栄枯盛衰
かつてラマーニ修道院から旅立つ時に遭遇した巨大なサンドワームのいたドーム状の天井がある、あの場所へとイドリー達は向かっていた。
「あらあら、あの大聖堂みたいな場所から生えてるわね、この樹」
「馬王の言っていた通り、あの場所でザクセンが復活したのでしょう」
「おいおい、それより変な音がしねぇか? なあなあヘーゼルたんよぉ」
首神べハイムの言う通り、大聖堂に似たドーム天井の方から音が聞こえていた。
そして絡み合った枝葉の隙間から光が漏れ、遂にドーム天井へと辿り着いた時に見えたのは……
「奴らは、どこへ向かった!」
「だから知らんと言っておるのじゃ!」
「え?」
「なんで?」
枝葉の隙間から見えたのはイーズの戦う姿であった。
「どいて! 闇の爪ダークネスネイル」
ヴァシュン!
「イーズ!」
「衛僧長!」
「あらあら、ポイティンガーだわ」
そうイーズと戦っていたのはラマーニ修道院の衛僧の長ポイティンガーであった。
かつてアーモン達に戦い方と魔力の流し方を教え、後に草原の民の戦闘将となるはずだったと知ったポイ家の末裔だ。
「お前ぇさんら、どう言う事だ! こいつは仲間か?」
「そうよイーズはアーモンの仲間なの」
「なんでぇ、奴らの……皇帝達の仲間じゃねぇのか?」
「だから違うと言っておるのじゃ」
ほっとしたのかポイティンガーは、その場に座り込んでしまった。
よく見れば、その姿はボロボロで片方の腕はブラリとなって折れている事が分かった。
「……癒やし抱きたまえヒーリング」
「……すまねぇ……」
すぐさま回復魔法を施すメルカをチラリと見たポイティンガーは、どっと疲れが出たかのように倒れ気を失ってしまった。
「おいおい、こりゃ動けるダメージじゃねえぞ、よくソイビーと戦えてたもんだぜ、なぁソイビーよぉ」
「なかなか強かったのじゃ、腕が折れてなければヤバかったかもしれん」
ドーム天井空間は、かつて訪れた時には砂に埋もれていたが今では、すっかり砂が取り除かれ古びては、いるものの厳かな大空間となっていた。
その大空間を埋めるかの如く世界樹が見事な枝振りで四方八方へと伸びていた。
「それで、何で先に着いてんのよ? あんた」
「おう、そうだ! そうだ! ソイビー」
「この老いぼれ首っころが忘れおってからに、かつて祀られておったであろう? 妾も、そなたも」
そう言うとイーズは世界樹の枝葉の隙間から見えるドーム天井を指差した。
そこには消えかかっているものの見事な天井絵が描かれていた。
「あっ!」
皆が声を揃えて驚いたのだ。
そう、そこにはホーリードラゴンの天井絵が描かれていたのである。
「なるほどイーズに乗せてもらった時に、どこかで見た気がしていたのはコレでしたか!」
「あらあら思い出したわ」
サンドワームを倒した時にイドリーもメルカも天井絵を見ていたのだ。
「あぁー、思い出したぜぇ、助けた村人が、スゲー勢いで発展して栄えまくった、あの街かぁ、懐かしいなぁ、なぁソイビー」
「最初は良かったのじゃ」
その昔、とある村を救ったイーズとべハイムは村人を、この地へと運んだ。
村人達は荒れ果てた荒野を命の恩人であるイーズとべハイムへ報いる為に必死で開墾し、やがて水脈を見つけると驚く速度で発展をし栄華を誇る程の街へと育て上げたのだ。
だが……
「ああ、そうだった、奢り高ぶり、みるみる間に転落人生ってな! 街が砂に埋まるなぁ、発展する速度の倍は速かったぜ、なあソイビー?」
「で、その旧都で神として崇められてたのですね」
絶大なる神としてホーリードラゴンは崇められ添え物の如く少し崇められていたのがべハイムであったのである。
そんな昔話が終わった頃にポイティンガーは意識を取り戻した。
「ちっ、眠っちまったか……お前ぇさんら上は、どうなってっか知らねえか?」
「皆、石化していました」
「ちっ、やられたか……くそ!」
「何が起きたのですか? 衛僧長のあなたが、こんなにも負傷するなんて」
ポイティンガーの話は驚愕という他なかった。
そして、その話はヘーゼルの長年の望みが叶わぬモノとなった事を告げていた。




