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多眼

「そうだ動いた者から焼いてやろう」


 その言葉に修道士も鎖兵達も身を固くしたが……


「スカルホーンハンマー!」


「走れ雷ライトニング」


「射る」


「炎の弾ファイヤボール」


 知った事かと攻撃した者がいた。

 ピスタ、ラッカ、ペカン、フラマウだ。


「くっ!」


「みんな!」


 皇帝の狂喜に歪んだ美しい顔が苦痛に歪み先程見せられた過去視の金眼の奴隷の表情が脳裏によぎる。


「この、()れ者がぁ!」


 過去視の光景が蘇った事でホースステップの速度が鈍った、その瞬間にシュメーが魔眼を発動した。


「炎眼! 氷眼! 旋風眼! 隕石眼!」


「くっ!」


「なっ!」


「うがぁ!」


「痛ぅ!」


 詠唱も不要、まして魔法攻撃の様に到達までに速度で回避する訳にもいかない即効果に見舞われる魔眼の威力、これまで自分達が頼りにしていた魔眼と言うこの世界の特異な能力の凄さを嫌と言う程に味わせられた瞬間であった。


「止めろぉ!」


「友よ、仲間が傷付く度に正気を失うか……そんな事では何も守れぬのだ! 余は違う! そんな事とっくに通り過ぎたわ! 炎眼」


「うがぁあぁぁ」


 遂にマルテルから奪った魔眼『炎眼』でダメージを負ってしまったアーモンは真っ逆さまに落下した。




 その瞬間だった。


「甘もうごさる」


「くはっ!」


 皇帝シュメーの背後に現れ叩き落としたのは戦闘将ヘレフォーであった。


「アーモン殿は途中から囮として某に賭けてござった。それを勝ち誇ったように(あざけ)るとは甘もうござる」


 馬眼の持主であったヘレフォーだからこそ馬眼を発動している時の些細な動きの違いが分かる。皇帝シュメーが馬眼を発動していない事も、また同じ様に読み取った上での行動だ。


「くっ、この他国の愚民がぁ」


 アーモンの(おとり)を無駄にせまいとしたのか、ここまでの行いから躊躇しなかったのかヘレフォーの攻撃は皇帝の腹部を穿いていた。


「許さぬ! 許さぬ! 許さぬぞぉ!」


「は、早く陛下に回復魔法をせぬか」


「いらぬ! ヒーリングアイ」


 何と皇帝シュメーは魔眼修道士の誰かから奪ったであろう癒やし系魔眼で自ら回復させてしまった。

 それどころか、あっという間に上空へと舞い戻ってしまった。


「あれ?」


「……プロテクトスキン……しておいた」


 炎眼によって炎上したと思われたアーモンだったがクコが予めプロテクトスキンを発動していた事で事なきを得た様だ。


「ありがとなクコ」


(くそっ、上空に静止した相手には、いくらホースステップでも限界がある)


 上空に戻りヘレフォーと交戦中の皇帝シュメーを見上げ、そう思ったアーモンにイーズが声をかけた。


「ダーリンよ、犬っころを使うのじゃ」


「そうか! ありがとなイーズ」


 馬王の間で使いこなせるようになった黒湯気のコマちゃんを久々に呼び出したアーモンは跨り……


「チカラを貸してくれコマちゃん」


 そう呟くと一気に上空へ駆け上がった。





「ふふ、どうだ自分の魔眼で裏をかかれる気分は」


「くはっ! 某の馬眼を初見で使いこなすとは……」


 凄まじいホースステップで皇帝を撹乱していたかに見えた戦闘将ヘレフォーであったが瞬時に背後へ廻られ氷結眼によって生成された氷槍によって腹部を穿かれ落下して行った。


「将殿! 受け取らぁね」


 地面への落下だけはアルワルによって防がれたが相当なダメージだ。


「サンドスネーク」


「ふふ、上空に留まれたとて……友よ、その程度の攻撃効かぬぞリフレクトアイ!」


「シーちゃん!」


 目の前に呼び出した黒湯気のシーちゃんをシールド的に使う事でダメージを回避したアーモンだが……


(ごめん……シーちゃん)


 霧散した黒湯気は魔力の消費が激しいだけで再度呼び出すだけ……解ってはいるものの心に堪えるアーモンであった。


 種族スキル、混成魔法、黒湯気、ホースステップ、使えるモノを総動員して皇帝シュメーと対峙しているアーモンたが、全く歯が立たない程に力の差を感じていた。


(せめてウロボロスが、あれば)


 祈るような気持ちで、そう思った時!


「アーモン!」


 下から無数の黒い群れがアーモン目掛けて襲って来るのが見えた。


(また蜂か!)


 避けも出来ぬまま、その群れに包まれたアーモンを皇帝も見ているしか出来なかった。

 やがて無数の群れは1箇所へと集まり……


「ウロボロス!」


 アーモンの腕にジャレつくように2匹の蛇が絡みついていた。

 蜂の群れかと思われた黒い影は砂嵐の様に蠢き移動して来たウロボロスであった。


「あれは先程、粉砕したはずじゃ」


 片眼鏡のカルタゴが驚きの声をあげる。


「剣モード」


 何度となく変換してきたウロボロスだが一度失った事で祈りの濃度が増したかの様にアーモンは感じていた。


「それが戻ったところで何が出来るのだ友よ、魔眼の効果が斬れるとでも? ふはははは!」


「クイック!」


 魔眼を発動する前に斬る!

 最大限の速度で攻めるアーモンに一瞬、驚いたシュメーだったが……


「夕日」


 魔眼『夕日』の効果で一気に下降し回避した。


「サンドスネーク!」


 この状況を何とかする為に今までのサンドスネークとは違う発動だ。

 アーモンは一気に8体のサンドスネークを放った。


「朝日」


 スカルフェイスダークの頭髪大蛇の如く上昇して来るシュメーにサンドスネークが襲いかかる。


「俯眼、旋風眼、リフレクトアイ、氷眼」


 1体でも当たれ。

 その気持ちで放った8体のサンドスネークだったが全てが氷眼で造られた氷を含んだ旋風眼の竜巻で弾かれた。


「うらぁ」


 それでもコマちゃんごと速度を上げたアモーンが一気に上空から斬りかかった。

 サンドスネークに対応していたシュメーに出来た一瞬の隙……


「ふふ、惜しかったな」


 皇帝シュメーの美しいプラチナ色の髪に刃先が触れた。

 それが結果だった。


「そんな……くそ」


 エラトスの落胆した声。

 だが!


「偉そうな事ばかり言ってるが今、当たったぞ」


「髪先に触れただけで何を言う」


「当たらないはずだっただろ? それが当たったんだよシュメー! 所詮は借り物のチカラだって事だ」


 アーモンの挑発。

 苦し紛れだったかも知れない、それでも明らかに皇帝シュメーの顔色は変化した。


「……遊びは終わりだ」


 肩に、腹に、腕に、背中に、次々とシュメーの体のあちこちに様々な色の瞳が現れていく。

 美しかったシュメーの姿は、もはや別物……

 禍々しい多眼の化け物の様に変わり果ててしまった。

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