テーベの繭
魔眼修道士女子宿舎
ラッカの雷魔法を防御魔法で防いだイドリーは飛び上がりつつ縦に素早く一回転しながらラッカとシスターメルカを飛び越しカシューの前へ戻った。
ヤバい! ラッカとシスターメルカが、そう思った時
「んぁイドリー……」
カシューが警戒せずイドリーの名を呼んだ事でラッカは振り向きざまに放とうとしていた次の雷撃を消滅させた。
「敵では、ないので安心して下さい。メルカさんカシューの周りのコレ、テーベの繭を解除して頂けますか?」
いつの間にかカシューの周りに不可侵防御魔法を施していたシスターメルカだが通常魔法名ではない俗称を言われた事で大いに戸惑ってしまっていた。
「ラッカ……イドリー味方……」
カシューの言葉で、ようやくその場の張り詰めた空気は和らぎ始めた。
魔眼修道士男子宿舎
フラマウの火魔法を、あっさり剣で防いだエラトスは一瞬でフラマウとの距離を詰める。
目を見開いたフラマウだがエラトスが剣の柄で突いて来たところを足で受け流す。
キンッ
フラマウのブーツとエラトスの剣の柄が接触した際の金属音……
「すね当てですか? 流石はテーベです」
すぐさま反撃に出ようと既に両手の中に新たな炎弾を用意していたフラマウだがエラトスの言葉に動きが固まってしまう。
「敵では、ありません。落ち着いて下さい。私もテーベです」
修道服に付いた煤を払いながら無防備な姿勢を晒すエラトスは敵意のない事を暗に伝えているのだろう。
「なぜアーモンを!」
「勘違いです。保護対象です」
「ど、どういう事…」
アーモンとエラトスを交互に見つつ考えを巡らすフラマウ。
やっと落ち着いて説明出来ると思ったエラトスが2人の方を改めて向く。
アーモンにも害がないと分かり落ち着いて話を聞こうとしたフラマウ……の顔が一気に青くなる。
と、同時に走り出してしまう。
「なるほど、そうなりますよね……時間がないのですが」
猛烈な勢いで移動するシスターフラマウ。
訳知り顔で追走するエラトス。
訳も分からずエラトスに促され追走するアーモン。
女子宿舎に、たどり着くと、うつ伏せに横たわるカシューを屈んで覗き込む男の姿が目に入った。
「き、貴様ぁ!」
炎の連弾を放つフラマウ。
かなり取り乱している。
「フ、フラマウさん」
追い付いて来たエラトスが呼びかけるが聞こえていない。
治癒班シスターメルカの展開した防御魔法により炎弾は防がれ煙が立ち上がる。
メルカはその煙の隙間からアーモンの方を見ていた。
なぜシスターメルカが、この場にいるのか?
シスターフラマウは、またも混乱していた。
治癒班のシスター……カシューが怪我をしたのか?
そうだ間違いない。
いや、まさか、それ以上の事か?
目を離すなと言われていたのに!
自分の責任だ、とにかくカシューに近づかなければならない。
「炎の弾ファ……」
「いい加減にしなさい。フラマウ」
振り返ったイドリーは厳しい声でフラマウを呼ぶ。
ただでさえドーベルマン顔で厳しい雰囲気が更にキリリとしている。
「イドリー様! どうして?」
戸惑うシスターフラマウの目に起き上がるカシューが映る。
カシューはプラチナの髪が顔の前に掛かったまま……
いつも通りカシューは転けていただけだった。
「んぁ」




