無意識発動
「馬王!」
「ヴァルトゼさん! ファンデラさん!」
「ココンにカイ!」
マテオがヴァルトゼ達に駆け寄るが魔眼暴走により撒き散らされる効果に被弾してしまい石化した。
「うおっ、どうしたマテオ!」
「皇帝が魔眼暴走を起こしてるよー、です」
「ペカン、無事で何よりだ」
ではアレを倒せば良いのか? と聞くファンデラにクコが答える。
「……さっき謝った……きっとアーモン、殺したくない」
「やーだ、そんな事言っても速過ぎーる」
ココンの言う通りだ。
せっかくの増援だが魔眼『朝日』や『夕日』さらには加速系の魔眼も併発暴走している皇帝シュメーと黒湯気甲冑に種族スキルの重ね掛けをしているアーモンの速度に着いて行くのは困難だろう。
「閃馬になってんだ、それなら行けんだろ? 馬王」
「ふんっ、テインガーか? 蹴り飛ばしたいところだが今は見逃してやる」
閃馬である馬王は、ポイテインガーに、そう言ったが……
「エルフの子よ1体で短時間なら行けん事もない、本当は2体行けるのだが……」
馬王の話では実は、もう1体がこちらへ向かっている最中らしく無理をすれば、その1体が消失してしまうとの事だった。
「それくらい限界が近いって事なのじゃな」
息を切らしながらイーズも近づく。
「ならば行こう!」
いつもの様に自分が自分がのヴァルトゼが、もう一度閃馬に跨がろうとした、その時……
「馬王お願い! 私をアーモンの元へ連れて行って」
ラッカであった。
「待ちなさいラッカ、あなたが行って何が出来るんですか!」
フラマウの言葉にメルカも静かに頷いた様に見える……それでもラッカは続ける。
「思うところがあります! アーモンに伝えなければならない事があるんです魔環になってから気になっていた事なんです」
かつての様にアーモンの事となると見境のなくなるラッカでは? フラマウを含め大人達は皆が同じ様に感じていたが真っ直ぐに見返すラッカの瞳に何か別の強い意志を感じてしまった。
「命を賭けてもか?」
そう聞いたのは馬王だ。
今現在アーモンはシュメーを追いながら魔眼暴走によるダメージを受けまくっている状態だ。
黒湯気甲冑あればこそ出来ている芸当だが、その黒湯気甲冑すらボロボロなのだ。
防具すら着けていないラッカでは数分と保たないだろう。
「賭けるわ、でも命も落とさない! その為にアーモンに伝えるの」
震えが来た。
人と言う生き物は面白い。
そう思った閃馬である馬王はニヤリと笑い……
「乗れ!」
そう言うと荒ぶり猛烈な勢いで上空のアーモンとシュメーの元へと駆け上がっていった。
「止まれぇ、シュメー!」
「あぁあぁぁあぁぁぁ」
何度も追い付いてはシュメーを掴むアーモンだが暴走状態ゆえ何かしらの魔眼に被弾しては離すのを繰り返していた。
(くそっ、1人じゃ無理だ、いや、俺以外に追い着くのは無理なんだ、やるしか……)
「うがっ」
アーモンは猛烈な勢いで大聖堂の天井や壁へ激突を繰り返す皇帝シュメーを追い着くばかりか時に壁との間へ入りクッションとなっていた。
「アーモン!」
壁にめり込んだ体を抜いて猛スピードでシュメーを追っている時にアーモンは真横で聞こえるはずのない声が聞こえた。
「ラッカ!」
何やってるんだ!
死ぬぞ!
離れてろ!
喚き散らすように、そう告げたアーモンだが……
(笑ってる?)
色んな魔眼の効果に見舞われボロボロになっていくラッカだったが真っ直ぐに、こっちを見て微笑んでいる事に気がついた。
「くそっ、シーちゃん! ラッカじっとしてろよ」
そう叫ぶと黒湯気の獅子シーちゃんが現れラッカを包み込んだ。
「あっ、これって」
ラッカはアーモン同様黒湯気の甲冑に身を包んでいた。
「こんな時に何笑ってんだよ……」
アーモンは何故か、ここ魔眼修道院で初めてラッカの眼を見た時の顔を思い出していた。
「あのねアーモン……」
ラッカが伝えたかった事はアーモンに抱いていた疑問と違和感の正体だった。
話しながらもシュメーを追う2人は、どんどんボロボロになって行く。
「アーモンの魔力消費の少なさって金環のせいかもって思ってたの、でもね違ってた……」
金環を失った今、その可能性は消えた。
元々が金環を発動してない時にも、その現象は起きていた。
でも毎回じゃない。
皆が魔力を吸い取られた今、動けてるのは皇帝とアーモンだけ、その事実からすると考えられるのは……
「種族スキルって事?」
「そうだと思うわ、無意識レベルで発動してるのかも」
そう告げたラッカが微笑んだ時に閃馬が呟いた。
「時間だ」
まるで紙飛行機が落ちていく様に閃馬とラッカは減速、そして下降していった。
「うがぁ」
もう何度目かも分からない魔眼に被弾しアーモンは考える。
(魔力消費が少ない? 種族スキル? 種族スキルは不確かなモノも含め全部発動済のはず、いや待て種族スキルそのものが魔力を必要とするはず……今、魔力が残ってるのはシュメーと俺だけ……そんなはずあるか? 俺だって同じく吸われてたはず?)
「分かんねぇ!」
口から血を流しながらも再加速しシュメーを追うアーモンは思考も止めない。
(そもそも種族スキルは身近な種族のスキルは把握してる、知らない種族らしきスキルも欠片のようなモノを無理矢理に発動してる、無意識にでも発動してるって事は元々知ってる種族?)
「うがっ!」
「見てられねぇぜ」
上空でボロボロになって行くアーモンを見上げてピスタが呟く。
魔力たっぷりなヴァルトゼのファイヤーウォールが皆の消耗を防いでいた。
動けなくなった修道士達を外に運んでいるのはファンデラ、ココン、カイだ。
「ああ、陛下……」
ボロボロになっているのはアーモンだけでは、ない皇帝シュメーは、むしろアーモンよりもボロボロになっていた。
皇帝へとヒールを詠唱する鎖兵もいるが魔力不足で不発に終わっていた。
「やだー、何か魔力が減ってるー」
「おいおいおい、むしろ新たな魔力を供給しちゃってんじゃねぇか? お前さんら」
「今も吸眼を発動しっぱなしなのよ、あいつ」
「何と救援どころか邪魔になってるだと?」
ファンデラとヴァルトゼが一旦外へ出ようかと話していたところへ何とアーモンが猛烈な速度で降り立った。
「いや、居てくれ! 分かったんだ、みんなで皇帝を止める! 手伝ってくれ」
「アーモン」
「もちろんだが、どうするんだ?」
無意識下で発動していたと言う事は元々、知ってる種族のスキル。
たがアーモンは思い当たる種族のスキルは既に全て発動していた。
だが、たった1つ、思い掛けない種族が残っていたのだ。
その種族スキルとは……
「日本人の種族スキル、和を発動!」
何と無意識下で時々、発動していたのは日本人の種族スキルであった。
そして、その種族スキル『和』とは……




