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眼を開けろ

「兄様!」


 アーモンが刀で薙ぎ払ったシュメーは真っ逆さまに墜落した。

 問題は落ちた場所だろう……よりによってカシューの目の前に落ちてしまったのだ。


「陛下! 目を開けて下さい」


 鎖兵達が駆け寄ろうとするが、それを防ぐかように黒い影が遮った。

 それはボロボロになった黒湯気の甲冑を纏ったアーモンだ。

 移動の軌跡を描く墨絵の様に黒湯気の尾を引きながら降り立った姿はユラユラと立ち上る黒湯気が殺気を放つかの様に見えた。

 この世界では誰も見た事などない甲冑姿に刀……戦国武将さながらの、その姿の威圧感に鎖兵とて気圧され動けなくなっていた。


「貴様ぁ、皇帝を殺めるなんて、自分のした事が分かってるのか!」


「……刀背打(みねう)ちだ、心配するな……骨は折れてるだろうがな」


「く、くはっ!」


 絶命したかと思われたシュメーが吐血した。

 その吐血に心配しつつも命があった事に、ホッとした顔なのはカシューである。


「んぁ、アーモン……ありがとなの」


「あぁ、カシュー……でもな、まだ分からない」


 シュメーが、これでも止まらなければ斬るしかない。

 その選択を瞬時に切り替える事が可能な武器として刀を手にする事を祈ったのだ。


「陛下にヒールだ!」


 片眼鏡のカルタゴが指示を出し鎖兵が動こうとした目の前には、またもや黒い影が横切る。

 黒湯気の獅子シーちゃんが牽制し邪魔は入れない。





「くっ、許さぬ許さぬ、なぜ超える……これだけの魔眼を手に入れた余を、なぜ超えるのだぁ」


 意識を取り戻したシュメーは吐血した血を拭う事すらせずに喚き散らした。

 そればかりか吸眼で枯渇した魔力を補充する為に舌まで出したままの、その姿は皇帝としての気品など消え失せた異様なものだ。


「に、兄様」


 その姿を見たカシューの顔が辛そうに歪む。


「もう、辞めるんだシュメー」


「うるさい!、まだだ、まだ……縛眼!」


「うっ!」


 カシューの、すぐ横にいたペカンがシュメーの縛眼によって首を絞められ拘束、吊り上げられた。


「辞めろ!」


 墨絵の軌跡が瞬時に見え、消えた時にはシュメーのミゾオチへ刀の柄が、めり込んでいた。


「くはっ!」


 次の瞬間には魔眼の効果が解け落ちて来たペカンをアーモンは抱き留めていた。

 速過ぎる動きは誰にも見えず墨絵の軌跡が現れては消えるだけの光景だ。


「大丈夫か? ペカン」


「ん、ごほっ、大丈夫よー、です」


 もう力の差は示された。

 このままやれば皇帝は斬られて終わる……誰もが、そう思い始めていた。


「ゆ、許さぬ、許さぬ、許さぬわぁあぁぁぁ! よこせ! もっとだ!」


 叫んだシュメーの額に現れたのは白目も黒目もない金色一色の瞳だ。




「奪眼」




 同時に天眼も発動したのだろう傷だらけになりつつある大聖堂の天井付近に額と同じ金色一色の瞳が何個も現れていた。


「もう奪う魔眼なんてないわ」


 ここにいる修道士も商人もアーモンの仲間達も石化が解けたとて全員が既に魔眼を奪われているのだ。


「いかん!」


 叫んだのは片眼鏡のカルタゴだった。


「うがぁ」


「うぅぅ」


「仲間の魔眼まで奪うなんて滅茶苦茶だぜ」


 そうだ鎖兵の中にも魔眼持ちはいるだろう、それにサガラッソスの幻眼やマヤの魅了など幹部達の強力な魔眼もあるのだ。


「ふは、ふはははは、これだ、これだ」


 次々と奪われた魔眼は、次々と体のあちこちに現れ、もはや皇帝は多眼などと呼べる域を超え……


「バケモンだぁね……」


「黙れ! 頭が高い」


 魔眼『夕日』の応用なのか? アルワルの頭は地面へと押さえ付けられた。


「辞めろ」


 ペカンの時と同じ様に動いたアーモン

 だが……


「うがぁ!」


「あうっ!」


 次々と修道士や商人、そればかりか……


「ラッカ! シスター!」


 ラッカやフラマウまで皇帝の体に引き寄せられたのだ。


「ふは、手が出せまい」


 まるで鎧代わりにでもする様に魔眼で人間を体に纏ったのだ。


「みんなを離せ」


「ふは、斬るがいい! 仲間もろとも余を斬るしか方法はないぞ、ふはははは」


 そしてシュメーは手の出せなくなったアーモンを嘲笑うかのように次々と仲間や修道士達を魔眼の餌食にし始めたのだ。


「炎眼、打眼、氷眼……ふは、ふはははは」


「辞めろ、辞めてくれ!」


 苦しむ仲間を見ているしかないアーモンの目に入ったのはシュメーの体の正面で目を見開いているラッカであった。

 そして、そのラッカの視線の先にあったのは!


「カ……カシュー? どうした! カシュー」


 近づき肩を揺すったアーモンは、ある事に気が付いた、ラッカが目を見開くのも無理はないと……そしてカシューを揺する事を止め、真っ直ぐシュメーの元へと向かったのだ。

 ゆっくり、一歩一歩進むアーモンを打眼で、雷眼で近付けまいとするシュメーだったが、ダメージを負う事を何とも思ってないかのようにアーモンは歩いた。

 そして数々の体の隙間から覗いているシュメーの瞳を閉じた顔の前まで来たボロボロのアーモンは口を開いた。


「その眼を開けろ……何個も何個も人の眼ばかり開きやがって……バカが……」


「何だ、何のつもりだ?」


 攻撃するでもない異様なアーモンの様子に遂にシュメーも攻撃を止め、一瞬大聖堂は静寂に包まれた。


「カシューの顔を見ろ」


「そんな事か? カシューナの悲しそうな顔を消す為に、こうして貴族殲滅をかかげたのだ! 黙っていろ」


「悲しそうな顔? バカが」


「何だと」


「てめぇの眼で、そのずっと閉じたままの眼を、しっかり開いてカシューの、妹の顔を見てみろや!」


 指差しながらアーモンが告げた。


「笑ってんだよ……カシュー」


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