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「うおっ、何だ」


「……魔力が……戻った?」


 そう、日本人の種族スキル『和』とは魔力を共有するスキルであった。

 それは個よりも和に重きを置く日本人特有の資質の様なスキル。


「多分、魔力の量も消費も共有するスキルだと思う」


「それって、まるでスキル版の金環じゃない」


「んぁ、兄様止めるなの」


「カシューも起きた、みんな行くぞ!」


 シュメーの中の魔力、ヴァルトゼ達の魔力、大聖堂に残っていた人々の残り少ない魔力、それらを集め再分配するような感覚。

 自分だけなら容易に使えただろうが多くの人から集め、皇帝を押さえに動く特定の人数に分配するのは至難の業だ。

 だが、アーモンは初めてながら慣れすら感じていた。

 そう、それはまるで魔眼『金環』と同じ感覚の使い心地だった。


「あぁあぁぁあぁぁぁ」


「シュメー!」


 魔力を種族スキル『和』によって平均化されたシュメーの暴走は勢いを落としていた。


「スカルホーンハンマー」


「上手い」


 ピスタは突っ込んで来るシュメーを壁へ向けて放った慟哭の爆風で衝撃を緩和した。


「ヒールよー、です」


「……プロテクト……スキン」


 一瞬動きの止まったシュメーをペカンが回復、次の激突に備えてクコが防御魔法を唱えた。

 その後シュメーは再び逆方向へと暴走して行った。


「風の谷ウインドバレー」


 今度はウルゲの風魔法が壁へ激突しそうなシュメーを救った。

 そして、その瞬間マヤがシュメーへ抱きつき動きを止めた。


「陛下……」


「押さえてて!」


「さすがラッカ、その手がありましたか!」


 イドリーが言った、その手とは……


「押さえろ、お前ぇらも、持ってる奴はドンドン巻け!」


 魔眼帯だった。

 マヤに続き、サガラッソスも、ウルゲもボロボロになったシュメーを押さえ、それでも魔眼の力で浮上しようとしてしまうシュメーを体力の残るヴァルトゼ、ファンデラ、ココン、カイが押さえ込んで遂に皇帝の動きは止まった。

 その間も発動する炎眼や蛇眼に何人かは餌食となったが魔眼帯が次々に巻かれ……


「はぁはぁ、止まりましたね? 神父長」


「魔眼修道士達と同じなら止まったはずだ」


「んぁ、みんな、ありがとなの」


 とうとう皇帝シュメーの魔眼暴走は収束した。


「ふぅ、良かった……」


 安心したアーモンから黒湯気甲冑が霧散して行く。

 皇帝を押さえていた面々も次々に離れて行く。

 マヤだけが離れずに抱きついていた。

 その時、もう1体の閃馬が到着した。


「着いたぞ」


「アナクシ姉だぜ」


「さすが馬王、分かっておるのじゃ」


 意識を失った皇帝シュメーにアナクシがディスペルアイを発動。

 奪われた全ての魔眼が持ち主へと戻って行った。


「やーだ、薬草忘れてーた」


「やだー、わたすも忘れてたー」


 花の民であるココンとカイの薬草やメルカ、ペカンの回復魔法で少ない魔力ながら皆が少し回復をした、その頃……


「ん、ううん」


「陛下、気が付かれましたか」


「マヤか……余は、どうなっておった?」


 魔眼暴走していた事、魔眼を奪われていた人々が協力してシュメーを救った事が告げられると……


「すまなかった、余が間違っていた」


「んぁ、ごめんなさいなの」


 皇帝シュメー自らが平民である皆に頭を下げた。

 そして妹であり皇女であるカシューもまた頭を下げた。


「いやカシューナは、むしろ被害者だ、責められるべきは余1人である」


 国のトップの謝罪。

 どうすれば良いのかは誰にも判断がつかない。

 それでも最悪の事態は避けられた。


「何にしても終わった」


「そうね、頑張ったねアーモン」


 疲れ切ったアーモンもラッカにも笑顔が戻っていた。

 皆が、ほっとし、座り込んでいた、その時に思い掛けない人物がフラフラと歩いていたのだが、皆がフラフラで当たり前の状態で、その人物に誰一人気が付かなかった。

 そして、それは起きた。





「うがぁ!」


「陛下!」


「貴様ぁ、このクソ貴族がぁ」


 皇帝の悲鳴。

 マヤの叫び声。

 ウルゲの罵倒。

 信じられない光景……

 ティムガットが皇帝シュメーを背中から剣で穿いていた。


「そんな……」


 ラッカが呟いた時には、もう横にいたアーモンの姿は消えていた。


 スパンッ!


 一瞬だった。


「はがぁ! お、俺の腕がぁ」


 ウロボロスの刀がティムガットの腕を斬り落としていた。

 そして次の一手で息の根を止める。

 そうアーモンが動いた瞬間……


「駄目だ!」


 止めたのはシュメーだった。


「だ、駄目だ……くっ、それでは余と同じになってしまう()めてくれ友よ、アーモンよ……」


「シュメー、お前……」


「んぁ、兄様!」


「はぁはぁ、すまなかったなカシューナ、アーモンもだ、余に友などと呼ばれたくはないな……はぁはぁ」


「バカが、何言ってんだ! 友だから必死に止めたんだろうが」


「くっ、ふっ、ありがたい……良い冥土の土産になる」


「ヒールを、ヒールを誰か!」


 腕を斬られ藻掻き苦しむティムガットと対照的に体を剣で穿かれたシュメーは静かに最後の時を迎えた。


「嫌! 嫌でございます、シュメー様ぁ」


「ふっ、陛下でなくシュメーと呼んだのは初めてだな……マ……ヤ、くはっ、嬉しかったぞ……」


「嫌ぁあぁぁぁ」


 もうヒールで何とかなる傷ではなかった。

 致命傷だった。

 最後に皇帝シュメーはカシューを見つめ片目の金眼を輝かせた。

 カシューもまた金眼を輝かせた瞬間……シュメーは息を引き取った。




 バビロニーチ皇国、現皇帝バビロ31世崩御。




 奪眼による魔眼強奪。

 皇帝による貴族殲滅宣言。

 多眼の魔眼暴走。

 貴族による皇帝殺し。

 色々な事が起き過ぎた。

 修道院長ベアトゥスの到着後、次々と出される指示により混乱は、しだいに収束していったがアーモン達、白銀のスランバーは誰一人動けずにいた。

 泣き続けるカシューのそばに、ただただ居る事しか出来なかった。

次回で最終回となります。

ここまで、お付き合い下さり本当に

ありがとうございました。

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