ケペシュ
「仕掛ける場所を間違えとらぁね」
「いいんですよ、これで」
「何の仕掛けよー、です?」
「雪面鳥の罠に使う仕掛けだぁね」
雪面鳥は雪に潜る性質がある事から捕えるには誘き出す必要がある。
その時に使われるのがハジケムシの触角だ。
適度な硬さと適度なしなりのある触角を丸めて縛り雪に埋めた後に対象の接近や簡単な詠唱で縛りが解け弾け飛ぶように元の触角へ戻るのだが……
ヴァビョン! ビョンビョンビョン
「あ、また鳴ったよー、です」
凄い音が鳴るのだ。
そして音に驚き飛び出した雪面鳥を弓や武具で仕留めるのだが今回は……
「ほれ見い、音に釣られて、また敵が増えとらぁね」
「いいんですよ」
マテオは気が付いたのだ、どう動いても、こちらの動きを察知した様に先回りしながらも見張るだけだった敵の動きが変化した事を。
(やっぱり俯眼や千里眼が金環で波及されなくなったんだ)
敵の追尾に余裕がなくなった事からラッカ達を動き易くする為に自らを囮とする為、ハジケムシの触角を使ったのだ。
「もう見張るだけじゃなさそうよー、です」
「ほれ見い、やるしかなさそうだぁね」
「お二人の出番です! ここなら良い場所でしょ」
そこは大聖堂の奥、かつてアーモンとラッカが、よく登っていた塔の入口だった。
「まあ、後ろの心配はないわぁね」
「上に少し登って射るよー、です」
「じゃ、お願いします」
「……この後……どうする?」
「アーモンを守れたし意識も戻ったけど、あの場所へ行くのは難しいわね」
大聖堂の天井裏にある管理用通路。
そこは修道士でも出来の良い優等生のみが掃除や管理を任される特別な場所。
ある程度の危険と大聖堂の建築物的な貴重性から誰でもが立ち入れないようになっている。
その場所をラッカは知っていた。
かつて何度となく立ち入った経験からだ、これがアーモンやマルテルなら行き方すら知りもしなかったであろう。
その通路の複数ある管理窓からアーモンを救う為に魔法を行使したのだ。
「それにしても急に追手が減ったのが気になるわね」
「……また……マテオ無茶した?」
「そうじゃなければ良いんだけど」
残念ながら結構な無茶が行われてます。
アーモンとカルタゴの様子を伺うばかりで、その他を見ていなかったラッカとクコだが、その時に、それは起きていた。
そう鎌型の剣ケペシュがポイティンガーによって石像と化した修道士に振り下ろされたのだ!
「ダメだ! ポイテインガーそれは修道士だぞ」
「バカめがぁ! 味方を殺りやがったぜぇ」
「なっ!」
「えっ?」
「おいおいおい、どうなってんだ?」
シュー!
「ゲホッ、ゲホッ、衛僧長殿! た、助かりました」
なんとケペシュが振り下ろされた修道士の石化が解けたのだ!
「あらあら、知りませんでしたね」
「どう言う事だぁ、こらぁ」
かつてシスターとして勤めていたメルカも知らなかった事実。
ケペシュによって石化が解かれる。
それこそが魔剣と呼ばれる理由であった。
「歴代の修道院長が蛇眼の持主だって聞いた事があるけど……そう言う事だったのね」
フラマウが気付いた別の事実。
「まあな、もしも修道院長が暴走なりした場合に備えて歴代の衛僧長にのみ携行が許されて来たのがコレだ」
そう言ってポイティンガーは再び別の石化された修道士へとケペシュを振り下ろした。
そこからは速かった。
次々に何人もの修道士を石化から解放して行く。
「ええい、何をしとるか! そやつを止めい」
カルタゴの叱責により唖然としていた多くの鎖兵が我に返ったように動きを活発にしたが解放された修道士達も、また対応が速かった。
過去視を見せる為に目元の石化だけ解いていたのが鎖にとっては災いした。
修道士達は当然、事態を把握しているのだから。




