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枷か絆か

 眼を見開いた。

 シュメーは奪眼で奪った魔眼を使う為に、ここまで閉じ続けていた自らの瞳を開いた。


「そん……な」


 その眼に映ったのは瞳孔の開いたような眼で微笑むカシューの姿であった。


「何だ? どうして、その顔をしているんだ?」


 自らの眼を開いた事で全ての魔眼の効果が切れ肉の鎧として引き寄せられていたラッカやフラマウ、修道士達がドタドタと床へ転がったが、誰一人として声を出さなかった。

 皆が理解したからだ。

 ついさっきシュメーによって見せられた光景そのものなのだから……


「何で過去視の中と同じ顔をしてるんだ、辞めてくれ……そんな、その顔を2度と我が一族から出さない為に、やって来たのに」


 カシューの瞳……過去視の魔眼『金眼』が輝いていた。

 カシューの魔眼だけを奪わなかった事が逆に、こんな事を引き起こしてしまった。

 カシューは金眼の一族が過去視の中で見せた顔をしていた。

 辛い時、辱められたり、虐待されている時に壊れぬよう幸せだった光景を過去視で見ている、あの顔だ。

 酷い事をされながら微笑む……あの顔だ。


「こんなはずじゃ……」


 膝から崩れながらシュメーは自らの瞳、「金眼」を輝かせた。

 同じ金眼でも金眼の一族の男性に宿るのは片目だけの魔眼……過去視の共有。


「……」


 その片目に見えたのは懐かしいカシューとの何気ない生活であった。

 皇族としての責務の中でも時折訪れる家族の時間、兄弟の時間、そこには、どこにでもいる何でもない兄と妹の光景が広がっていた。


「カシューナに、この顔をさせたのは余なのか……」


 過去視との共有が働いている輝いた金眼とは逆の瞳、ただの金色の瞳から1筋の涙が流れた。


「なあ、シュメー、カシューはさ修道院では薬剤生成室の手伝いをしてたんだ。それだけじゃないハリラタでは薬草の勉強をしてた」


 アーモンが話す間、シュメーはカシューから目を離さず黙って聞いていた。


「俺はさ、カシューが回復的な事に興味があるだけだと思ってた。でも違ってた事に気がついた。あんな辛い光景を過去視で見てたから記憶を消されても、どこかで辛い人を助けたい、癒やしたいって思ってたんだと思う……」


 とうとうシュメーは顔を覆ってしまい絞り出す様に声を出した。


「貴族を殲滅すれば消せると思ってたんだ……」


「でも違ってた……」


「ああ、カシューナは余とは違っていたんだな」


 自分は金眼の一族が辛い目にあっている光景が辛かった……だから2度と同じ事が起こらぬ様に貴族を殲滅する事にした。


「カシューは……」


「そうだな一族がどうとかでは、なかったんだな人が民が誰かが苦しむ姿を見るのが辛かったのだな……それなのに兄である余が民を苦しめる姿を目の前で見せてしまったから……」


 そこまで言うと顔を覆っていた手を離し立ち上がりアーモンの方へ振り向いた。

 その泣き腫らし汚れた顔には、先程までのような狂喜の色は消え失せ凛とした皇帝としての気品が戻っていた。

 片目だけ金色に輝かせながら真っ直ぐ向く、その姿は気高くさえ見えた。

 そして、シュメーはアーモンに告げた。


「余が間違っていた、すまなかった」


「ああ」





 事態を把握した鎖兵は武器を落とした。

 回復魔法士が次々に負傷した者へヒールを始めた。

 散々シュメーに魔力を吸収され皆、残りの魔力が乏しい中、懸命な治療が行われ始めた。

 ラッカがメルカがカシューの元へ駆け出した。


「終わったんですね」


 マテオがアーモンに近寄って来た、その時に、それは起きた。


「くっ、うがぁ、あ、あ、あ、あぁ」


「どうした! シュメー」


「陛下!」


「あぁあぁぁあぁぁぁ」


 苦しんだシュメーは跪いた姿勢で上半身は脱力、顔は斜め上を向き瞳孔が開き呻いていた。


「どうしたんだ? 何が起きてる!」


 事態に気付いたのはフラマウだった。


「これは……神父長!」


 石化が解かれていた神父長が駆け寄ると次々に神父やシスター達も集まって来た。


「フラマウか? こ、これは!」


「シスター! シュメーはどうなってるんてすか?」


 その時に嫌なモノがシュメーの体に現れた。

 肩に魔眼の1つが現れ開いたのだ。




「魔眼暴走だ」




 神父長の言葉に絶望感が漂った。

 シュメーが魔眼暴走……

 この場にいるカシュー以外の全ての魔眼を宿した体が魔眼暴走を起こす?

 誰も想定しなかった事態に場は騒然となった。

 その間にも……


「また別の魔眼が開きました!」


 マテオの言う間にも次々とシュメーの体へ魔眼が開いていく。


「あぁあぁぁあぁぁぁ」


「うがぁ!」


 とうとう暴走した魔眼の効力で修道士の1人が燃え上がった。


「いつも通り囲みます!」


「総員配置!」


「これより魔眼暴走封じを行う」


 魔眼修道院で行われて来た魔眼修道士の為の魔眼訓練。

 その時に結構な頻度で発生する魔眼暴走を収めてきた神父やシスターが統率のとれた動きで暴走を食い止め始めたが……


「あぁあぁぁあぁぁぁ」


 加速度的にシュメーの体中の魔眼は開眼し、とうとう背中の魔眼『朝日』によって空中へと浮いてしまった。

 そればかりか……


「うおっ!」


「そんな」


 正に暴走。

 大聖堂の天井へ激突したシュメーは次に壁へ激突、次に床へと激突しながら魔眼の効力を撒き散らして廻った。


「うがぁ」


「痛ぅ!」


 あちこちから上がる悲鳴や苦痛の声。


「押さえるのです!」


 もう修道士も鎖兵もなかった。

 壁へ激突しそうなシュメーを妖艶なマヤが抱きとめる。


「ぐはっ、陛下…」


 シュメーと共に壁へ激突したマヤは気を失ってしまった。


「……リバーシールド」


 飛び交う隕石岩や氷槍をクコが防御魔法で防ぐが、いつもの防御力がない。


「もう、みんな魔力が尽きかけてるんです」


 イドリーが短槍で隕石岩を弾きながら叫んだ。

 魔眼暴走したシュメーの舌はダラリと垂れ無情にもアメジスト色の吸眼もまた暴走し輝いていた。


「さすがのボクも魔力が、どんどん減ってるぜ」


「フラマウ達も魔力不足で暴走封じが上手くいかないみたいだ」


 エラトスが飛び交う物を避けながらアーモンの元へ駆けつける。


「くそっ! ヒューマンの種族スキル、クイックを発動」


 極限までクイックの速度を高めアーモンはシュメーを追う……が、掴もうとした手を弾かれた。


「獣人の種族スキル、レイジを発動」


 今度こそ掴んで押さえるつもりで追うが……


「かはっ!」


 暴走した雷眼の雷撃に見舞われてしまった。


「ドワーフの種族スキル、ガードを発動」


 もう持てる全てのチカラを振り絞るつもりで次々に種族スキルを発動した。


「おいおいおい、あの小僧どうなってんだ?」


「前からアーモンは魔力消費が人より少ないのじゃ」


「どうなってんのよ」


 べハイム、イーズ、ヘーゼルもまた、魔力不足から自分達の身を守る事で精一杯となっていた。

 もう、この場で、まともに魔力を使えているのは暴走しているシュメーとアーモンだけだった。


「くそっ! 止まれシュメー」


 エルフの種族スキルもコロポックの種族スキルも発動している。

 その他の自分が把握しきれてない種族スキルもインフィニティである自分の中には血と共に存在しているはず。

 そう考えだアーモンは手当り次第に自分の中の種族スキルの欠片を探し発動していった。


 魔力アップ、嗅覚アップ、視覚アップ、回復力アップ、どれが、どの種族のスキルかは、もうどうでも良かった。


「もう無理じゃ、こうなっては、あの小僧とて陛下は止められぬぞ」


 片眼鏡のカルタゴと近くにいた取り巻き達は大聖堂から逃げ出していった。

 それを、キッカケに次々と商人や鎖兵達が大聖堂から逃げ出し始めたがティワナクやサガラッソスは逃げようとはしなかった。


「はがぁ!」


「お前達は大聖堂から逃げろ! あんたらもだ」


 あまりの被害の甚大さにポイテインガーは商人や訓練されていない修道士達を大聖堂の外へと逃し始めた。

 このままでは全員の魔力が吸われ魔眼暴走が収まるまでに全滅してしまうかも知れない。

 多くの者の頭に、その考えが浮かんでいた。


(もう斬るしかないのか?)


 アーモンがカシューをチラリを見た、その時に、それは現れた。


「遅くなった! 連れて来たぞアーモン」


 青く碧い馬が数体、大聖堂の壁を突き破って入って来た。


「閃馬だ」


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