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催眠眼

 あまりにも静かな砂漠の修道院。

 アーモンもラッカも上空から、そう感じていた。


「このまま降りて良いかの?」


「ああ、イーズ頼むよ」


「おほ、ダーリンが優しく囁くのが堪らんのじゃ!」


 興奮したのか猛スピードで降下するホーリードラゴンに皆が、しがみついた。


「ゲホッ」


「ゲホッ、ゲホッ」


 舞い上がる砂煙に皆が咽返る中……

 何事もなかったかの様に立ち上がりアーモンを引っ張ったのは……


「ゲホッ、ん? ラッカ! それって?」


「そうよ魔眼帯。アーモンだって持ってるでしょ、どうして着けないのよ」


「いや、俺は、サンコロで子供に負けて取られて……」


「もう、何してんのよ」


 修道院に戻った途端、かつての上から目線にラッカが戻ってしまったのか? 不安になるアーモンであった。





「ゲホッ、皇帝は大聖堂にいると思われます。わたくしに着いて来て下さい」


 混乱する皆をリードしたのはイドリーであった。

 イドリーと離れて以降、白銀のスランバーのリーダーとして存在感を高めていたアーモンであったが修道院へ戻ったと共に関係性まで戻ってしまったかの様である。


「誰か来るよー、です」


「シスター」


「もう少し目立たない様に降りられないのですか!」


「すまない、わたくしとした事が配慮が足りなかった」


 近付いて来たのはフラマウだった。

 既に到着したであろう皇帝たちから身を隠しているのだろう。

 これだけ砂煙を舞い上げ到着すれば憤慨して当然だ。

 だが……


「いいんですよ、シスター。どの道、俺達が来る事はシュメーも……皇帝も分かってるはずなんで」


「どう言う事なの? アーモン」


 フラマウに先程起きた魔眼強奪の経過の顛末を話しながら大聖堂へと向かう。

 その間こちらの様子を伺っている者達がいる事も気がついていた。

 鎖の手の者である事は間違いないだろうが手を出して来ないところを見るとシュメーの何かを見せてやると言った言葉は嘘ではないのだろう。


「……という訳でカシューも心配なので正面から向かいます」


「アーモンは、それで良いわ。でも全員で向かうのは得策じゃないわ」


「俺も、そう思わぁね」


 ラッカの言う事は最もだ。

 でも……


「無駄なんだラッカ、アルワル……みんなも見ただろ? 金環で広げたクコの俯眼やペカンの千里眼、ピスタの解析眼があれば建物だって透けてしまう。隠れようなんてないんだ」


「今は、その全てを皇帝が持っており申す……か」


「何なら金環で味方に波及させる事もできるぜ」


 隠れていたフラマウ達に被害が出てないのは見つかってないからではなく見逃しているだけなのだ。


「ふん、どの道あいつを倒しに来たのよ」


「それは私も分かってるわ、でもね見える事と知ってる事は別よ」


 自分は、ここで育った。

 魔眼修道院の中は知りつくしている。

 魔眼を奪い驕り高ぶる敵の盲点を突くチャンスがあるとすれば、そこかも知れないとラッカは言った。


「悪くない案なのじゃ、数人ラッカと行くのも悪くないのじゃ」


 イーズの助け舟でラッカ案も通り……


「だったらラッカさんがピンポイントで追跡されない様に別部隊も編成しましょう」


 兵法なのかは知らないがマテオの追加案も採用された。


「わたくしは顔が割れていますのでアーモン班で正面から行きましょう」


「……ラッカ……着いて行く」


「誘導なら役に立てそうなので別部隊をやります」


 こうして正面のアーモン班。

 修道院を知るラッカ班。

 別部隊で誘導するマテオ班へ別れて動く事になった。





「では開けます」


 久々の大聖堂の扉を開く。

 小さな頃から祈りの場として慣れ親しんだ大聖堂。

 居眠りをして叱られる修道士達も多かったが神社の跡取りとしての記憶があった為、祈りの時間だけは適当に出来なかった、あの頃の記憶が蘇る……

 が、しかし記憶を踏みにじられる光景が扉の向こうに広がっていた。


「ふふ、来たか友よ」


「何が友だぁ、シュメー! 何の真似だ、これはぁ!」


 大聖堂の魂とも言える神聖な正面彫刻に玉座が築かれていた。

 傍らで未だ作業を続けているのは、かつて呪いの古道入口で会ったエルフとドワーフのハーフ達だ。

 つまりは錬成によって玉座を築いたのだ。

 だがアーモンを憤慨させたのは、その神への冒涜ではない。

 大聖堂での祈りの時間に襲われたのであろう神父や修道士達の残念な姿であった。


「みんな石化されてるなんて……ひどい」


「目だけ石化が解かれていますね」


「ここは魔法師が多いんだろ? だったら詠唱させない為に口の石化を解いてないんだぜ、きっと」


「シュメー、こんな事しやがって許さねぇからな!」


 目の周りだけが石化を解かれた修道士達は視覚のみの情報から事態を飲み込もうと目をキョロキョロとさせているが中には泣き出してしまっている者もいた。


「陛下に何て口のきき方よ、躾をしてやりなさいよ! ウルゲ」


「うるせぇ、指示してんじゃねぇぞぉ、この(あま)がぁ」


 マヤに指示されたのは、かつて砂の錬成兵事件で指揮を執っていたウルゲ。

 狐系獣人の血を引くミックスだ。


「こいつは厄介な敵です。わたくしに任せて!」


 イドリーが一歩前へ出た。

 と、ここで口を開いたのは片眼鏡のヒューマン、テーベの鎖代表であるカルタゴであった。


「マヤもウルゲも下がれ。陛下の邪魔をするつもりか」


 荒げるでもない声色。

 静かながらも気圧(けお)されるような迫力。

 片眼鏡の奥の座った目同様に妙な凄みを感じさせる話し方に顔色を変えたマヤとウルゲは静かに後ろへと下がった。


「ふふ、では始めよう。カシューよ手伝っておくれ」


「……んぁ、こんなの嫌なの……兄様おかしいなの」


「カシューナ様、陛下は奪眼で過去視を奪う事も出来たのですぞ、カシューナ様の事を思えばこそ残されたのです。駄々をこねずに陛下の大義を成す為に協力するのが皇族としての勤めではありませぬか?」


「……嫌なの、もう見たなの……隷属眼を使われてたなの!」


「勝手に過去視で見たと? 厄介な、陛下どう致しますか?」


「ふふ、カシューナよ。負担を掛けぬ為に、敢えて隷属眼を使っていたのだが、分かってくれぬか?」


「んぁ、兄様……嫌なの」


 そのカシューの言葉の後、優しげに語りかけていた兄らしさはシュメーの顔から一瞬で消えていった。

 冷たく醒めた表情。

 カシューに、そっくりな美しい顔……

 その顔の右頬に、ゆっくりと新たな目が開いた。

 その頬の瞳は光のない、くすんだ灰色だ。

 その瞳が開いたと同時に皇帝シュメーの元々の瞳である金眼は閉じていた。

 砂漠で額の天眼を使った時も同じであった事から奪眼で奪った魔眼を使用する際には自らの瞳は閉じる必要があるのだろう。




「催眠眼」




 静かに呟いたシュメーの言葉と共にカシューの顔から表情が消えた。


「何しやがった、シュメー!」


「ふふ、友よ見ていろ! これこそが金環の使い方だ。さぁ、見せてみろカシューナ、我ら金眼の一族の過去を!」


 シュメーの言葉と共にカシューの金眼が輝く。

 それと同時にシュメーの両方の、こめかみへ金環、舌へ吸眼、左手の甲に天眼が現れた。

 美しかった皇帝シュメーの顔は次々に現れた魔眼により異様なモノへと変貌していった。


「さぁ、皆の者見るがいい、これが我が一族が味わった屈辱と苦痛の歴史だ」


 猛烈な速度で巻き戻しが進む。

 カシューとの旅の中で何度も見て来た過去視の特徴が久々、目の前に現れた。

 だが今は、あの時とは違う。

 アーモン自身が金環で皆に波及させている過去視ではなくシュメーに見せられている過去視だ。

 巻き戻しがピタリと止まり始まったのは目を覆いたくなる光景であった。


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