天気計
オマモリ販売班の班長となったエラトスのもとへ商人のイドリーが訪ねて来ていた。
商人個人としてではなく商隊の隊長としてである。
「これは、これはイドリーさん遂に商隊を組まれたのですね」
「商隊と呼ぶのには、おこがましいですね、私を入れて6人程の小さな集まりです」
「いえいえ、立派な商隊ですよ! おめでとうございます」
「エラトスさんこそ班長になられたそうで、おめでとうございます! 今回はお祝いと今までのお礼も兼ねて手土産を、お持ちしました」
そう言って質素な長い箱をエラトスに渡す商人改め商隊長イドリー。
「そんな事までされては申し訳ないです……ですが、せっかくですので中を確認させて頂きますね」
にこやかな表情のまま中を確認するエラトス。
周りではオマモリ販売が忙しく、いつもの様に騒がしく修道士と商人達のやり取りする声が響いている。
照りつける太陽に滴る汗を拭いながら。
「……大層なものを、ありがとうございます……必要になりそうですかね?」
「ええ、こう見えて鼻が効くので」
犬型の獣人お決まりのジョークにエラトスは愛想笑いをする。
にこやかなままのエラトスの額に滴る汗は、果たして太陽のせいなのか? 別のモノなのか……
オマモリ販売を配下の者に任せて奥の部屋へ入った二人の話は誰にも聞かれぬ様、ひっそりと行われるのだった。
天気計は、この世界独特の道具だと思われる。
前の世界の時計の様に、あちこちに掛かっている。
別名をチオ計とも言う。
開発者かつてのドワーフの王、チ王の名を冠したと言われており元々はチ王計だったとする説もあるが現在この名で呼ぶのは一部のドワーフだけである。
長針が一刻先の天気を指し、中針が半日先を、短針が明日の天気を指す。クロノグラフの様に中にある二つの円で週間と月間の天気を予報している。
「そろそろかも知れんのぉ」
「はい、準備は進めております」
「ここの天気計が一番良く当たるからのぉ流石はチ王の作じゃ」
外周から中央にかけて二匹の蛇がS字に絡まりつつ互いの尾を噛むウロボロスが希少金属で装飾された豪華な天気計、チ王直々の作だとされる歴史的にも価値のある物だ。
ウロボロスの瞳には魔石が嵌め込まれ、そのウロボロス自体も、とある気象変化を色の変化で知らせている。
その天気計を見ながら修道院長のベアトゥスと神父長は話していた。
「やれやれじゃのぉ」
今日も、また書類の山と難題の山に溜息の尽きないベアトゥスは鼻眼鏡を押し上げては皆と同じ様に額の汗を拭うのだった。




