契約
「おいおい、そりゃねえぜ、あんちゃん! じゃあザクセンの願いは、もう使われちゃったって事かよ、なあ」
「おい、シスターメルカ、ソレは生きてるのか?」
「あらあら、不死の首神よ」
ザクセンは産まれた。
世界樹の最初の枝になった実から……
そして芽が出た時から世界樹とザクセンの事情も知らぬまま観察、調査していた修道院の神父やシスター、衛僧が集まり事情を聞いたり衣服を世話したりしている時に皇帝達が突如、現れた。
そして修道院の者を蹴散らしザクセンと何やら話し……
「もう……契約は結ばれた……次は百年先……」
「おいおい、ヘーゼルたん、しっかりしろよぉ、畜生、その皇帝ってヤツ死んでも許せねぇ! って死ねないんだけど」
そう、皇帝はザクセンと契約した。
問題は、その契約内容だ。
「魔眼を授かったと?」
「ああ、そうだ! 最初は別の要求をしたみたいだが、駄目だったみたいでな、代わりに魔眼を要求したみてぇだ、それも厄介な魔眼をな」
皇帝がザクセンに寿命を分けてまで手に入れた魔眼。
その名は……
『奪眼』
「人の魔眼を奪う魔眼ですって?」
「ああ、俺も奪われたし、修道院長も奪われたんだろうな」
サークルは幻想、実際の皇帝は全種混血などではない為、色々な種族スキルを実は使えない。
金眼もカシューと同じ過去視の可能性はあるものの全種混血としての魔眼でない事は明白。
その偽りの絶対的存在である皇帝が他人の魔眼を奪う魔眼『奪眼』を手に入れた。
それは今度こそ真の絶対的存在となった事を意味していた。
「衛僧長って魔眼でしたかしら?」
「ああ、お前ぇらが居た頃にゃ魔眼じゃなかった。最近魔眼になったんだ」
「そんな事ってあるんですか?」
「あらあら、何眼かしら?」
「話すと、ややこしいんだけどな天眼ってのだ」
「えっ!」
馬王の間で石笛の話や戦闘将の話を聞いていたイドリー達は天眼が何かを把握していた。
ポイ家に伝わる魔眼でポイテインガーが受け取りを拒否した話も聞いていたのだ。
「拒否したって聞きましたが?」
「やっぱりなアーモン達も、お前ぇらもカータに辿り着いたんだな……どうりで天眼の条件が揃う訳だ」
ポイテインガーが言うには『天眼』の継承には戦闘将の石笛が必要で、後は継承者と同じ閃馬色を呼ぶ一吹で条件が揃ってしまう状態でカータを捨てて旅立ったのだと……
「では条件を揃えない為に戦闘将の石笛を持ち去ったと?」
「まあな、だが完全体の閃馬なんて、そうそう呼べるもんじゃねぇからな、やり過ぎたと思ってたんだ。それで丁度良いから、もしもに備えてアーモンに持たせたんだが……で、誰が吹いたんだ?」
「あらあら、アーモンらしいわ」
これも環眼の宿命かと、つぶやいたポイテインガーであったが気を取り直したかのように問題は、その天眼を皇帝に奪われた事だと言った。
修道士の、ほとんどが石化したと言うのも修道院長の蛇眼を天眼で広範囲に波及させた効果だろうと……
ポイテインガーの話が、一段落したタイミングでヘーゼルが口を開いた。
「もういいわ、私は戻る、居る意味がなくなった」
「まぁ、そうなるわなヘーゼルたん。よっしゃ、もいっちょ飛ぶとするか」
「飛ぶのはべハイムじゃないじゃない、死ねばいいのに」
「励ましてんのに酷くね? ま、いっか、では子らよ、さらばである」
ここまで黙って話を聞いていたイーズが顔を曇らせた。
そしてヘーゼルと同じく戻ると言い出したのだ。
「ダーリン達の魔眼も奪いに移動した可能性が高いのじゃ」
魔眼修道士達の魔眼を奪い尽くした可能性が高い皇帝一派。
もしも、さらに魔眼を必要としているのであれば、かつてカシューとの旅の話をアーモンから聞いた皇帝は魔眼についても把握している。
アーモン達、白銀のスランバーを狙う可能性は充分あるだろう。
「では、わたくし達も戻りましょう」
ここで疑問を訴えたのはフラマウである。
「ここまで空を最短で飛んだのよね? 片翼の獣人で飛んでるはずの皇帝達と出会わなかったのは、どうして?」
「理由は分からんが、とにかく戻るのじゃ」
焦った様子のイーズはイドリー達が入って来たのとは別のルートで移動を始め、促されるようにヘーゼルとべハイムも着いて行ってしまった。
仕方なくイドリーとフラマウも追うがメルカはポイテインガーの負傷が酷い為、動けずにいた。
「イドリー様、エラトスとメルカを残して離れるのはどうでしょう?」
「確かに、ここ……魔眼修道院で起きた事の全貌も定かではないですし……うーむ」
「イドリー達は残るかの? 妾とヘーゼルで向かうゆえ」
「うむ、ではフラマウは残って下さい。わたくし一人で向かいます」
メルカの回復力、エラトスの近接攻撃力、フラマウの魔法攻撃力。
バランスを考えればエラトスと役割の被るイドリーが残るよりも、そうなるだろう。
この三人であれば何か起きても少々の事は対処可能なはずだ。
皇帝達が修道院から完全に離脱したかどうかも定かではない状況、かと言ってアーモン達に危険が迫っている可能性もある。
両方に対処するには二手に別れるよりなかった。




