大商隊
風もなく小さな砂嵐すら起こらず、ただただ日差しが強いだけの日がもう十日以上続いていた。
毎年恒例の予兆の様な暑さだ。
「立ち寄る商人達も減って来たし、そろそろだな」
「あぁ、また、しばらく缶詰めだな」
聖堂での祈りの時間が終わると修道士達は話しながら歩いてゆく。
一般修道士も魔眼修道士も話題は同じだ。
「大砂嵐かぁ今年は何日続くんだろな?」
「止んだ後の水の濁りの方が心配よね」
「水が濁るとパンが作れなくなるから大変だよ! 嫌だなぁ」
「んぁ」
アーモン、ラッカ、マルテル、カシューは最近いつも一緒に行動していた。
貴族のティムガットの迎えが来て修道院から去ってからは一人でいても、ちょっかいを出される様な心配は無くなったのだが自然と一緒にいる様になった。
「大砂嵐の間、商隊をオマモリ班の手伝いに?」
「はい、あまりの売れ行きに在庫が乏しくなりまして……嵐明けに商人達が大挙するのは毎年恒例の事ですので是非とも許可を頂きたいのです」
商人のイドリー率いる商隊はエラトスのオマモリ班と共に大砂嵐の間一緒に過ごす事が許可されていた。
異例の措置である。
西に沈む夕日が真っ赤になった。
砂漠の地平線、夕日の手前で起こる砂嵐のせいだ……
まるで生き物のように砂嵐が蠢いているのが修道院からでも良く見える。
こうなると明日には修道院の周りでも辺り一帯、砂と風一色の世界になる。
バタン!
ドタン!
強くなり始めた風に木戸が揺れる様になるとラマーニ修道院を訪れる人はいなくなる……通常であれば……
「なっ! このタイミングで大商隊じゃと?」
「はっ、道に迷ったとの事です! 追い返せば大砂嵐に巻き込まれるのは確実ですので人道的措置として入壁を許可しました」
「食料は充分に持っている様ですが……それが、また用意が良過ぎる様な印象を持つのは心配し過ぎでしょうか?」
「武器のたぐいは持っておらんのだな?」
「はっ! いつにも増して厳しく検査しましたので間違いなく持っておりません」
「それであれば、この魔眼修道院で何か出来るはずは、なかろうて」
神父長と衛僧それぞれの報告を受けた修道院長ベアトゥス
大勢の魔眼持ちを武器なしで相手にするのは通常は不可能だ。
だからこその厳しい入壁検査なのだ。
心配する事は何もないはずなのだがベアトゥスの鼻眼鏡の奥の瞳は不安の影が漂っていた。
外では照りつける太陽の下、石造りである修道院の明かり取りとして開いている空洞に木戸を嵌める作業が続いている。
(オマモリ班に一つの商隊……それとは別に大商隊……何事もなければ良いが……)




