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1滴

 ヴゥヴァァン!


 遂にスカルフェイスダークにウロボロスの剣を突き立てた。

 と思ったはずが……


「どうした……クコ……?」


 皆が目を疑った。

 ヘーゼルがスカルフェイスへのトドメを邪魔したのは理解出来る。

 クコが防御魔法リバーシールドまで展開してスカルフェイスダークを守った?

 ここにいる全員が混乱していた。


「どんな理由があるよー、です?」


 同じエルフの血が流れるからか? 行動を共にする事が多くなりつつあったペカンがいち早く言葉を発した。


「……アーモン……あの時の」


「どの時だよ……」


 正直ホッとしてしまっていた。

 ヘーゼルの父親を殺めずに済んだ安堵感からクコに感謝まで感じて始めていた。

 とは言え事態は変わらずもう一度、殺める決心をし直さなければならなくなった事への苛立ちも募り出していた。

 ……が、思い当たった。



 クコの瞳に流れる涙を見て。



 あの魔湖の中で単眼族の赤子との一件で見た涙を思い出した。


「そうか! 少しだけ時間を下さい」


「ええが、余力を使い果たさぁね。失敗は全滅だぁね」


「某も限界が近こう申す」


 皆の返答なんで待っていなかった。

 俺はウロボロスへ祈りと魔力を込めた。

 そして……


「鉾先鈴モード、舞う」


 そうだ単眼族の赤子……生まれながらにスカルフェイスだった赤子を救った、あの方法だ。


 シャン、シャシャン!


 あの時と同じように子供の頃の記憶を頼りに巫女舞を舞った。

 心を込めて、祈りを込めて。


「……」


 皆が固唾のを飲んで見守ってくれている事が目を瞑っていても伝わって来た。


 あの時と同じ様に鉾先鈴を振る度に黒色魔力が巻き取られて来る感触。

 鈴が鳴る度、その黒色魔力が浄化されていくような清々しさ。


「おぉ」


「すげぇぜ」


「理を超えるか……」


 あの時、赤子のスカルフェイスを祓った時と同じ一連の動作を終えた。

 瞼を開けば祓い終わり、もう効果が続かぬような気がした。

 そして、あの赤子の時のような達成感が足りない気がした。

 終えて良いのかの迷い……


「続けてアーモン」


 静かな声だった。

 場の静寂を、場に漂う繊細で複雑な奇跡を崩さぬギリギリの音量でラッカが呟いた。

 足りてない……そう気が付いた事で少し祈りが乱れた。


「大丈夫続けて」


 ラッカの声が祈りのエネルギーの様に染みる。

 俺は落ち着きを取り戻し、もう一度舞った。

 そして出来る限りの祓いを終えた。

 手応えを感じた。

 たが、それは別の手応えも感じさせていた。




(祓い切れない)




「ごめんアーモン片目だけだわ」


 ラッカには分かったのだろう。

 魔環のチカラなのか別の何かなのかは分からないが祓い切れない、ここまでだと分かっていた。


「ごめん! ヘーゼル」


 涙が溢れた。

 そして開いた瞼の先に見えたのは同じ様に涙を流す皆の姿だった。


「いいの、ありがとう」


 ヘーゼルは呟きスカルフェイスダークの、いや父親の元へと歩み出した。


 優しい目だ。

 スカルフェイスダークの僅かに修復された顔。

 左目と周辺の肉、顔の3割程度がスカルフェイスからヘーゼルの父親へと変貌していた。

 驚くべきは、あれだけ暴れていた頭髪大蛇が消え失せていた事だ。


「分かるの?」


 瞳だけの父親へ、ヘーゼルは話しかけていた。

 スカルフェイス状態の口元からは言葉どころか話そうとする素振りさえも見られなかった。

 それでも……


「そう分かるのね」


 会話。

 それは親と娘ゆえか、他の者には分からずとも理解し合える会話であった。

 そして、その会話は束の間の奇跡である事も伝えていた。


「嫌! 嫌よ、どうしてよ」


 ヘーゼルが叫び父親へ抱きついた、その時。

 その僅かに戻った瞳から1滴の涙が落ちた。

 娘を抱き返したかのような涙だった。



「離れろヘーゼルたん!」



 叫んだのは首神べハイムだ。

 涙を落とした父親の瞳は、みるみる消失し再び虚空の瞳……スカルフェイスへと戻ってしまった。

 そして虚空のままだった右目から嫌なモノが現れた。

 巫女舞によって、鉾先鈴モードのウロボロスによって祓われた……


 蛇が虚空の瞳からニュルリと現れたのだ。



「プロテクトスキン」


 ヴゥヴァン!


 小さな慟哭を放った蛇からヘーゼルをクコの防御魔法が守った。

 その瞬間、押さえられていたチカラが吹き出すように頭髪大蛇が一気に復活した。

 もう終わらせるしかなかった。


「ゴメン」


 ヘーゼルの向かいに立って、目の前で殺る決心をした。

 鉾先鈴の刃先をスカルフェイスの首へ一気に下ろした。

 その俺へ復活したての頭髪大蛇も一斉に向かって来ていた。


 ズヴァシュン!


 右手で首へと突き刺し左手でスカルフェイスダークの頭をもぎ取った。

 その鉾先鈴を握る右手の上には、いつの間にかヘーゼルの両手が添えられていた。

 止めようとしたのではなく共に終わらせた事が力と震えから伝わっていた。

 そのままヘーゼルは俺の胸へ頭を付けて泣いていた。

 スカルフェイスが霧散するまでの間……


 時間にすれば一瞬だが長く永く感じた。

 あの1滴の涙が同じように長く永くヘーゼルを包んでくれと願う事しか出来なかった。

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