隠し事
あけましておめでとうございます。
スロー更新にも関わらず読んでくださる事、感謝しております。
本年は一旦完結を目指しております。
それまでの間、アーモン達をどうぞよろしくお願いします。
「トドメを刺せ」
スカルフェイスダークを押さえている閃馬が一斉に叫んだ。
「分かり申した!」
戦闘将ヘレフォーが迷いなくトドメを刺す、その時……
ヴゥヴァァァ!
頭髪大蛇ではなくスカルフェイスダーク本体の口から慟哭が放たれたのだ。
「うがぁ」
「ヘレフォー!」
ホースランスで穿こうとしたヘレフォーが肩に被弾した。
しかし直撃せずに肩だけに留めた身のこなしは流石と言う他なかった。
そればかりかスカルフェイスダークの左足へホースランスを突き刺していた。
「よう当てたぁね」
「何か変だわ」
「まさか!」
「そんな……効いてない」
足とは言え見事に突き刺さったホースランスがダメージを与えていない。
ラッカの魔環で見えるはずのダメージを負った時に見える魔力の揺らぎが、ほぼ皆無だった。
「ツノシャチの時と同じだぜ」
そうだ、あの時も『込め』までした銛でも倒せずウロボロスの銛で、やっと倒せたんだ……
「アーモン」
「分かってる」
神事斧モードのウロボロスに祈りと魔力を込める。
砂を撒き散らしながら2匹の蛇が空中で絡み合い剣モードへと変化した。
「……頭の……蛇が」
「だんだん修復してるよー、です」
(時間がない!)
スカルフェイスと言えど人の形をした者を切るのは気持ちの整理とか時間が欲しかったが、そうも、言ってられないようだ。
「せい!」
力を込めて飛び上がり一気にスカルフェイスダークの首へと切っ先を突き刺す。
その時!
思いがけない邪魔が入った。
「闇の爪ダークネスネイル!」
「うおっ!」
目の前を濃い黒紫色の魔力が裂く様に横切った。
「ヘーゼル、何してんのよ!」
「何しとらぁね」
魔眼修道院に向かったはずのヘーゼルが突如現れ邪魔をした。
なぜ現れたかは分からないが、なぜ邪魔をしたかは分かる気がした。
「ヘーゼル」
「……」
「おいおいおいヘーゼルたんの気持ちを汲んでやってくれ、なあ馬王」
「馬鹿が! この機を逃せば次はないのだぞ、いいから殺れアーモン」
皆で切り取った頭髪大蛇が修復しつつある。
あまり時間はない。
しかし……
「馬王! 隠さず言いなさいよ。それを隠すからヘーゼルだって何かモヤモヤしてんじゃないのよ」
ラッカだった。
何の事を言っているのか解らなかったが魔環を通して馬王の揺らぎでも見たのだろうか?
「小娘が! もはや、そんな時は逸した。いいから殺れ」
「やれやれ荒ぶっとらんで冷静になるのじゃ」
いつの間にかイーズも到着していた。
鱗の光学迷彩化もあるだろうが、とても静かに降りて来たようで気付くのに遅れた。
イドリーも居る。
メルカ達が居ないのは気になるが今は、それどころではない。
「覚悟は出来てんのよ。言いなさいよ、馬王! 恨んだりしない」
「聞いて、それでも目の前で滅ぶ様を見れるのかぁ!」
「だから! 覚悟は出来てるって言ってるじゃない」
こうしている間にも頭髪大蛇は修復してしまう。
このままならクコの捻じり切った大蛇が1番先に復活しそうだった。
「ええい! ここまで隠して来たのにか? お前の母の最後の望みだぞ! くそっ」
「いいから言って!」
怒鳴り合うヘーゼルと馬王に唖然としている間に遂に、その隠し事は告げられた。
「そのスカルフェイスは、お前の父親だ!」
薄々、気付いていたのだろう。
目を見開く事もなく、自然にヘーゼルの左目からキラリと涙がこぼれ落ちた。
その瞬間、クコの捻じり切った大蛇が復活した。
ヴゥウァァァァ!
「リバーシールド!」
クコの防御魔法は待ってましたとばかりに展開され見事に防ぎ切った。
「ありがと……」
小さく呟いたヘーゼルは次の瞬間、大きく叫び蝙蝠状の翼を広げ飛び上がった。
「闇深き爪ダークネスネイル」
魔力のありったけを込めたようなダークネスネイルが復活したての頭髪大蛇へ炸裂した。
「おいおいおい、ヘーゼルたん良いのかよ? なあなあなあ親だぞ父親!」
「……」
あれだけ、いつもべハイムに対して憎まれ口を叩いていたヘーゼルが何も言い返さない。
(スカルフェイスダークは父親で母親の仇なのか……)
「もう、いいわ。分かってた……信じたくなかっただけ……だから、もういい! 自分て手で葬る」
何度も何度も繰り返されるダークネスネイルで削られては修復する頭髪大蛇。
他の大蛇も修復完了が近いが、皆動けずに見ているしかなかった。
その光景は音のない世界でヘーゼルだけが藻掻いているように見えた。
これ以上やらせても虚しさが募るだけだろうか?
そう思ったら体が勝手にヘーゼルの腕を掴んでいた。
「もう、いい。もう止めよう」
「ちょっ、離して!」
ヘーゼルのチカラなら俺の手なんて振り解くのは簡単なはず、それをしないのは待ってたのだろう。
どうして良いか解らない。
きっと、そうなんだろう。
だったら親殺しなんて悲しい思いはさせたくない。
「俺が殺る……から」
スカルフェイスダークから引き離したヘーゼルは力なく座り込んでしまった。
暴れ続けているスカルフェイスダークの首に狙いを定めて剣モードのウロボロスを構える。
(殺るしかない……分かってる)
自分しか出来ない、自分に与えられた魔眼やウロボロスのチカラを、この時ばかりは呪うしかなかった。
娘の目の前で父親を殺めるのだ。
そうするしかない事は理解していてもヘーゼルは、それをやった俺の事を、どう思うだろうか?
たとえ恨まれたとしても殺るしかない。
閃馬の目が、そう伝えている。
雫の悲劇を伝え聞いているマテオの目も、そう伝えている。
大きく息を吸って。
覚悟を決めた……いや諦めた……
どうにも出来ないんだと。
「くそぉおぉぉぉ!」




