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纏うチカラ

「待ってたって助かる訳じゃないわ!」


 メルカのヒールで少しばかり回復したラッカが叫んだ。


「そうだ、そいつを倒さなきゃ終わんねぇぞ、お前ら!」


 ポイテインガーも同調し修道士達に発破をかけた。


「そうだ」


「やるしかない!」


 回復魔法士を防御魔法士が守れ。

 攻撃魔法士はダメージ覚悟で挑んで何度だって回復して戻ってやる。

 即座に決まった攻撃方針に皆が士気を高めた。


「ええい、好きな様にさせるな! 陛下が我らを攻撃するはずがない迎え討て」


 片眼鏡のカルタゴも応戦の構えだ。




「撃て!」


 幾人もの魔法士が一斉に皇帝シュメーに向けて魔法を放った。


「天眼」


「まずい!」


 大聖堂の天井に現れた無数の天眼の色は先程から何度となく苦しめられた、あの色だ。


 ヴゥヴァァァン!


「うがぁ」


「なっ!」




 リフレクトアイ。




 修道士の誰かが持っていただろう魔眼。

 その魔眼が無数に放たれた魔法攻撃を全て弾き返したのだ!


「シュメー! お前ぇ味方まで……」


「動いた奴から焼くと言ったはずだ」



 モウモウと上がる爆煙の中、次第に見え始めたのは地獄絵図の様だった。


「うぅん……」


「あ……熱い」


「うぐぅ」


 敵味方どちらも無残な

 姿となっていた。

 それでも……


「ヒールよー、です」


「癒やし抱きたまえヒール」


 あちこちから回復魔法の光が灯り始めた。

 それは闇に次々と灯る希望の光の様だった。


「愚民共めが、しつこい」


「止めろぉ! サンドスネーク」


 再度、天願により何かしらの攻撃に出ようとした皇帝シュメーに無我夢中でアーモンは突進した。


「炎眼」


「いい加減にするのじゃ」


「イーズ!」


 シュメーを、まるで叱りつけるようにイーズは睨みつけアーモンを後ろから抱きかかえるように連れ去った。


(避けようのない魔眼発動の速度を超えた?)


 アーモンのいた場所が無人で炎上していた。


「ホーリードラゴンか? 遊びの時間は終わった! 邪魔をするなぁ」


 イーズの背中には人型のままホーリードラゴン時に現れる天使状の翼が生えていた。


「イーズ、その姿」


「狭いんでのコレしかなかったのじゃ、ただ流石の妾もコレはキツくての、いっそデカくなる方が楽なのじゃ」


 イーズがアーモンを後ろから支え速度を上げ、下からはコマちゃんの速度もある。

 その動きは右へ左へと一瞬でも気を抜けば魔眼攻撃の餌食となりそうな無茶を繰り返しながら遂にシュメーへと迫った。


「貰った!」


 アーモンがウロボロスの剣を突き刺した。


「ふはははは、急所を外して余に勝てると?」


 肩口を狙ったアーモンの攻撃は魔眼『夕日』の急降下により避けられてしまった。


「体の真ん中を狙っていれば当たってたのに!」


 下から誰かしら落胆の声が聞こえて来る……


「ダーリンや妾との子……あーいや、もう良い犬っころは形に過ぎんのじゃ、妾のチカラの欠片ゆえ形はダーリン次第なのじゃ、それでの……」


 速度を変えずにイーズはアーモンの耳元で囁く。


「もっと速く動けるって事なのか?」


「多分なのじゃ、それに……」


「分かった、やってみるよ」


 イーズのアドバイス。

 そのアドバイスを交戦しながら試すのは正に至難の業だ……


「炎眼、氷眼、雷眼」


 次々に繰り出される魔眼攻撃を超える速度で移動しながらシュメーの前へと辿り着いた、その時!


「それで良いのじゃ」


 アーモンを後ろから支えていたイーズはシュメーへアーモンを投げつけるようにして離れたのだ。


「シュメー!」


「炎眼」


 ヴゥワァフゥ!


 正面からモロに炎眼を喰らってしまったアーモンが爆煙の中から現れる……


 ヴゥシュッ!


「がぁ」


 今度こそシュメーの肩口へウロボロスの剣が突き刺さっていた。


「くっ、なぜ炎眼が効かぬ!」


 痛みと怒りに歪んだ顔でシュメーが叫ぶ。


「陛下! その者、妙な鎧を纏っております」


 先程、味方もろともリフレクトアイの餌食としたにも関わらず鎖の兵がシュメーへ進言したのはアーモンの、その姿であった。


「上手くいったのじゃ」


 人型で翼を顕現させる事が、余程の負担なのか肩で息をしながらイーズが呟く。


「まるでコマちゃんがアーモンを包んでるみたい」


 正しくアーモンを鎧の如く包んでいるのは黒湯気の狛犬だったチカラである。

 狛犬であった面影を残すかのような形状で見事に鎧と化していた。

 狛犬の頭は兜の様に頭部を包んでいた。

 もはや、これは鎧と呼ぶよりも甲冑と呼ぶべきか?

 その姿は戦国武将の如く出で立ちであった。


「ヒーリングアイ」


 肩口から滴っていた血は、みるみる止まり傷口も塞がった。

 しかし滴った血が落ちた場所は……


「こんなの……嫌なの、もう止めて欲しいなの!」


「カシュー……」


 カシューの悲痛な叫びにアーモンが気を取られた、その時だった!


「氷眼」


 鋭く研ぎ澄まされた氷の槍がシュメーを縦に囲む様に何本も浮いていた。


「操眼」


 シュメーの手の動きに合わせるように氷槍がアーモン目掛けて飛んで来た。

 魔眼攻撃を、ことごとく交わされた事から物理的な攻撃手段に出たようだ。


「うるぁ!」


 一撃目こそ不意を突かれ体をかすめたが……


(避けれる)


 黒湯気が甲冑化した事でコマちゃんに乗っている時と同じ速度……いや更に速く避ける事が可能となっていた。

 全ての氷槍を避け切り……


「くっ!」


 皇帝シュメーもまた魔眼を使った超人的な速度で避けたのだが……


「また斬れたぞ!」


 美しく長いプラチナ色の髪が、またもやウロボロスの剣によって斬られたのだ。


「邪魔をするな!」


 シュメーの表情には遂に余裕が消え始めていた。

 このまま行けば倒せる皆が感じ始めた、その時にカシューの声がアーモンへと届いてしまった……


「んぁ、アーモン、兄様を殺しちゃ嫌なの……ごめんなさい」


(殺したくはない……ただ、そんな甘い事でシュメーを止める事が出来るのだろうか?)


「お前ごときに余を殺せるものか! まだだ、もっとだ!」


 シュメーは、そう叫ぶと先程の氷槍を何倍も本数を増やし枯渇した魔力を舌の吸眼で補充した。

 叫び散らし舌を出し全身魔眼だらけになった姿は目を覆いたくなる程に狂気的になっていた。


「死ね」


「痛ぅ!」


 物凄い速度と数で襲いくる氷の槍。

 ウロボロスの剣で弾き、黒湯気の甲冑のチカラで避け、サンドスネークで砕いたが、それでも何本かは喰らってしまっていた。


(コマちゃんの甲冑がなければ致命傷だったな)


 黒湯気甲冑により上がった速度、しかし別の問題が起きている事にアーモンは早々に気が付いた。


「くそっ! 重い」


 ウロボロスの剣が速度に対して重いのだ。


「どうした? 自慢の鎧が削れ始めておるではないか」


(解析眼? いや黒湯気の削れが見えるって事はラッカの魔環を使ってるのか?)


 壮絶な速度の氷槍攻撃。

 枯渇しない魔力。

 このまま続けていれば、いつか削り切られるのは、こっちだ。

 アーモンは、そう考え……1つ賭けに出た。


(しばらく避けず、祈る、そして込める)


「ああ、アーモンが……」


 何本も、何本もの氷槍に被弾するアーモンを下から見ている仲間の落胆と心配の声が爆音で掻き消される中……


「上手くいったぁあぁ!」


 爆煙の中からボロボロの黒湯気甲冑を纏ったアーモンがシュメーの前へ現れた。

 今迄の速度を更に超え縦横無尽に移動したアーモンの後ろで氷槍が静止し、そして……


「なんだと!」


 全ての氷槍が2つに割れ落下したのだ。


「これで終わりだ!」


 アーモンが振り上げたのは弧を描く様な刃……

 それは、この世界の者が見た事もない武器。


『カタナ』


 ウロボロスは蛇の装飾が施された豪華な刀の形へ変化していた。


「うがぁっ!」


 振り下ろされたウロボロスの刀は皇帝シュメーを薙ぎ払った。


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