元に親父長と状況確認をするベアトゥス。
鼻眼鏡を押し上げる指は怒りと苛立ちから震えが見えた。
天気計の装飾、希少金属のウロボロスは大砂嵐の間、怒る竜のごとく染めていた赤黒い光沢を青白い銀色に戻していた。
外は晴れ渡り砂漠特有の乾いた風が優しく吹いている。
すっかり地形の変わってしまった丘陵の砂を撫でるように転がしていた。
「鎖?」
「はい、わたくしとフラマウは鳥籠、エラトスとメルカは多分……」
「はい、私とエラトス様は小箱です」
テーベの小箱……これは俺の転生した組織の名前でエラトスとメルカの所属する組織。
テーベの鳥籠……これがイドリーとフラマウが所属する組織の名前。
テーベの鎖……これが今回カシューを狙ったと思われる組織の名前だそうな。
「なぜ3つも、あるんですか?」
イドリーとメルカは俺とラッカに質問攻めにあっている。
旧都の中で……
あの後、砂嵐が収まる前に修道院を去る必要があると告げられた。
国外の賊の仕業と言う事になれば保護を口実にカシューを皇都へ引き渡さなければならなくなるからだ。
ポイティンガーの計らいで汲み上げ井戸の横穴から逃がしてもらった。
俺の警護としてシスターメルカ……いや、小箱のメルカ。
カシューの警護として鳥籠のイドリーが一緒に来る事になった。
エラトスの石化が解けるのを待つ時間は、なかった。
フラマウは最後まで着いて行くと言ったのだが事後処理の為にイドリーが残るように強要した。
「基本的には、どれか1つが暴走せぬように見張りあう為です」
「本来は……ですが鎖の力が大きくなり過ぎているのが現状です」
「で、今回の襲撃は、そのテーベの鎖の仕業なんですか?」
訂正しよう。
質問攻めにしているのは主にラッカである。
「はぁ、あなたが着いて来る事を認めた訳ではありませんよ」
「そもそもカシューが魔眼修道院にいたのは何故なんですか?」
「はぁ、わたくしの話を聞いてますか?」
ラッカのメンタルは強い。
イドリーもタジタジである。
カシューの魔眼、過去視は強過ぎるのだそうだ。
通常、過去視の魔眼に見える過去は数時間から数ヶ月前、強い人でも数年前が限界だそうだ。
だがカシューの過去視は何百年、もしかすると、それ以上前が見えるのだと。
その驚異的な能力は、あらゆる事に利用出来る。
実際、よからぬ事に利用されていたところを鳥籠が救出し保護したのだった。
「そっか、だからカシューちゃん目を瞑ってるんだね」
「んぁ」
「だよね、そりゃ怖いよ」
肯定も否定も大抵、「んぁ」で答えるカシューだが普通にマルテルは会話を続けている。
旧都に入る時、ポイティンガーがマルテルを連れて行けと言った。
きっと役に立つからと……
それと種族スキルは普通は魔力を使うんだと教えてくれた。
「おめぇが魔力無しで発動してるのは異常だ、別の特訓で魔力の流し方は教えたろ組み合わせりゃ上手く出来るはずだ」
そう言って見送ってくれたが……
(もっと早く言えよぉ、遅いよぉ、ポイティンガー)
「一緒に行ってやれなくて、すまねぇな。ま、出てもやって行ける様に色々教えて来たんだ。おめぇらなら大丈夫だ」
(出る事も想定済みかよぉ、ありがとよぉ、少し泣きそうだよぉ)
最後にポイティンガーは紐に通した小さな石笛をくれた。
目のような模様が刻まれていた。
「もし俺の里に行く事があったら見せるなり吹くなりすりぁええ、悪い様にはしねぇはずだ」
里か……この世界に産まれて直ぐに預けられた俺にとっては、ここが里になるのかな?
ラマーニ修道院、通称、魔眼修道院。
俺の育った砂漠の修道院。
こんな去り方になってしまったけど……
いつか金環だろうと何だろうと誰に狙われようと関係ないくらい強い男になって帰って来たい。
それまで一旦
「さらばだ!」
そう言って俺は魔眼帯を投げ捨てて旅立った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第一章これにて終了です。
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