修道院の異変
「なあなあ、ヘーゼルたん」
「うるさい! 死ねばいいのに」
「ええ、酷くね? てかさ、見なくて良かったの? スカルフェイス、同族の」
「……いいのよ……だって可能性はゼロじゃないじゃない」
さすがは魔族と元神。
イーズは超高速で飛びながら横を飛びつつも平然と会話するヘーゼルとべハイムを横目で見て、そう思った。
(こっちは、しがみつくのが、やっとなのに)
同じく横目でヘーゼルとべハイムを見たイドリーは、そう思っていた。
メルカとフラマウは目を開ける事すら出来ずにいた。
エラトスは未だ首だけで話す訳の解らない男が何者なのかも教えて貰えず、初めて見たホーリードラゴンに乗せられて信じられない速度で空を飛んでいる状況が頭の中で整理出来ていなかった。
「見えたのじゃ」
それはエラトス、イドリー、フラマウ、メルカにとっては懐かしい砂の景色であった。
大量の砂を撒き散らし降り立ったホーリードラゴンと魔族の少女。
さぞかし砂漠の修道院では大騒ぎになっているだろう。
イドリー達は、そう考えた。
直接防壁内へ降り立つ事も出来たがトラブルを避け正式な入壁申請をする事にしたイーズ達である。
もちろんイーズは人型への変化を降り立ったと同時に終えている。
イドリーにとっては、かつて砂漠の商人として何度となく繰り返して来た慣れ親しんだ検査だが……
「入壁検査の衛僧がいないなんて、ありえません!」
「くそっ、何かが起きてる」
勝手知ったるラマーニ修道院へいち早く駆け出して行ったのはエラトスである。
「メルカも様子を見て、私は新しく出来た旧都の入口へ他の人達を案内するわ」
アーモン達が魔眼修道院を去ってからも1人残っていたフラマウだけが旧都への新しい入口を知っていた。
「誰もおらんのじゃ」
本来であれば多くの修道士達が日課や周課を行っている時間帯だが時折吹く風が砂を運ぶだけで誰一人建物の外には見えなかった。
「こっちよ」
かつてアーモン達が脱出した井戸は周辺を掘り下げられ階段が設けられ旧都への入口と井戸の機能を上手く切り分けていた。
「おいおいおい、こりゃ何だ! 入れんのか? これ」
「そんな!」
「ちっ、もう世界樹がこんなに」
入口を塞ぐ程に育った植物は蔦等ではなく確かにヘーゼルの言う樹の枝らしき姿だった。
だが樹の枝が、ここまで建造物を侵食するには膨大な月日が掛かるはずでフラマウが最後に見てからの期間であっても、とても起こり得るはずのない状態であった。
その世界樹らしき植物を躊躇いもなくヘーゼルは闇属性魔法ダークネスネイルで砕いて走りだす。
濃い紫色の魔力を纏った手を掻く度に鉤爪状の裂傷が枝葉を散らした。
「こ、これは!」
エラトスが急いで駆け込んだのは、かつてオマモリ班が販売をしていた建屋であった。
「まさか修道院長が?」
イドリーが見たのは大聖堂の中の驚くべき光景であった。
「そんな……」
メルカが見たのは、かつてカシューやマルテルと共に時間を過ごした薬剤生成室である。
そこで見たのはエラトス、イドリーと同じく信じれない光景であった。
砂漠で多くの修道士が暮らすラマーニ修道院。
魔眼持ちの子供達が預けられる事から別名『魔眼修道院』多くの魔眼持ちの衛僧を抱える事から下手な国よりも攻めようのない場所とさえ言われる特殊な修道院である。
その砂漠の修道院に暮らしていただろう人、滞在していただろう商人や旅人、その全ての人が……
「石化してる!」




