大蛇
青と碧の閃光。
一筋の閃光と共に現れた馬王の戦闘形態である閃馬は、その体の形すら視覚出来ない程のスピードで何体にも分裂する。
それと同時に禍々しい黒色の魔力が侵食するかの様に吹き出した。
辺り一面を黒色魔力が一旦覆ったが本体と思われる閃馬が蹄を一踏みした瞬間、吹き飛んだ。
「ありゃ何だぜ」
「忌々しい! 面影はあるが進化してやがる」
「蛇が頭から生えてるって言ってたけど、これって……」
馬王から聞いていたスカルフェイスダークの姿、封印される前の姿は前の世界のギリシャ神話に出て来るメデューサに似ていると想像していたが、その姿は想像を超えていた。
「思ったより大きいよー、です」
「これじゃヤマタノオロチだ」
「アーモン、なんですか? ヤマノオロオロって?」
「……マテオ……黙ってお」
未だ佇むだけのスカルフェイスダークだが、黒色魔力だけでなく姿までもが禍々しかった事でマテオとクコのやり取りさせ誰の耳にも入ってはいなかった。
「見とっても仕方ないわぁね、行くわぁね」
アカゲザル系の獣人アルワルが大鎌を器用に振り回しながらスカルフェイスダークへ斬りかかった。
するとスカルフェイスダークの頭から生えた何本かの大蛇の一匹が鎌首を持ち上げ目を見開いた。
「クコ! アルワルさんを防御して」
ラッカが叫んだと同時にクコは防御魔法をアルワルの前へ展開した。
ヴァキュキュ!
「うおっ」
その大蛇の瞳は黄緑一色で気色の悪い光り方をしていた。
「今のは? 闇魔法?」
何が起きたのか把握仕切れなかった草原の民が質問したが仕方なかろう普通なら見た事が無いのだ。
「慟哭だぜ」
「ピスタ殿の武器と同じでありますな」
雪豹獣人コスマスは冷静だ。
「スカルフェイスはダークに限らず今の攻撃、慟哭が主となる攻撃手段です。気を付けて!」
なぜか仕切るマテオだが皆、自分の目の前の大蛇から目を離せずにいる為、気にする余裕すらない。
「毎度、毎度、防御魔法って訳にもいかん防御は任せろ構わず攻撃だ! 行くぞ」
何体もに分裂した閃馬が一斉に、そう言った事で皆のスイッチが入った。
「いっくぜー!」
ピスタの慟哭銃が炸裂しピスタの前に横たわっていた大蛇へと当たりダメージを与えたかと思われたが……
「相殺された?」
「あちゃー、ボクの武器、今回はダメだぜ」
同じ慟哭な為か? ピスタの慟哭武器は慟哭によって打ち消されてしまった。
「危ない!」
突然速度を速めピスタに迫る大蛇へ鞭攻撃が打ち付けられ当たった場所から凍結を始めた。
慟哭を打ち消された隙きを狙われたピスタを間一髪コスマスの攻撃が救ったのだ。
「ありがと、助かったぜ! それって普通の鞭に魔力流してるんだぜ?」
「そうだが、流すと言うより奏でておる」
コスマスは詠唱を鞭の空気を切る音によって奏でる特殊な攻撃魔法の使い手であった。
ピスタとコスマスの攻撃を皮切りに各々が攻撃を始め、大蛇もまた、一斉に鎌首をもたげ始めた。
そして大蛇の下から現れた顔は……
「スカルフェイスよ」
その姿は確かに魔族らしい出で立ちでヘーゼルが纏っていた様な皮の鎧を身に着けていた。
但し長い年月を感じさせる程にボロボロとなった鎧だ。
「魔湖で見たのと似ており申す」
そうだ慟哭を見た事はなくても今、ここにいる精鋭達は皆、魔湖訓練をクリアしているのだ、その中でスカルフェイスを見ている者も多い。
「思ったより何とかなりそうよー、です」
ペカンの両隣にはヴァルトゼとファンデラが立ち並び要所要所で互いにサポートしあっている。
遠隔でペカンが弓攻撃、ヴァルトゼがファイヤーウォールで防御、ファンデラが近接攻撃だ。
確かに何とかなりそうな攻防だが、どうしても本体へ近付けもしない。
それはペカン達だけでなく皆も同じだった。
「何か変だぜ」
ピスタの見立ては魔眼『解析眼』を使わずとも的確なのは知っての通りだ。
「ああ、ピスタの言う通り変だ本体がピクリともしねぇ」
馬王の話ではスカルフェイスダークは凶暴で速いはずだが頭から生えた大蛇が速く動くだけで本体は微動だにしなかった。
「それなのに、その本体に近付けもしないなんて!」
「覚醒直後で動きが鈍い可能性もあり申す」
「魔力を温存するより一気に攻めてみますか?」
戦闘将ヘレフォーの考えはもっともだ。当初、前半は敵の動向を探る為に魔力を温存しようと作戦上はなっていたが、この機を逃せば後悔するかも知れない。
「だから言っただろうがぁ! 攻撃あるのみだ!」
荒ぶる閃馬の指示は無視。
これは馬王のいない場所で申し合わせていた事だが今は皆が同意見であった。
「点眼を発動だぁね」
「馬眼を発動し申す」
「解析眼いくぜ」
「……俯眼……だぁね」
「千里眼よー、です」
「魔環を再発動したわ」
「金環で絆ぐ」
魔眼持ちは全員が一気に発動、魔眼持ちでない者もそれぞれが魔力を惜しまずに魔法攻撃に移行した。




