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吸眼

「ふふ、マヤよ、この魔眼を試しても良いか?」


 シュメーが先程の妖艶な女へ奪ったばかりの魔眼を試させろと言っている。


「マヤに試すと言う事は、もしや?」


「ああ、その可能性が高い」


 何かを察した様子のカルタゴへシュメーも認めたような物言いだ。


「ふふ、では試すぞ、吸眼!」


 そう言うとシュメーは口を開けた。

 驚くべきは口の中……舌の上に紫色の瞳が現れていた。


「あっ、あぁあ吸われていますわ」


「ふふ、ふは、は、はは、これだ! この魔眼こそが必要だったのだ」


 そのやり取りを見て悔しそうに叫んだのは……


「おいおいおい! そりゃヘーゼルたんの魔眼だろうがぁ、返しやがれぇ」


「べハイムどう言う事? ヘーゼルも魔眼持ちだったの?」


 ラッカの質問に答えたのは泣き腫らした目のヘーゼルだった。


「そうよ、吸眼……魔力を吸うチカラだけど滅多に使わないわ」


「あったりめぇだ、ヘーゼルたんの魔力が枯渇する事なんてねぇからな、それに引き換え、あの小僧のしょぼい魔力量じゃ、そりゃ大喜びだろうさ」


 べハイムの言葉に顔色を変えたのはマヤと呼ばれる妖艶な女だった。


「あの痴れ者を始末してもよろしくて?」


「ふふ、やる事が出来たが、まあ良い。もう少し遊んでやれ」


「お任せ下さいシュメー様」


 女は紫色からピンクへとグラデーションした長い髪を揺らしながら、まるで踊るかのように、それでいて素早く、あっという間にべハイムとヘーゼルの元へ辿り着いた。


「いい男じゃない、アタイに従いなさい」


 そう告げるとピンク色の瞳を輝かせた。


「おいおいおい、そんなお世辞で釣られるオイラじゃねぇぜ! そんな事よりヘーゼルたんの魔眼を、返しやがれ」


「なっ、この首だけ男、どうしてアタイの魔眼、魅了に掛かかんないのよ!」


「べハイムは腐っても神よ、おわかり? おばさん」


「なんですって! この小娘がぁ」


 ここからのヘーゼルとマヤの戦いは周りにも被害を撒き散らす壮絶なものとなった。




「んぁ、兄様、アーモンは仲間なの。こんな事止めて欲しいなの!」


「ふふ、カシュー心配ない。アーモンも分かってくれるさ。このシュメーの壮大な計画には多くの魔眼が必要なのだと」


 魔眼のチカラを奪われたアーモン達は未だシュメーに近付けずにいた。


「ふふ、カルタゴよ準備は済んだバビロニの民へと知らしめる時が来た」


 ヘーゼルの魔眼『吸眼』を得た皇帝シュメーは唯一の欠点を補ったのだ。

 多くの魔眼を『奪眼』で奪っても連続で使えるほどの魔力量を有していないという欠点を。

 そして、それにより整ってしまった準備。

 彼はバビロニへ戻り何かをしようとしていた。


「恐れながら陛下。バビロニの前に先程の修道院で予行練習などされてはいかがでしょうか?」


「いきなり本番をするには余は頼りないと申すのか?」


「そうでは、ございません。その吸眼とやらも、どれだけ機能するやも分からぬまま使われるのは得策とは言えぬと申しておるのです」


 鋭い眼光のシュメーに対して顔色一つ変えずに正論で対応するカルタゴ。

 片眼鏡の奥の座ったような目は一種の凄みを纏っていた。

 さすがテーベの鎖の代表と言わざるを得まい。


「ふふ、最もよのぉ、カルタゴその案乗ったぞ! 皆のものラマーニ修道院へ戻るぞ」


「はっ!」


 鶴の一声。

 皇帝シュメーの言葉により一斉に片翼の獣人が上空へ飛び上がり次々に鎖の兵を連れて行く。


「くそっ、待て!」


 叫ぶアーモンに最後、皇帝シュメーは言葉を掛けた。


「ふふ、友よ来たければ着いて来い。そなたの魔眼の正しき使い方を見せて進ぜよう」


 これが統率の取れた兵。

 統率の取れた組織の動き……感服するしかない程に、あっという間に飛び去られてしまった。

 カシューがアーモンを呼ぶ声だけが救いのように響きながら消えていった。




「行きましょうアーモン! 修道院にはメルカ達も残っていますし心配です」


「そうですね……カシューも取り戻さないと」


 多勢に無勢。

 このまま魔眼修道院へ行っても先程と何が変わるだろうか?

 それでも行くしかなかった。


「ソイビーや皆を連れて行ってくれぬか?」


「どうしたのじゃ? もしかして、もう時間がないのかの?」


 閃馬である馬王は、いつのまにか分体を消し一体となっていた。

 それだけ維持も難しい程に残りの時間がないのだろうか?


「それもあるが最初に消した分体を復活させた」


 馬王の話では来る途中に次々と消した分体は消した場所で復活させる事が出来るらしく、事実もう復活させて動いているのだそうだ。


「スカルフェイスダークは消えた。アーモンと皆のお陰だ! この借りを返す為に動いている。故に修道院へは送ってやれぬソイビー頼んだぞ」


「分かったのじゃ」


 馬王が何をしているのかは察しが付いた。

 そして、その行動が馬王の最後のチカラになるのではとも同時に思っていた。


「ヘーゼルよ、永く待たせて、すまなかったな。お前はどうするのだ?」


「行くわ! どの道消えてた……それなのに踏み潰したアイツを許せない」


「そうか……では達者でな。ヘレフォー! 戦闘将としてカータの恩人アーモン達に加勢してやれ。後は頼んだぞ」


「はっ! 最後に閃馬に騎乗出来た事、誇りに暴れて参り申す」


 ホーリードラゴン化したイーズへと皆が乗り込み俺達はラマーニ修道院へ向かう。

 俺とラッカは、あの日イドリー、メルカと共に旅立ってから初めて戻る魔眼修道院だが感傷的になる余裕など微塵もなかった。


 皆が失った魔眼のチカラを思う為か、風圧の為か、瞼をに手を当て言葉少なく進んで行った。

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