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トリイ

 皇都バビロニからの特使やテーベの鳥籠、テーベの小箱が砂漠の修道院へ到着し諸々の事が落ち着くまでですら数ヶ月を要した。

 その間、深く関わった重要人物として移動を制限されたアーモン達はラマーニ修道院に留まるしかなかった。

 その期間にアーモンとラッカは元々育った場所、つまり魔眼修道院に残る事を決意した。




 それから5年の月日が経過した。




「アーモン知らない?」


「また、居なくなったのよー、です?」


「どうせ、どっかの塔の上だぜ」


 白銀のスランバー全員ではないがアーモンが残るのならと同じくラマーニ修道院へ残った者もいた。


「……見っけ……ラッカ探してる」


「あぁ、クコか、見てみろよ完成間近だろ」


「ふん、あんな物に何の意味があるのか分からないわ」


「おいおいおい、このべハイム様が再び神として慕われてるんだぜ、そりゃないんじゃね? ヘーゼルたん」


「神ではなく御神体なのじゃ」


 修復された大聖堂の横には大きな塔が造られた。

 その塔の上でアーモン、ヘーゼル、べハイム、イーズ、そして到着したばかりのクコが見下ろしているのは完成間近の……


「あらあら、またトリイを眺めてるのね」


 クコに遅れて到着したメルカの言った通り鳥居だ。


「だって嬉しいんだ、これで神社らしくなるよ」


「あ、やっぱりココ! そのジンジャにお客さんよアーモン」


 続いて登って来たのはラッカとペカンにピスタだった。

『ジンジャ』は、もちろん神社である。

 現在アーモンは神主としてラマーニ修道院内に神社を造って暮らしている。

 そこで首神べハイムを御神体として祀っているのだが別の人気者のお陰もあって、この世界の人には初めての場所ジンジャは大人気となっているのだ。


「お客? もしかしてラパからか!」


「そうよ、マルテルがパンを持って来たのよ! 今リザードキャメルから下ろしてるわ手伝ってあげてよ」


「もちろんだ! コマちゃん」


 黒湯気の狛犬コマちゃんを呼ぶと塔のてっぺんから一気に下降して行くアーモンであった。


「あ、もうズルいなぁ」


「ふん、先に行ってるわ」


「え、ちょっとヘーゼルたん、オイラを置いてくとか酷すぎね?」


「階段を転がしてやるのじゃ」


「おいおいおい、ソイビーまで酷すぎじゃね?」


「……えい」


「クコが本当に落としたよー、です」


「ぎゃー」







「マルテル!」


「アーモン!」


 すっかり逞しくなったマルテルは定期的にラマーニへパンを届けている。

 本来であれば焼き立てを食べて欲しいのだが釜が違えば納得のパンを焼く事が難しいので今日までは運んで来ていたのだが……


「見たか? 良いのが出来てただろ?」


「うん、エブストーの釜とそっくりだよ」


「そりゃ、そうだ! ピスタの解析眼で設計したんだもんな」


 そう、ここラマーニにもエブストーのパン工房と同じ釜を設置し時々来てはマルテルがパンを焼く事になったのだ。


「ところでラッカは、どうなったの?」


「あ、あれ? まだ続いててさ、笑っちゃうんだ」


「止めてよ! アーモンが笑うと僕がラッカに怒られるよ」


 旧都が世間に知られ開かれた修道院となったラマーニ修道院には多くの旅人が訪れるようになったのだが……

 かつてマルテルが地下の旧都で炎眼を練習する為に壁に書いた絵、ラッカとカシューがパンに祈りを捧げる姿。

 それが思い掛けない事になっていた。


「だ、だってラッカが晩餐の女神だぞ! くくっ」


「カシューは豊饒の乙女だなんてね」


 そうマルテルの落書きは過去の重要な壁画として認識され、その壁画にそっくりなラッカ目当てに修道院を訪れる旅人が尽きないのだ。

 そして……


「まったくな、あの嬢ちゃんが今や国のトップだなんてな豊饒の乙女バンザイだっけか?」


「あ、衛僧長! パンどうぞ」


 話に入って来たポイテインガーの言う通りカシューは亡き兄の代わりにバビロニーチの代表を努めていた。

 その若さゆえ当初は心配されていたが壁画の噂が広がり我々の国の皇女は豊饒の乙女の生まれ変わりだと民の支持を得ているのだ。


「あのぉ、ジンジャはこちらですか?」


「あ、はいはい、良くお参りくださいました」


「て、天使様はいらっしゃいますか?」


 もう一人の人気者が天使様なのだが……

 皇帝シュメーの魔眼騒動の際にホーリードラゴンの翼のみを顕現させたイーズが天使だとして噂が広がってしまったのだ。

 あの場には多くの旅人や商人がいた為に各地へ広まるのも無理のない話だった。


「お、丁度戻って来たぞ! イーズ仕事だ」


「うっ、嫌なのじゃ! 妾は、もうアレはやりたくないのじゃ、疲れ過ぎるのじゃ」


「ハハハ」


 イドリーはカシューの為に新設された組織『テーベの環』として重要なポストを任されている。

 主にはカシューの側近としての活動だ。

 大きな罪を犯したテーベの鎖が解体された後にテーベの鳥籠とテーベの小箱が合併したのが『テーベの環』である。


「んぁ、アーモン達に会いたいなの」


「建国祭りには来るって言ってましたから、それまで頑張って下さい」


「んぁ、私もラマーニに住みたいなの」


「はぁ、ナゼわたくしだけ困る役回りなのでしょう……」


 イドリー大変に重要なポストである。

 メルカも、もちろん『テーベの環』の組織員なのだがラマーニ駐在員として残った形だ。

 エラトスとフラマウも『テーベの環』に所属しているが夫婦となった記念の旅で掴んだ情報から、ある人を追って調査の旅を続けている。




「……アーモン……見て」


「ん? クコ、俯眼か?」


「何? 何? 私にも見せてよ」


「ラッカ待てよ、金環を発動」


 そう言うとアーモンは瞳のゴールドリングを輝かせた。


「なっ!」


「何よコレ!」


 そこには大型の飛行生物が見えていた。


「ドラゴンかなー、です」


「いや、ドラゴンとは違うぜ」


「ふん、イフニールも知らないの?」


「あんな下等なモノと同じにされたくないのじゃ」


 結局、皆が金環の波及下に入り同じ光景を目にしていた。

 つまり伝説の炎系大型鳥幻獣イフニールを目にしている。

 そしてペカンの千里眼も発動され……


「誰か乗ってるな」


「あらあら、フラマウ達だわ、それに……」


 メルカの言葉に1番驚いたのはアーモンだった。


「ダミヤンとマカって父さんと母さん!」


 そうエラトスとフラマウが調査していたのはアーモンの父と母であった。

 隷属眼により操られていたダミヤンとマカはモヘンジョの死により隷属眼が解けた。

 その直後にテーベの鎖が管理していたイフニールを強奪し飛び去ったのであった。

 いや正確にはイフニールの管理を隷属されながらも任されていたのがダミヤンとマカだったのだ。


「来るぞ」


 既に魔眼がなくとも肉眼で把握出来る距離まで迫ったイフニール。

 多くの修道士や衛僧達が建物の外へ様子を見に出ていた。


 ズサァサァァ!


 砂を撒き散らし炎の翼を持つイフニールが降り立った。

 いや正確には完成間近のトリイに文字通り留まり木として留まったのだ。


「ああ、俺の大事な鳥居が燃えて……あぁ」


 イフニールの翼の炎により燃え上がったトリイであったが石造りだった為に黒くなっただけで済んだのは幸いであった。


「フラマウ!」


「ラッカ! お姉さんらしくなったわね」


「アーモンか?」


「はい、もしかして」


「ああ、ダミヤンだ」


「マカよ、やっと会えたわね母よ」


 感動の再会なのか?

 いや違う。


「やっと会えたのに悪いんだが来てくれないか?」


「は?」


「やっと準備が出来たんだ」


「何のですか! 無茶苦茶過ぎるでしょ」


「まあまあ、行きながら話すから来てよ我が息子」


「ちょっと、その言い方だとアーモンは反発するタイプなので私が話しますから」


 割って入ったのはエラトスだ。

 そのエラトスの話によるとダミヤンとマカは全種混血の研究者。

 アーモンをインフィニティとして産んだのも愛と研究の賜物なのだと……

 ただし、どうしても血が薄れる種族が出来てしまった。

 その全てを解決すべく生涯を捧げて来ており遂に完璧な全種混血の手掛かりを掴んだのだと……


「そんな事……知った事か! やっと会いに来て、ふざけんな」


「お前さんの彼女全員の血が入った1人の子を持つ事が、出来るんだぞ」


「何じゃ、それは?」


 ダミヤンとマカによればアーモンを父としてラッカ、ピスタ、クコ、ペカン、イーズ、ヘーゼル、メルカ、場合によっては他にも何人かを含め全員を母として1人の子を授かる方法が見つかったとの凄い話だった。


「ボク賛成だぜ」


「行っても良いよー、です」


「ふん、悪くないじゃない」


「あらあら、照れるわね」


「……カシューも……呼ぶ」


「ちょっと、みんな何言ってんのよ」


「そ、そうだぞ、みんな冷静になれ」


 まさかのラッカとアーモン以外は賛成の方向だ。

 残るイーズは、どうか?


「うーむ、このままではラッカの独り占めになりそうじゃし、妾も賛成なのじゃ」


「よーし、じゃ決定な息子よ!」


「えー!」


 急転直下。

 ジンジャで、のんびり暮らす予定のアーモンだったが……


「もう! しょうがないわね行くわよアーモン」


「えっ、ラッカまで?」


 こうして、まだまだアーモン達の波乱万丈な旅の物語は続くようだが、それは、また別の機会に……




 完

 約2年、スローペースの更新に、お付き合い下さり本当にありがとうございました。


 初めての作品でしたので技術的にも足りない事だらけで何度も止めてしまおうかと思いましたが、最後まで書き続ける事が出来たのは投稿の度に読んで下さった皆さんのお陰です。


 最後にネーミングの裏話を少し……

 これから読まれる方にはネタバレを含みますので、ここより先は読まないで下さい。


 気付いてる方も、おられるかも知れませんがアーモンの身近な人物の名前は『ナッツ的なワード』を、元にしています。

 魔眼の話にしようと決めた時に目に纏わるワードとしてアーモンドアイに行き着きアーモンドからドを引いてアーモンとしました。

 ちなみにラッカは日本語のメジャーなナッツが元になっております。


 敵側は『滅んだ文明や都市のワード』を元にしています。

 例えばシュメーはシュメール文明を元にしています。

 但しシュメールの歴史等とは無関係です。


 それ以外の登場人物は『古地図関係のワード』からチョイスしています。

 作品全体に旅の雰囲気が漂うようにと、おまじない的に、そうしました。


 街の名前は地図を色々な言語で音声翻訳したものを耳コピして設定しました。


 もちろん全てが当てはまらず例外もありますが本編とは別に楽しめる要素となっていますので興味のある方は考察していただければと思います。


 続編や番外編も少し想定していますが、とりあえず、ここでアーモン達の物語は終了となります。

 アーモン達キャラを愛して下さり本当に、ありがとうございました。




2021年5月31日

きょうけんたま(鏡剣玉)

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