水路掃除
「週課のご褒美に好きな本を読む時間を差し上げます」
シスターであるフラマウの魔法により魔眼帯のまま読める本は我々魔眼修道士にとっては大きな楽しみの一つだ。
「アーモン君は先日の日課サボりの罰として地下水路の砂掃除をしてもらいます」
どちらかと言えば普段アーモンに贔屓目なシスターフラマウが呆れた口調で言う。
クスクスと起こる笑い声に俺は苛々して睨みつけながら、その場を後にした。
まぁ、睨んでも見えてないんだけど……
「シスター僕はパンの本を!」
食いしん坊で、ぽっちゃりドワーフのマルテルが叫ぶのを聞きながら俺は地下水路の砂掃除へ嫌々向かった。
砂漠の真ん中にありながら修道院が成り立っているのは地下水脈のお陰だ。
とても大切にされているが油断すると、すぐ砂が溜まってしまう。
その為、頻繁に砂掃除が行われるのだが俺アーモンは罰則砂掃除の常連だ。
「今日は汲み上げ井戸を止める許可が出たので砂ではなく水路の藻を掃除してもらいます」
監視役の神父の言葉に更にガッカリして愚痴がでる。
「最悪だ」
車はおろか掃除機すらない、この世界では、この手の掃除は、もっぱら手作業だ。
車や掃除機は覚えているが相変わらず俺の日本での個人的な記憶は曖昧だ。
何か拍子に引き出しが開く様に思い出す。
パンを食べてる時に突然
(母さん手作りのイチジクジャムは美味しかったな)
なんて感じだ。
でも一般的な生活様式なんかの知識は、しっかり残っている。
駅、電車、コンビニ、ゲーム、アニメ……どれも、この世界にはない物ばかりだ。
ここは剣と魔法の世界。
「あー面倒くせーケ○ヒャーあればなぁ」
「何ですかそれ? 新しい魔法?」
こちらも常連のエラトスさんは地図製作と販売担当班の1人。
魔眼でなく普通の修道士の大人の男性だ。
ノルマ未達成の罰で砂掃除に来ている。
彼らは定期的に起こる砂嵐により変動する地形をいち早く地図に書き起こす。
それを修道院に立ち寄る商人達に販売している。
水に並ぶ人気商品で砂漠の暮らしを支える上で貴重な収入源となっている。
「私の地図だけ売れないんですよぉ」
すごく寂しそうに言うエラトスさん。
悪い人ではないが……
(あれじゃあ、売れないだろうなぁ)
以前、魔眼帯を外して見た事があるがセンスがなさ過ぎだった。
日が暮れる頃、大量の藻を広場に運び終わったところで、やっと解放された。
明日にはカラカラに干上がる事だろう。
(これ、使えるかも)
ある事を閃いた俺は帰りかけたエトラスさんを呼び戻した。